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2023年8月1日

【東大野球】春季リーグ総括(前編) 機動力野球にかげり 中軸担える人材は依然見つからず

東大野球 振り返り 打線・走塁

 春のリーグ戦、1分11敗と勝利を挙げられず51季連続の最下位に沈んだ硬式野球部。最初のカードでは昨年春から3季連続優勝の明治大学に終盤まで互角の試合を展開し期待感が高まったものの、その後のカードは大差で負ける試合も目立った。本企画では、記者が今季の戦いを振り返る。前編の今回は打線に目を向ける。なぜ新戦力の顕著な台頭を勝利にまでは結び付けられなかったのか。(後編の投手・守備編は9月上旬に公開予定)(取材・新内智之)

 

依然として得点力不足も、芽吹きは着々

 

 今季の打線はひたすら苦しんだ。総得点は11試合で18点、1試合平均約1.6点。先制できた試合はわずか2試合で2点以上相手からリードを奪った場面は一度もなかった。記者席から見ても重苦しい空気が流れる時間が長かったように感じる。しかし、意外にもチーム打率は昨年の.158から.175へと改善しているのだ。

 

 実際に、戦力の底上げには成功している。何より、酒井捷(すぐる)(文Ⅱ・2年)の活躍は目を見張るものがあった。シーズンを通してリードオフマンを務めあげ、打率.270はチーム内で他の追随を許さない。優れた選球眼で出塁率も高く、再三得点機を演出。好機では走者を帰す打撃も見せ、場面を問わず実力を遺憾なく発揮した。しかも、彗星(すいせい)のごとく現れた新星はまだ2年生、今後のさらなる進化が楽しみだ。

 

酒井 ホームラン
酒井捷は本塁打も放ち、3盗塁と3打点で獅子奮迅の活躍を見せた(撮影・新内智之)

 

 つなぎの選手や下位打線も輝きを見せた。矢追駿介(農・4年)や藤田峻也(農・3年)は犠打で走者を進めたりしぶとい打撃で自らが攻撃の足掛かりになったりといぶし銀の活躍。試合によって打順が変わる中でも与えられた役割を果たした。山口真之介(薬・3年)は途中交代の試合も多かったが、立教大学戦では意地の満塁本塁打を放ち持ち前の勝負強さをうかがわせた。下位打線が充実し、下位から上位へ打線のつながりが生まれ始めた東大打線は対戦校の大きな脅威となるはずだった。

 

山口 満塁本塁打
山口真の本塁打は敗色濃厚だった試合を引き分けに持ち込む起死回生の一打だった(撮影・ 松崎文香)

 

軸なき打線 全員に負担

 

 では、何が打線に重苦しさをもたらしたのか。最大の誤算は今年も中軸を固定できなかったことだろう。昨年から打順が試合ごとに大きく入れ替わる「日替わりオーダー」が課題の東大だが、開幕前は甲子園出場経験があり昨年主力として全試合に出場した別府洸太朗(育・4年)、梅林浩大(育・4年)の2人が今季の中軸として大きな期待を受けていた。しかし、シーズンで2人は深刻な不調に陥る。当初4番だった主将・梅林は今季わずか1安打で立大戦以降スタメンから姿を消した。3番打者としてスタートした別府は後半のカードで4番も張ったが、結局最後まで復調せず打点は2止まり。結局、慶應義塾大学戦以降はそのときの調子に応じて中軸を担う打者が目まぐるしく変わった。

 

 もちろん中軸2人の不調は打線の分断につながるためチームにとって痛い。下位打線から上位へのつながりが生まれつつある現状ではなおさらだ。しかし、このようなチーム状況では精神的支柱を生み出すのが難しいことも忘れてはいけない。「この人ならなんとかしてくれるはず」というチーム内外からの期待に押しつぶされずに結果を残せる存在は貴重だ。ほかの選手に安心を与え、彼らが自分の特徴を発揮しやすい環境を作り出せるからだ。東大はほかの5大学に地力ではかなわない。試合の主導権を握るにはゆるぎない中軸の確立が不可欠だろう。

 

主将・梅林
屈辱のシーズンとなった梅林。集大成の秋季リーグで雪辱を期す(撮影・新内智之)

 

警戒を受け揺らぐ機動力野球

 

 とはいえ、たとえ主軸を確立できたとしても、打ち合いで勝利を目指すのは難しいだろう。そこで、効率的な得点を目指して磨き上げてきたのが機動力だ。確かに今季も盗塁数は12とリーグ2位タイの多さ(1位は明大の15)で4人の選手が二つ以上盗塁を記録。その威力を存分に見せつけているように見える。しかし、気がかりな点もある。直近2年間・4シーズンに比べるとその数が減少しているのだ。近年で最多だった2021年春季の24からは半減している。

 

 もちろん、盗塁は走者が出なければそもそも不可能だし、失敗すれば走者を失うリスクもある。犠打のような手堅い策を取るべき場面も時にはある。ただ、今季は多数のけん制や捕手の強権に萎縮したのか、下位打線に向かう中で走者一塁から積極的な仕掛けがなかったり、二塁送球が考えづらい一、三塁の状況でも初球打ちで無得点、あるいは安打で1点止まりに終わったりともったいない場面がしばしば見られた。

 

 盗塁以外でも、走者二塁など最低でも進塁打が欲しい状況で三振や浅い飛球に倒れ走者が進むことすらできない場面も散見された。連打や長打が期待できない東大が勝利を目指すためには、抜け目ない攻撃でより多くの走者を一つでも先の塁に進めて相手投手にプレッシャーをかける必要がある。緻密さをさらに洗練させ秋季リーグに臨んでほしい。

 

機動力 得点
けん制を誘い得点につなげる場面もあったが、ほか5大学も対策を講じている。機動力のさらなる洗練が求められる(撮影・ 松崎文香)

 

【記事修正】2023年8月3日21時20分 3段落目の表現を修正しました。

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