インタビュー

2021年3月27日

想像もしなかったような未来へ 四本裕子准教授から新入生へメッセージ

 2020年度に引き続き、オンライン授業という異例の状態で入学を迎える新入生。そのような中でも東大で学ぶに当たり大切なことは変わらない。前期教養課程で「心理Ⅰ」などの授業を担当し、オンライン授業の導入にも携わった四本裕子准教授(東大大学院総合文化研究科)に、現在の東大の抱える問題、新入生に持ってほしい視点などについて聞いた。

取材・鈴木茉衣)

 

好きを追究すること

 

──東大を志望した理由を教えてください

 

 20年以上前のことなのであまりはっきりとは覚えていませんが、田舎の進学校の出身で東大を目指すよう言われていて、周りの同級生もそうしていたからだと思います。東大でやりたいことなどは全然なくて、とにかくどこかの大学に行ってから考えよう、という気持ちでした。

 

──実際に入学して、入学前に想像していた大学生活と比べてどうでしたか

 

 予想通りだったのは、高校の勉強と全然違うということです。高校では科目ごとに教科書がありますが、大学に入ったら自分で好きなことを勉強できますし、教科書ではなく先生のスライドなどに沿って学びます。

 

 また、同年代でこんなにいろいろな人がいるんだな、という驚きもたくさんありました。それまではあまり出会ったことのないような、例えば音楽への造詣が深かったり、劇団に所属して演劇を追究していたりと、勉強以外のことについて自分が知らない世界を知っている人がいました。

 

──宮崎県のご出身ですが、地方出身だからこその苦労などはありましたか

 

 初めてアパートで1人暮らしをしたので、新しい経験の連続でした。私は狭いアパートに住んで電車の乗り換えなどでいっぱいいっぱいなのに、首都圏出身の同級生は私が知らないことをたくさん知っていて大人びているように思えて、気後れしたのを覚えています。

 

──学生時代、どんなことを考えて勉強していましたか

 

 自分が面白いと思うことにしか興味を持っていなかったです(笑)。とにかく本をたくさん読み、アルバイトや旅行もして学生生活を満喫しつつ、自分の好奇心を満たしていました。進路についても、興味のあることをやっていったら上手くいった、という感じでした。好きなものを追究することはすごく大事です。人を幸せにすると思います。

 

──自身の学生時代と比べて、現在の東大生はどう変わりましたか

 

 今の東大生の方がよく勉強していると思います。私と私の周りの人が勉強していなかっただけかもしれませんが……(笑)。学びに真剣な人が多くなったと感じます。進振り制度(現在は進学選択)は昔からあるのでなぜそうなったのかは分かりませんが、今時の学生がある意味成熟しているんでしょうか。

 

──東大についてはどう変わったでしょうか

 

 組織としての東大については自分が学生から教員になって視点が変わってしまったので何とも言えません。キャンパスについては、建物が新しくなったりと近代的になったな、と感じています。私が学生の時はキャンパス内に駒場寮があったので、住んでいる人がパジャマのような格好で歩いていたりすることもあるような雰囲気でした(笑)。今の学生はおしゃれで清潔感がある感じがします。

 

──新入生に伝えたい東大の魅力は

 

 恵まれた学びの環境です。これだけバラエティーに富んだ授業を自由に選べて、一流の研究者に教わることができて、キャンパスの施設も充実している、この環境を国立大学の学費で手にすることができるのはとても恵まれていると思います。駒場Ⅰキャンパスが駅から近くて、渋谷や下北沢へのアクセスが良いのも大事ですね(笑) 。

 

学生の学びを止めないために

 

3月から4月にかけて、研究科長特任補佐としてオンライン授業の導入に尽力した(写真は四本准教授提供)

 

──オンライン授業の導入に尽力されていました。当時を振り返ってどのような思いがありますか

 

 どうやって生きていたのかがあまり思い出せないくらいです…。睡眠時間も体重も減りました。3月の半ばから4月の1週目ごろまでという短期間で、入学を後ろ倒しにせず授業を全てオンラインにしたので本当に大変でした。ただ、大変だったのは学生も同じなので、自分だけだとは思っていません。

 

──導入に当たり意識していたことは何ですか

 

 教員の共通の目標として、学生の学びを止めてはいけない、と考えていました。この状況でもどうにかして教養学部の教育を供給しよう、という思いがあったからなんとかなったのだと思います。

 

