就活では多くの業界・企業を見た上で進路を選択することが重要だ。しかし多種多様な仕事について、社会人の話を直接聞ける機会は多くない。そこで今回は幅広い業界から四つの企業を訪問。東大出身者に仕事の内容ややりがい、就活時の経験などについて聞いた。インターネット上の情報だけでは知ることができない、業界や企業の魅力や実態を知って進路選択の参考にしてほしい。(取材・田中莉沙子)
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民間の側からルール作りに関わる
東大大学院経済学研究科を修士で卒業し、2006年に経済産業省に入省。14年からヤフー株式会社(当時)に入社し、18年からは株式会社メルカリに勤務。メルカリでは Public Policy と Public Relations を担当する。
Public Policy とは、公共政策、政策企画と呼ばれる職種。新しい事業を不当に阻害するようなルールを変えようと働きかける仕事だ。民間の側からルールづくりに関与することが当たり前になってきている中で、さまざまな企業で同様の役割が置かれるようになってきた。国会議員や関係する省庁、NGO、NPO など、ありとあらゆるステークホルダーと会い、社会やルールはどうあるべしという議論をする。新しいものについて説明し説得するが、すぐに理解されないことも多く、基本的に断られるという仕事。しかし、組織の中の意思決定者を見極めたり、報道に働きかけたりといった幅広いアプローチで、粘り強く交渉する。企業の多様な活動を社会課題の解決と結び付けられることは面白い。
自分の強みは、幅広い立場の人と話す経験を重ねてきたおかげで、多様な立場の人と話せることと、観察眼だという。観察眼とは相手の発する言葉や振る舞い、表情などを観察し、それに応じて言葉の選択、議論の進め方、話し方や話す内容を変えていく力のこと。観察眼を得た背景には、自身が常にマイノリティ側にいて、よそ者感を感じていたことがある。田舎では勉強に力をいれる人はほとんどいなかったし、大学でも東京出身者が多く、飲み会にもなじめなかった。その中で自身を客観視し相対化する視点や、相手への観察眼を得た。社会人になると飛躍的に人間関係が広がり、その中でだんだんこなれていった。最初は東京になじめず苦しかったが、それもある程度の年数を過ごすうちに解消された。
民間は働く上で快適な環境が整っている。メルカリはフラットな組織で、社長や会長とも普通に会話や議論ができる。また、チャレンジ精神やそのスピード感も特徴だ。起業家のような挑戦する人を民間側でサポートできるのも面白い。仕事をする上では好奇心を大切にしていて、それが常に満たされる仕事がしたいという吉川さん。好奇心で動くと、人は能動的に動け、能力も発揮されやすくなると話す。
また、パートナーとして信頼してもらうことも大事だ。具体的には、実績を出す、自分の言葉に責任を持つ、感情のままに振る舞わず目的を達成するために行動する。誰でもできる当たり前のことを長年続けているか否かで積み上がった信頼は違ってくる。吉川さんは、自分の感情や周囲からの見られ方ではなく、具体的な目的や成果を最優先にすべきだと語る。社会人になり組織で仕事をするようになると、個人の能力ではなく、その人が介在することで、どれほどプロジェクトやチームの価値が増加するかが評価される。大学までとは評価軸が完全に変わるのだという。
大学での学習を通じて、基礎的・抽象的な概念を操作し理解する能力を付けたことが議論や物事の理解に役立っている。この力は、社会に出てから鍛える機会は少ない。社会に出てから扱う応用的なことも、大本の抽象的な概念まで考えて理解を試みると、共通の枠組みで理解できる。
過去2回の転職はどちらとも、来てほしいと声が掛かっての一本釣りだったという。メルカリは、Public Policy の部署を新しく作りたいとの話で、これから急速に伸びていく会社で新しく組織を立ち上げるのは面白そうだと思い入社した。一方、学生時代の就職活動は散々だったという。ただ、就活は能力の高低よりも相性の良さであり、採用する側の評価が全て正しいわけでもないので、絶対的なものと受け止める必要はないと語る。吉川さんも、新卒の際は不採用だった会社に、中途採用ではぜひ来てくれと言われたそうだ。
学生や若手の社会人には、「長い目で自分に合った仕事や生き方を選んで、長期戦で当たりを掘り当てられればいいとの考えで、気長にやりましょう」とメッセージを送る。学生時代は、やりたい仕事を判断する際に持っている情報が必然的に限られている。新卒で行きたい業界や職種に行けなくても、結局働く中で自分に合った仕事や環境が分かる。ライフステージが進むと人生の優先順位も変わってくる。自分に合っていて成果が出せる環境を長期戦で見つけていき、身を置こうとする姿勢が大事。試行錯誤の過程を大切にしてほしい。