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2023年11月14日

夢はオリンピック選手!? ローイング世界選手権参加で見えた世界との距離は 

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 東大漕艇部に所属する小野田空羽さん(工・3年)が7月19日からブルガリアで行われた「2023 WORLD ROWING UNDER 23 CHAMPIONSHIPS」に軽量級で出場した。

 漕艇を始めたきっかけやなぜ東大受験を決めたのか、世界選手権参加で見えた世界との距離などを語ってもらった。(取材・松本雄大)

 

勝ちに貪欲な高専時代

 

━━漕艇をはじめたきっかけは

 

 島根のすごい田舎住まいで、高校進学で地元を出たかったので、寮生活ができて、周囲のレベルも高い松江工業高等専門学校(松江高専)に進みました。

 

 中学までは野球をやっていましたが、なかなか勝てず……。やるからには勝ちたくて、新しい競技で高校から始めても通用しそうなもののうち直感的にビビッと来た漕艇部に入部しました。

 

━━高専時代の実績は

 

 高1の10月に行われた島根県大会新人戦に舵手付きクォドルプル(漕手が4人、舵手が1人の種目)で先輩と一緒に参加して優勝し、その後の中国大会では準優勝。競技開始から約半年で全国大会出場も果たせたのは、勝ちたくて始めたからこそ、大きな自信になりました。ただ全国大会では荒れた天候の中、ミスを連発し、スタート直後から周囲に離され絶望した記憶があります(笑)。

 

 高2の新人戦からはシングルスカル(漕手1人のみの種目)で参戦するようになり、高3のインターハイでは4位で入賞しました。この時もゴール付近まで横並びで競っていましたが、最後に自分のミスで失速してメダルを逃したのがとても悔しかったですね。しかしインターハイ後の国体(国民体育大会の略でインターハイに並ぶ全国大会)では調子もさらに上向き、優勝できました。

 

国体優勝時の写真
国体優勝時、表彰状とともに(写真は小野田さん提供)

 

━━なぜ東大受験を

 

 高4(高専は5年制で、高4は大学1年相当)のインカレの後、大学受験を意識し始めました。高専卒業後は大学編入、就職、高専の専攻科への進学という三つの道がありますが、東大に編入した先輩の講演を聞いて「東大かっけー」と思ったのがきっかけです。具体的に何が刺さったかはあまり覚えていないんですが、とにかくカッコ良いという一点ばりで東大を目指しました。もちろん最終的には漕艇部の存在や受験科目などの条件も確認しましたね。

 

━━受験と競技の両立は

 

 もともとかなり競技に打ち込んでいたので勉強時間はあまり取れていませんでしたが、定期テストごとに一気に詰め込み周りに追いついていたのでそこまで遅れはありませんでした。また一つのことに徹底的に打ち込むタイプだったので高4の冬に競技を一旦離れ、そのエネルギーを一気に受験に向けてなんとかしましたね。競技の中断は体力が落ちてしまうので苦渋の決断でしたが、結果的にこれが無事合格できた要因だと思います。

 

身を持って体感した世界の速さ

 

━━東大漕艇部で一年過ごして

 

 入部時にシングルスカルを続けたい気持ちはありましたが、伝統的にエイト(漕手が8人、舵手1人)での勝利を重視する部の方針も踏まえエイト挑戦を決めました。

 

 東商戦(一橋との対校競漕大会)やインカレ、京大戦などをエイトで戦い、高専時代からの成長を実感していました。そのため今の自分の力をシングルスカルで試したいという気持ちが湧き、秋に行われた全日本新人選手権大会を境に、U23世界選手権の選考に向け、シングルスカルへの復帰を決心しました。

 

━━選考会は

 

 軽量級部門の2位で本来なら世界選手権へは出られなかったのですが、1位の人がFISU World University Gamesという大学生の世界大会に専念したことで空いた、世界選手権の枠に滑り込みました。

 

 出場決定の時に地元の人が横断幕やポスターなどを作ってくれたと聞いて本当にありがたかったですね。

 

━━ブルガリアではどう過ごしたか

 

 移動も含め2週間ほどの遠征で、日本の選手は他の種目もあわせて6人でした。常に一緒にいるので、お互いリスペクトを持ちつつ仲良くなるみたいな感じで(笑)。最初の1週間はコースの視察や実際に漕いでの調整が常でホテルとコースを行き来する毎日でした。レース中に自分が何メートル地点にいるのかを把握する目印となる建物を探すことや、乗るボートが普段と変わるのでリギング(オールがまっすぐ入るようにピンの角度を修正するなどさまざまな確認作業)にも数日掛けましたね。

 

 自然の川ではなく、人工的なコースだったので、普段練習している戸田と似ており、漕ぎやすい印象でした。

 

