先日に開催された、弊社主催のプログラミングコンテスト「東大ガールズハッカソン」に関わった東大女子に向けて、協賛の一つであったヤフー株式会社から「オフィスツアーにご招待します」という招待状が届いた。
ヤフー株式会社のオフィスといえば、去年の十月に移転したばかりであり、社外の人が自由に利用することのできるコワーキングスペースを備えていることなどで話題になっていた。筆者は男子であったが、企業を見る際の女子の目線や、また女子に限定したツアーをヤフーがどのように組み立てるのかに強く興味を抱いたので、取材させてもらうことにした。新オフィスで働く人々の声やその設計の意図などは検索すればいくらでも出てくるので、本記事ではツアーを通して、見て聞いて感じたことをなるべく率直に記すことを心がけようと思う。
(文・写真:千代田修平)
十時半、永田町駅から直結の東京ガーデンテラス内にあるオフィスに到着する。十八階の受付ロビーにいる「けんさくとえんじん」というキャラクター前で集合。
まずはお昼まで社員による「キャリアトーク」が行われるということで、会議室に案内された。「キャリアトーク」という言葉に既に就活めいた空気を感じる。いったいどのようにして東大女子にヤフーをアピールしていくのだろうか? 続々と集まってくる女子たち。部屋に男子一人という状況に筆者は少しドギマギしていたが、女子の皆さんはいたってリラックスしているようだった。
まずは自己紹介ということで、それぞれ名前と所属と、現在やっているアルバイトを答えていった。ガールズハッカソン参加者なだけあり工学部が若干多かったが、法学部や教育学部もおり、また学年はバラバラでバラエティに富んでいたように感じた。しかし、しているアルバイトは東大生らしく、塾のチューターや添削バイトといった教育系が目立った。
そしてヤフー社員によるキャリアトークが始まる。一番手は大森さんという方で、「私の経歴と仕事について思うこと」と題したトークを行った。
大森さんは一度新卒でヤフーに入社した後、パートナーについてアメリカに移住した際に退職し、その後再びヤフーに入り直したという経歴の方だ。なぜヤフーなのか。大森さんは後半で就活について話した。強調していたのは「仕事における優先順位をはっきりさせよう」ということだった。大森さんは、給料などは二の次で、「とにかく楽しいと思える仕事ができればよい」という基準を持っていた。それに合致するのがヤフーだったとのことだ。ツアー参加者の女子たちのほとんどはまだ就活を始めておらず、きたるべき時に備えてのアドバイスを熱心に聞いていた。
続いては総務省に勤めていたという今村さんの「霞が関とヤフーでのお仕事」と題したトーク。
総務省での仕事とヤフーでの仕事の両方を紹介し、それぞれに共通することという切り口で比較を行った。共に。総務省ではテレワークを推進し、ヤフーでは「どこでもオフィス」やフレックスタイムの導入することによって、子供を持つ女性の活躍を支援している。ヤフーが取り組んでいる、月に五日間はオフィス外のどこでも業務を行えるという「どこでもオフィス」は面白い試みだ。
他にも、人事部の吉竹さんによる「数値でみる女性活躍状況」や、Yahoo!ニュース担当の涌井さんによる、「公共性と社会的関心の二軸をもってニュースを配信している」という話、このトークでは唯一の男性となった塚本さんの「ヤフーにおけるデータとサイエンスを用いたビジネスの改善」についての話があった。
キャリアトークは全体を通して、企業説明会のような雰囲気のなかで企業説明会のような内容が話された印象だった。それで十分と考えているのかもしれないが、せっかくならもう一歩踏み込んだ話があればと思った。例えば女性の働き方についての話題は五人中三人が触れるなど比重が大きかったが、実際に育児の経験がなく、ましてや就活も行ったことがなく他の企業の水準もわからない学生にはどの話もピンとこなかったのではないかと思う。例えば「数値でみる女性活躍状況」において、2015年度の育児休業取得者数が227人であるという数字が出てきたが、これがどうすごいことなのか理解できた学生はあの場にはいなかったのではないだろうか? それよりも、育休の具体的な取得しやすさや、育休を取得したことでどう具体的に子育てや仕事が円滑になったのか、エピソードを交えた実体験を話してくれたほうがわかりやすかったように思う。(これは就活において、往々にして学生側に求められる態度だ。)
また五人のトークテーマにも統一性が感じられず、なぜこの五人なのだろう?という疑念は終始拭えなかった。それぞれの話す内容はそれぞれの面白さがあったが、五人の話をこの場で聞く必然性は記者には感じられなかった。例えば五人を個別にOBOG訪問しても同じような効果が、あるいはより大きな効果が得られたかもしれない。せっかくこうした場を用意するのであれば、五人の話を通して、会社としてどのようなメッセージを学生に伝えたいのかを、もっと明示的に示したほうが良かったと思う。
さらに、「ガールズハッカソンに参加した東大女子」向けに最適化されたトークとも思えなかった。「女子」向けといった程度である。ターゲットが絞り切れていないために、参加者にも深く刺さったようには思えなかった。この記事の末尾に参加者からの感想を掲載しているのでそちらを参照していただきたい。少々優等生的な回答になってしまってはないだろうか。
少しの休憩を挟んでから、午後はメインとなるオフィスツアーを行った。ここからは写真を中心に様子を伝えていこうと思う。
参加者の一人は、オフィスの印象を以下のように語っていた。
オフィスツアーではヤフーの開放的な社風を一番に感じました。多くの社員さんの話を聞いた「キャリアトーク」ではさまざまな分野を手掛けるヤフーならではの自由なキャリア選択や、結婚し子育てを続けながら管理職として働く女性社員の方の話を聞くことができ、自由な働き方が可能な社風に魅力を感じました。オフィス内も壁が少なく、フリーアドレスで席が流動的になっているなど、開放的な空間でした。場所ごとにテーマが設定された遊び心のある空間で、オフィス全体がテーマパークのような素敵な雰囲気でした。
全体を通した筆者の感想は、「ヤフーはベンチャー企業の要素と大企業の要素の良いとこどりを試みているな」というものだ。未完成さや偶然の要素といった遊びの部分を作ることでイノベーションを生む仕組みを構築する一方、「働き方改革」に見られるような多様なライフスタイルを支援する制度を充実させ、そのイノベーションの土壌を守ろうとしているのを感じた。キャリアトークではもう少し丁寧に話を聞きたかったが、それは興味を持った人が個別にOBOG訪問などを行えばいいのかもしれないと思いなおした。
これから先、これらの施策の効果がどう出るのかは興味深いところだ。
追記:キャリアトークのメンバー選出の意図について「4人のうち3人が東大卒のOB、OGであることと、ニュースはヤフー!の根幹であり、学生から聞いてみたいとリクエストがあったから」との回答が記事執筆後に得られた。