就活では多くの企業を見た上で進路を選択することが重要だ。しかし多種多様な業界の仕事について話を聞く機会はそう多くない。そこで今回は幅広い業界から五つの企業を訪問。東大出身者に現在の職務と就活・転職時の経験について聞いた。会社や職業の実態だけでなく、キャリアプランを考える上で参考になる情報をお届けする。今回はTMI総合法律事務所に勤めている久保賢太郎さんに話を聞いた。(構成・安部道裕、取材・中村潤)
Profile
☑︎中途入所 ☑︎学部卒
☑︎入社9年目 ☑︎理系
顧客と自分、両方を満足させる仕事
企業の経済活動を支える企業法務事務所。TMIは国内最大規模で、500人を超える弁護士が所属する。扱う分野はコーポレート、ファイナンス、知的財産法、紛争の大きく四つ。久保さんの専門はファイナンスで、金融取引の規制について金融商品取引業者、商社などに助言している。ベンチャー企業案件も多く、資金調達の他、労務や特許を扱うことも。「中心に扱う分野は変わらないですが、顧客の依頼はさまざまなので幅広い分野に触れる機会があります」
案件にはおおむね5人ほどのチームで取り組むことが多い。久保さんはチームの責任者となることが多く、実績や希望を踏まえて若手へいかに適切に作業を分配するかも大事な仕事となる。「自分の作業に充てられる時間は半分くらいです」。リモートワークも可能だが、文献調査や円滑な意思疎通のためにオフィスに来ることが多いという。チームは固定されていないが、TMIは規模が大きく、全ての弁護士と一緒に仕事をできるわけではない。それでもスタッフを含めて1000人前後が参加する事務所旅行を開催。仕事の自由度の高さゆえに一体感が失われがちな事務所もある中で、まとまりが大切にされていると話す。
弁護士の良さとして2点を挙げる。一つは顧客の満足を身近に感じられる点。もう一つは知的満足度が高い点だ。「先例のない問題に直面した際は法解釈を突き詰め議論します。顧客の満足だけでなく、自己の知的好奇心も満たされるのは大きいですね」
理Ⅰに入学した久保さん。研究者になれるのは一握りで、会社員も自分に適合しているのか疑問を感じた。そこで最先端の知見に触れられる企業法務弁護士を志望。理学部数学科在学中に旧司法試験に合格し、修習を経て別の大手事務所に入所した。転機となったのは経済産業省への出向。電力の金融取引規制に関する法改正などに携わる中で出向後も商取引の規制を幅広く扱いたいと考えた。面談を経て「最も好きにやらせてもらえる」と感じたTMIに転職した。
今後も独立などは「全く考えていない」と話す。チーム編成の容易さや先端分野の研究を考えると大手で働くメリットが大きいからだ。例えば近年重要性が増す経済安全保障分野では岸田首相を招いた共催シンポジウムを開催した。所内で研究チームが発足し、久保さんも所属を検討している。
就職で大事なのは「未来から逆算して重要でない無駄や失敗は気にしないこと」と話す。「ほとんどの失敗は将来振り返ると大したことはありません。軸足をしっかり持って未来へと進んで行けば道は開きます」
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