 食事はホテルで完結していて、いろんな国の選手が集まっていたのでパスタ、肉料理、米などさまざまでした。最初は日本チームしかホテルに泊まっておらず牛肉やおいしいケーキもあって豪華でしたが、日程が進んで各国が合流すると、コストの問題か牛肉は消え、ケーキも安っぽくなりましたね(笑)。フルーツが安いらしく毎日大量に出たのでたらふく食べたのは良い思い出です。

 

━━いざ大会、予選は

 

 

大会の概要を示した図
コースは全長2000m。準決勝①(Semifinal C/D)は敗者復活選の下位4名が回り、準決勝②(Semifinal A/B) には予選の上位2名と敗者復活戦の上位2名が進む。決勝は準決勝①の上位3名ずつがFinal C、下位1名ずつがFinal D に、準決勝②の上位3名ずつがFinal A、下位3名ずつがFinal Bへと進み、最終的な順位を決める。(図は、2023 WORLD ROWING UNDER 23 CHAMPIONSHIPS の公式サイトの情報を基に東京大学新聞社が作成)

 

 各国の代表が集まる世界選手権は序盤から日本より速い展開になると思い、予選では最初から出し惜しみせず全力で行って、後半どれだけ粘れるかを見ようと考えました。いざ始まると序盤の500mで視界から消えそうなくらい前に出られてしまい、翌日の敗者復活戦に出場することが濃厚になったので、力を温存するため後半は少し流して5人中4着でフィニッシュしました。

 

 予選を終えて、想像通りではありましたが、あらためて周囲の速さには驚きました。1着でゴールした選手には自分の100パーセントの力を出しても勝負できる気がしませんでしたね。

 

━━敗者復活戦

 

 1500m地点まで船がかぶっている状態で踏みとどまり、最後に逆転を狙う方針で臨みましたが、当日は逆風で、技術よりフィジカルが強い漕手の方が有利な状況になったこともあり、1000m以降は上位2人に水をあけられ、最終的には4着でした。自分のペースが落ちてきた後半も上位選手は維持しており、端的に実力差を感じました。

 

世界選手権にてⒸ JARA

 

━━準決勝

 

 準決勝C、Dは4人中3人が決勝Cに上がることができるレースだったので1位狙いではなく、ビリ回避を目指しました。前半1000mで勝負が決し、後半は流して3着で、決勝Cに進みました。

 

━━決勝

 

 ついに得意な順風が吹き、タイムも狙える予感がしました。レース前半は2位につけ、調子も良かったのですが、相手選手も最後の力を振り絞ってペースをキープする最終レースで、1500m地点で一つ、ラスト500mでもう一つ順位を落とし4着で終えました。

 

 しかし自身の最高記録タイムが5秒ほど縮まり、順位は悔しい反面、満足する気持ちもありました。

 

 最終順位は20人中16位で、出場者の持ちタイムや体力を考えると妥当な結果だと思います。

 

━━結構冷静ですね

 

 球技のようにミラクルな得点で弱い方が勝つような番狂せが、漕艇だとめったになく、始まる前から個々の体力である程度順位の想像は付いてしまうんですよね。本番は答え合わせみたいな感じで。なので頭の中で想像していた周囲の速さを身をもって体感してやっぱり速かったなという感想が真っ先に出てきました。

 

━━世界と戦っていくには何が必要か

 

 もう10秒タイムを縮めないとスタートラインにすら立てないと痛感しました。水があくのが大体2.5秒差なので、500mまでで今の自分と水をあけ、そのスピードを維持するイメージですね。

 

━━初めて日本代表を背負ってみてどう感じたか

 

 高校時代から日本代表であった選手たちと練習や生活を共にしたことで、世界で戦うためにまだまだできることがあると思いました。大会に出場して、こんなにレベルの高い世界を肌で感じ、もっと速くなりたいという思いも今まで以上に強くなりました。

 

 来年からはU23に出場できないので、世界選手権でもシニアで争う必要がありますが、チャレンジはしたいと意欲が出てきましたね。

 

━━来年はオリンピックもあるが抱負は

 

 オリンピックは軽量級の種目が減っていて、次のパリ五輪が最後です。オープン(軽量級ではない通常の階級)では、男子は185cmでも小柄だとみなされるくらい体格の大きさが重要なので、軽量級でも小柄な自分はオリンピックはパリしかないです(笑)。来年の3月にある最終選考に向けてやるだけやってみようと思っています。

 

小野田空羽(おのだ・くう)さん(工・3年)19年にいきいき茨城国体ゆめボート少年男子シングルスカルで優勝。22年に東大工学部に編入。23年に2023 WORLD ROWING UNDER 23 CHAMPIONSHIPS に出場を果たした。

 

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