文化

2021年7月1日

【笑う赤門(かど)には福来たる】『隔たってるね。』(東京03)

東京03リモート単独公演『隔たってるね。』サムネイル©︎人力舎

 

コロナ禍に届ける新たな笑い

 

 新型コロナウイルス感染症の流行は、私たちの当たり前を大きく変えた。お笑い界においても、アクリル板越しの漫才や無観客のライブ配信など、芸人を取り巻く環境は大きく変わった。そんな中で、昨年5月にリモート単独公演『隔たってるね。』を公開し、早くから時代に合わせた笑いを届けたコント師がいた。それが東京03だ。東京都などでの3回目の緊急事態宣言も明けた現在、お笑いはコロナ禍以前の形を取り戻しつつあるが、せっかく生まれた新たな笑いの形を埋もれさせるべきではない。ここで、改めてこの公演の意義を振り返ってみたい。

 東京03は、コント日本一を決める大会『キングオブコント』で2009年王者となったお笑いトリオ。ツッコミの飯塚悟志と、ボケの角田晃広、豊本明長の三人が、緻密な筋書きと徹底したリアリティで日常の何気ない状況の笑いを描く。メンバーもコント中に思わず笑ってしまうほどしつこい角田のボケも特徴的だ。そんな東京03が1年ほど前にYouTubeで配信したリモート単独公演が『隔たってるね。』である。

 

 公演の一番の特長は、ビデオ会議サービス「Zoom」を使って自宅から配信するリモートコントであること。ソーシャルディスタンスを確保したままネタができる、時代に適応したコント形式だ。舞台での公演に劣らないクオリティー、通信のラグを感じさせない間の完璧さも無論すごいのだが、リモートコントだからこそできる設定やオチが詰め込まれており、新たな笑いの形を提示した点が素晴らしい。

 

 例えば一つ目のコント『炙り出し』は、角田がリモート飲み会の最中にトイレと偽って席を外し、二人が自分の悪口を言っているか炙り出そうとするコントだ。自分のいない間に悪口を言われているのではという、誰もが抱いたことのある不安をうまく笑いに変えているだけでなく、トリオならでは、リモートならではの内容となっている。何気ない場面の会話でも「慣れない家事でも手伝おうと思ったらさぁ、逆に邪魔しちゃったっぽくってさぁ」など自粛期間中の「あるある」を挙げることで、リアリティーをとことん追求している。だが、この部分はこのネタのつかみに過ぎない。角田の罠を見抜いた飯塚のある指摘からどんどんおかしな展開になり、リモート飲みの利点を使ったオチで終わるのが見事だ。

 

 コントの合間の幕間映像も忘れてはならない。幕間映像によって一つの公演としての世界観が作り出され『隔たってるね。』がただの四つのコント配信になってしまうことを防いでいる。今回紹介できなかった残りのコントも必見だ。

 

 当たり前が激しく変動するこの時代。いち早く見事な「リモート単独ライブ」をやってのけた東京03が、今度はどんな新しい形の笑いを届けてくれるのか非常に楽しみだ。【凌】

 

東京03リモート単独公演『隔たってるね。』プログラム(『隔たってるね。』概要欄を基に東京大学新聞社が作成)

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