5月31日、6月1日に駒場Ⅱキャンパスで開催された東大駒場リサーチキャンパス公開。研究者が日頃の成果を発信する一大イベントで、東大の科学研究の盛んな様子が見て取れる。また科学が好き、研究をしたいという思いで集まる理系学生も多く、彼らに対する教育にも東大は力を入れている。しかし、このように理系教育や科学研究が盛んな場所では、理系特有の珍妙な言動や習性(=「理系あるある」)を見せる「理系バカ」が学生や研究者に散見される。今回は理系あるあるを題材にした著作を持つ作家と漫画家に取材した。(取材・村松光太朗)
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(by 小谷さん・山本さん)
理系の知識を日常に絡める ~科学作家・小谷さん~
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Twitter:@tarokotani
小谷太郎さんは研究生活の間に観察した理系の習性を著作『理系あるある』にまとめた。執筆の動機や、東大の理系学生へのメッセージを聞いた。
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研究から著作活動へ
理学部物理学科の時代から、X線検出器で高エネルギー天体を探る研究をしてきました。博士研究員として国内外を渡り歩いた時期に、他の研究者の書いた原稿の校閲を頼まれました。それが縁で、編集者から「自分の本を書いてみないか」と誘われました。
話に乗り『宇宙の不思議』(ナツメ社)を執筆し、おかげさまで好評でした。それから執筆の仕事が増え、今では大学教員として講義を行う合間に執筆しています。
理系という種族の生態
この『理系あるある』は理系人の習癖を紹介するスタイルの科学解説です。理系人のばかばかしい言動の意味やどこが面白いのかを知るには、理系的な背景知識が必要です。文系人にも分かりやすく理系の生態を伝える手掛かりとして書いたつもりです。
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(by 小谷さん・山本さん)
日常生活と理科が結び付く
思い返せば中高時代から理系あるあるを体現していました。よく「授業で習うことはつまらない」といわれますが、それが身近なものと結び付くと、生きた知識になります。例えば、走る救急車のサイレン音の変化がドップラー効果で説明できる。文理関係なく多くの東大生には、この「授業の知識を日常に絡めて面白さを見いだす」姿勢を共感してもらえるのではないでしょうか?
理系=実家のような安心感
当時、自分が理系だという自覚はなく、変人と呼ばれる理由がよく分かりませんでした。理解したのは、進級し「理系」と呼ばれる集団に区分されたときです。周囲に自分と近い性質を帯びた人がいて、安心感とうれしさを覚えました。『理系あるある』を理系の人が読んで面白がるのは「自分は理系だ」という帰属感が得られるからかもしれません。
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(by 小谷さん)
世間なんて困惑させておけ
執筆活動には「科学を伝える」という軸こそありますが、伝えた知識を世に役立ててほしいとは思いません。私自身、天文分野が世にどう役立つか分かりません。学問は役に立たなくても構わず、むしろ社会が学問のためにあると考えます。人間の営みよりも宇宙の法則に興味がある、そんな「理系あるある」な態度が世間を困惑させることも多いでしょうが、どんどんやってください。(談)
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(by 編集部)
難しそうな世界を面白く ~漫画家・山本さん~
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Twitter:@man_arihred
「この恋、0か1か証明するぞ!」。大学の研究室で理系男女が互いの恋愛感情を証明しようと奮闘するラブコメ漫画『理系が恋に落ちたので証明してみた。(以下、リケ恋)』。作者の山本アリフレッドさんに、作品への思いや理系に対する愛着を尋ねた。
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(C)山本アリフレッド/COMICメテオ (C)フレックスコミックス(税込み616円)
1ページ漫画がきっかけ
デビュー作の完結後、1ページの漫画を描いてインターネット上に投稿し、多くの反響が得られた作品を基に連載企画案を作ろうとしました。図はそのうちの1つで『リケ恋』の原点です。ちょうど編集部から新連載の依頼が入り、人気だった図を連載化する流れになりました。
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自身の大学経験との共通項
『リケ恋』の舞台のモデルは、私が在籍した埼玉大学工学部情報システム工学科(現・情報工学科)の研究室です。さすがに主人公たちのように過激な理系学生はいませんでしたが、一見イケイケ系のオタク・虎輔(こすけ)は研究室の同輩がモデルです。また作中に頻出する作中に頻出する巡回セールスマン問題は、私の卒業論文の題材です。
指数関数的に増える理系愛
作中の理系ネタは、逐一インターネットで調べたり専門家に聞いたりしています。執筆の準備は正直大変ですが、かけた時間に比例して「理系は面白い」という愛着が強くなります。
別に「理系の素晴らしさを伝えたい」と思って始めたわけではありませんが、一般的に難しく思われがちな理系の世界を面白おかしく簡潔に伝えることで、読者に理系への憧れを持ってもらえるのなら最高です。
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(by 山本さん)
人の目なんて気にするな
「理系あるある」な言動は、頭の良さをひけらかしているように聞こえるとよく耳にします。確かにそのような人もいるでしょうし、そう思われたくない人は慎むべきかもしれません。
しかし私は、気にせずとも良いと考えます。他人にどう思われようが、自分の興味や世界の真理を突き詰める。東大生なら、物事を突き詰めて考えられる体質や頭脳も持つ人は少なくないはず。日頃からその姿勢を貫き、理系あるあるを体現してください。(談)
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(by 編集部)
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東大理系の実態に興味津々だった山本アリフレッドさん。今後『リケ恋』に東大ネタが出てくるかも?
この記事は5月28日号の拡大転載版です。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。
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研究室散歩:@復興デザイン 窪田亜矢特任教授(工学系研究科)
はじめての論文:橋本摂子准教授(総合文化研究科)
キャンパスガール:髙地美香さん(文Ⅲ・2年)
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