 学生一人一人が取り残されないようにすることにも留意しました。パソコンを持っていない人や家にインターネット回線がない人に大学としてパソコンやモバイルルーターのレンタルを行うなど、環境面への配慮です。メンタルヘルスについても、特に地方から出てきたばかりで家族も頼れる友人もいないような学生にどのような支援を行うか議論し、窓口を設けました。

 

 既にオンライン授業のやり方が整っているので、今度入学してくる皆さんにとってはその恩恵があると思っています。去年の今頃はZoomなんて使ったことのない人がほとんどだったことを思えば、人間って変われるものですね。

 

──実際に授業をする中で、オンライン授業の特徴は何だと思いますか

 

 聞きやすくなったのか、学生からの質問が増えました。それに質問の内容も変化しました。以前はちょっとふざけたようなコメントなどもたくさんありましたが、オンライン授業で友達と一緒ではなく1人だとそういう雰囲気にならないせいか、とても学生が真面目な気がします。逆に心配になりました(笑)。

 

──オンライン試験についてはいかがですか

 

 二度とやりたくないです…。学生にも慣れない環境でプレッシャーだったと思いますし、採点も大変でした。私の授業は受講生が多いので例年はマークシート方式の試験を行っているのですが、今年は記述式でやって、自分1人で採点しました。とても量が多く、トラウマです。来年度は試験だけでも対面でやりたいです。

 

──オンライン授業でも変わらないことはどんなことですか

 

 特に前期課程では、これだけは大学で教えておきたい、ということをオンラインでも対面でも教えるので、内容は私にとってはほぼ変わらなかったです。違うのは学生との距離感ですね。また、後期課程の実験演習などは対面でないと厳しいです。

 

──オンライン授業が継続され、次の新入生も異例の状態で入学することになりますが、アドバイスはありますか

 

 心と体の健康を維持してほしいです。1人でパソコンの前で授業を受けるのはとても孤独だと思います。孤独を感じた時には、ぜひ大学の学生相談所や教員、友達や家族などにその気持ちを伝えてください。抱え込まずに外に出すことで、きっと少し楽になれます。一部対面の授業もあるので、そういった機会も利用してください。とにかく閉じこもって追い詰められた状態にならないでほしいです。

 

 

自分の「当たり前」見つめ直して

 

──現在の東大の抱える問題の中で、新入生をはじめとする東大構成員に特に意識してほしいことはありますか

 

 東大にはいろいろな人がいますが、構成員の多様性はまだまだ足りないと思っています。男女比もそうですし、都心の進学校出身の人が多いこともあります。そのように、構成員の持つバックグラウンドに偏りがあることを認識する必要があると思います。今の環境が全てではなく、世界にもキャンパスにもいろいろな人がいます。高校卒業まではとても小さなコミュニティで生きている人がほとんどですが、今の環境が全てではなく、世界にもキャンパスにもいろいろな人がいます。多数側に属さない人に思いをはせて、どのような態度で過ごしていくべきか考えられると良いです。

 

──視野を広げるにはどんなことができるでしょうか

 

 前期教養課程の授業ではいろいろなことを学べるので、大学での学びを通して視野を広げられる、ということはあると思います。

 

 キャンパス内にいろいろな国から来た留学生もいるので、つながりを広げていってほしいです。自分の当たり前は必ずしも他の人の当たり前ではないということを、大学でいろいろな人と出会って学ぶ中で考えてみてください。

 

──新入生に、東大で学ぶにあたり持ってほしい視点はありますか

 

 私が新入生だったのはちょうどMicrosoft Officeが生まれた年です。ITバブルの時期で、その関係のベンチャー企業も沢山生まれたのですが、立ち上げた人たちは私と同世代なんです。

 

 それを考えると、オンラインで全てのことをやるようになったこの時期に新入生になる人は、今まで私たちが想像しなかったような未来を創る最初の世代なのではないかと思います。恵まれた環境で学ぶことができるので、自分がどうしたいかだけではなく、これからどんな社会を作っていきたいかという視点を育ててもらえるとうれしいです。

 

──最後に、新入生へのメッセージをお願いします

 

 またキャンパスに通えるようになったら、学生の皆さんにすごく会いたいです。学生に会えないというのは教員にとってもストレスです……。4月に希望に満ちた新入生がキャンパスにたくさんいて、教室で講義を受けてくれるというだけでも刺激的で、とっても幸せなことなんですよね。

 

四本裕子(よつもと・ゆうこ)准教授(東京大学大学院総合文化研究科)
05年米ブランダイス大学大学院博士課程修了。Ph.D.(心理学)。慶應義塾大学特任准教授などを経て、12年より現職。
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