就活の際には多種多様な職業を知った上で進路を選択することが重要だが、興味のある業界以外の仕事について話を聞く機会はそう多くない。今回はさまざまな業界の8社に取材をし、東大卒業生に現在の職場や、就活時のポイントについて話を聞いた。また一部の卒業生にはコロナ禍で業務がどのように変化したのかについても語ってもらった。
(構成・松本雄大、取材・弓矢基貴、金井貴広)
リブ・コンサルティング
社内でノウハウを共有
コンサルタントとしての朝は論点設計から始まることが多い。論点設計とは、クライアントの成果創出のために今後取り組むべき事柄を整理すること。その後、社内ミーティングで論点を共有し、上司からアドバイスをもらう。「トレーナー・トレーニー制度」の下、一対一で上司にサポートしてもらえるのが魅力的だと語る。「上司との関係もフラットで、それほど言葉を選ばずに自分の意見を言える雰囲気があります」
その後は検証活動。具体的には、文献を読んだり関係者に取材をしたりして「市場はどのくらい伸びているのか」や「市場の競争環境とプレーヤーを踏まえると、何をすることが大切なのか」など、市場に関する情報を集めていく。そうして得られた知見をクライアントに報告し、次の論点設計にも生かす。「弊社は多くのプロジェクトを抱えているため、1年目でも担当できる領域は大きいです」
リブ・コンサルティングでは「集合天才」という理念の下、他のチームのコンサルタントとも経験や知識を共有する機会が設けられている。属人化しがちなスキルを教え合う場が制度化されていることで、自分が体験できない業務・業界に関する情報を吸収することができる。「クライアントとのコミュニケーションの取り方などにおいて、他プロジェクトの成功事例や反省点を知ることは参考になります」と話す。
コンサルタントは全員がクライアントの前に立つ。「やはり、感謝された時にやりがいを感じます。期待を超えなければならないプレッシャーも伴いますが」
「コンサル人気に流されないで」
コンサルを選んだ理由は「ファーストキャリアとして、自分の夢のロードマップに一番合っていたから」だと話すが、東大入学当初は国家公務員を志していた。中高の経験から「日本の公教育を変えたい」と思うようになったという。しかし省庁見学などを通して進路を考え直す。在学中に起こした事業も仲間の離脱の影響で断念。3年の秋に就活を本格的に開始した。
将来の起業を見据え、組織のマネジメントに関わる仕事に就くことを決めた。「自分が起業してベンチャーフェーズを経験する時のために、ベンチャー企業をメインターゲットとしているリブ・コンサルティングを選びました」
就活は相互マッチング。「企業が求めている人材を正確に把握し、学生時代の経験をどう論理的にひも付けてプレゼンテーションするか」を意識した。自己分析のために他人からフィードバックをもらうことも重視。学生時代に多様なコミュニティーに所属し、働くことの楽しさを知ったため、就活は「誰よりも楽しんでいた」と語る。
「『コンサルが人気だからコンサルにする』というような考え方はもったいない」と学生に警告する。「これまで20年以上生きてきたら、自分の感情が揺れ動いた瞬間があると思います。それを軸にして自己決定することが大切です」
スクウェア・エニックス・AI &アーツ・アルケミー
専門分野を社内で共有
「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」など世界的なエンターテインメントを手掛けてきたスクウェア・エニックス・ホールディングスが2020年、ゲーム分野で培ってきたCGやAI技術を、エンターテインメント全般に活用するための研究開発・事業に取り組む目的で設立したのが、この企業だ。昨年9月に情報理工学系研究科博士課程を修了し、10月に入社した森さんだが、専門である機械学習や自然言語処理を生かした職務を早速任されている。
日々発表されるAIに関する論文を確認し、エンタメに生かすことができるかを考えているという森さん。学会などにも積極的に参加させてもらえる環境で、学術的な興味の面でも充実しているという。「社内の技術やアイデアと面白い化学反応が起きるのではないか」と思った研究があれば、社内勉強会で共有したり簡単なデモを作ったりする。「自分の専門分野に社内の皆さんが興味を持ってくださるのがうれしいです」
東大大学院工学系研究科などと共同で実施している「世界モデル・シミュレータ寄付講座」の担当者も務める。AI研究の社会実装の加速や次世代の人材の輩出が目的で、森さんは1月にゲスト講師として授業で登壇した他、研究開発の推進にも携わっている。「入社早々に大役を任され、やりがいも緊張感も感じています」
森さんが関わったエンタメが世に出るのはこれから。「世界中の人に忘れられない体験をしていただく。その過程で、これまで感じたことがないようなやりがいや大変さを感じられるとも思っています」
自分の価値観を認めてくれるか
森さんの進路を決めたきっかけの一つは「メディアコンテンツ特別講義Ⅱ」という授業だ。オムニバス形式の講師にスクウェア・エニックスの社員がいた。ユーザーとして感じていた技術力の高さの背景に研究部署の貢献があると知り「自分がやりたいのはこれだ」と思ったという。同社が開催した「AIアカデミー」など、エンタメコンテンツ業界の勉強会に足を運んだ。
自然言語処理を専門とする人材を求めているという、取締役CTOのツイートを見て、20年の8月に就活を始めた。「最高の『物語』を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する」という理念を掲げる企業であれば、自分の価値観や経験をポジティブに捉えてくれるのではないかと考え、面接を通してその感覚が強まった。
修士課程の在籍時にもエンタメコンテンツ企業への就活経験がある森さん。面接で「最近の作品では何が好きですか」という質問に答えられなかったことは反省点だった。ちょうど触れていた作品は何年も前に発売のもの。旧作に注目しているなら、その理由を明確にすべきだったと話す。
大学院での研究経験や価値観がかみ合うと思えたことが、入社の決め手になった。「価値観が多様な時代です。一致はせずとも、企業に自分の価値観が受け入れられるかを考えると良いと思います」
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