就活では多くの業界・企業を見た上で進路を選択することが重要だ。しかし多種多様な仕事について、社会人の話を直接聞ける機会は多くない。そこで今回は幅広い業界から四つの企業を訪問。東大出身者に仕事の内容ややりがい、就活時の経験などについて聞いた。インターネット上の情報だけでは知ることができない、業界や企業の魅力や実態を知って進路選択の参考にしてほしい。(取材・曽出陽太)
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強みを活かし商社で働くという選択
幅広い商品やサービスを扱う総合商社である丸紅。その電力本部に所属する淺野さんは東南アジアのプロジェクトを担当している。発電所など新しい電力事業の開発、運営、投資など業務は多岐にわたり、多数のステークホルダーと関わりながら業務を進めていく。入社5年目でありながら担当地域の事業戦略を策定したり、現地政府や企業を相手にした折衝を行うことも少なくないが、難しいタスクをこなして案件を前に進めることができたとき、大きなやりがいを感じるという。業務内容は概ね入社前の想像通りだったが、若手であっても思っていたより多くの裁量を与えられている点が特徴だと話す。予想外だったのは社内承認・申請手続きなどに時間がかかることだ。重要かつ必要なプロセスと理解しているが、営業活動とのバランスをとることに苦労したという。
工学系研究科・社会基盤学専攻での修士論文では電力関係の研究を行ったこともあり、インフラ系の仕事に携わりたいと考えていた。就職先としてゼネコンなども候補としていたが、どの立場でインフラに関わっていきたいかを考え、プロジェクトの幅広いフェーズに主体的な立場で携わりたいという思いから業界を商社に絞った。
中でも自分のやりたい電力事業に力を入れている点が丸紅を選んだ決め手になった。修士1年の夏ごろからインターンや社員訪問を通じて情報を収集し、3月ごろから本格的に選考に参加し始めたという。淺野さんは就職活動を振り返って「ネット上の情報だけでなく社員訪問や企業が主催するセミナー・説明会などから一次情報を手に入れるということを意識しました」と話す。商社は選考時期が他業界と比べて遅かったため、早い段階で他業種を受けることもあったが、焦らずに第一志望の業種の選考に入念な準備を行うことが重要だったと感じている。一方で、情報収集の段階では就活生の立場を利用してより幅広い業界の人と会うことで、もっと見識を広げることができたのではないかという思いもあるという。
就職してからは学生時代に理系として慣れ親しんだ計数周りが事業の収益性評価や財務モデリング業務に役立っているほか、学生時代に旅行や短期留学などで 20カ国以上を訪れ、多様な価値観に触れた経験が海外の相手とコミュニケーションをとる必要がある業務に活きていると感じている。一方、営業・会計といった業務の中で入社後も多くのスキルを新しく身に着けることができる環境だという。例えば、関係者との交渉を円滑に進めるためのより良い交渉方法を日々学んでいる。
同僚は柔軟で論理的に物事を考えられる人が多く、良い雰囲気の職場だという。勤務地は東京だが、現場主義の考えから、頻繁に海外出張を行っている。短期的には駐在などを経験し、現地でより深くプロジェクトに携わりたいと展望を語る。インフラは計画策定から事業完工までに長い時間を要するが、これは自分の案件だと胸を張って言えるような事業を生み出すのが最終的な目標だ。
卒業生として、淺野さんは東大生にエールを送る。「就活では身構えずに取り組んできた課外活動も含めて自分を飾らずにさらけ出してほしいなと思います。その方が後悔ない就職活動ができるのではないかと思います。頑張ってください」