就活の際には多種多様な職業を知った上で進路を選択することが重要だが、興味のある業界以外の仕事について話を聞く機会はそう多くない。今回はさまざまな業界の8社に取材をし、東大卒業生に現在の職場や、就活時のポイントについて話を聞いた。また一部の卒業生にはコロナ禍で業務がどのように変化したのかについても語ってもらった。
(構成・松本雄大、取材・井田千裕、黒田光太郎)
吉本興業
若手でも活躍できる職場
入社6年目で、現在はチーフマネージャーを務める。宮下さんの班は7組のタレントを受け持ち、宮下さんが直接担当するのはお笑いコンビ・ダウンタウン。テレビ番組やCMの撮影現場に向かい、撮影が円滑に進むようサポートする。タレントに合わせて業務を行うためスケジュールは流動的だが、どの現場に行き、どう動くかといったスケジュールは自分で考える。現在は日曜日が休みになることが多く、深夜まで働くことは少ない。
ダウンタウンというトップタレントを担当するのは時にプレッシャーを感じるが、入社6年目の若手社員がそのような立場に就くことは「僕にとっても良い勉強になりますし、この経験を会社に還元できる期間も長いので、会社にとっても意義のあることだと思います」と語る。職場は若手社員でも意見を出しやすい雰囲気だ。新型コロナウイルスの流行前は、休憩中や食事会での雑談からアイデアが生まれることも。「正しいことは受け入れてくれる。このような働きやすい雰囲気が一番の福利厚生です」
このようにコミュニケーションが重要な業種において、コロナ禍で打ち合わせや会議がリモート業務になったのはつらいことだという。雑談などの「『無駄』が削ぎ落される風潮が5年後や10年後に響くのではないかと懸念しています」。一方で、劇場からお笑いライブを配信するなど、新しいコンテンツを生み出し、より多くの人に気軽に楽しんでもらえるようになったという側面もある。
自分が感じる「面白い」に素直に
学生時代、就活についてはあまり深く考えておらず、採用面接を受けたのは吉本興業のみ。「よく一緒に飲みに行っていたおじさんに勧められたことがきっかけだった」。思い返せば「東大を受験したのも別の仲の良いおじさんの勧め」。人生のターニングポイントに現れるおじさんの勧めが天啓となった。子どもの頃から大ファンだったダウンタウンの存在も背中を押した。
面接の際は、質問に対して素直に回答するよう注意していたという。吉本興業の社員は人との会話をなりわいとしているため、取り繕ったり小手先のうそをついたりしても簡単に見抜かれると考えたからだ。大学での勉強については「仕事で役に立つから学ぶのではないと思います」ときっぱり。卒論のテーマが偶然「令和」の出典である万葉集『梅花の宴』の序文で、それが楽屋でのタレントとの会話の糸口になったことも。大学での学びはいつどこで生きるのか分からない。「企業で必要なことは企業に入ってから学べるので、大学では企業で学べない、一見『無駄』な知識をたくさん身に付けてください。それが結果的に引き出しとして活躍します。多分」と笑顔。「時代の変化はなかなか予測できません。企業の将来を分析することも大切ですが、自分自身を面白くできること、自分が納得できることを信じてください」と激励した。
博報堂
人の動きを考える仕事
現在は、グローバル戦略を考える部署に所属している。日本国内の企業が海外に進出するときや海外進出を前提とした商品を売り出すとき、海外企業が日本に進出するときなどに、どのように販売していくのかなどを考える。アジアから欧州など、地域を問わず世界各国にまたがって担当している。
さらに担当業務も多岐に渡る。例えばある技術を持つクライアントから「この技術を使った製品を作りたい」と依頼された場合、実際の製品、売り出すことが効果的な地域、プロモーションなどをクライアントと共に考える。クライアントの商品やサービスを見て、競合他社の動きも把握した上でどのような人に使われるのかを考えたり、顧客データを使って販売方法を考えたりすることもある。入社以前から、人に出会ったときにその人の生い立ちを想像するなど、人がどのように行動するのかを考えることが好きだった宇平さん。どのようにすれば販売促進につなげることができるのかを考える今の仕事では、こうした人の動きを考えることに面白さを感じているという。
宇平さんが所属する部署では、グローバル戦略を考えることから、もともと海外とのやりとりも多く、新型コロナウイルス感染症流行以前からクライアントとの会議などでオンライン会議ツールを利用していたというが、現在は勤務そのものもリモートワークが中心となった。在宅で行っても支障のない業務も多いため、今では出社は週1回程度だという。
失敗できる若いうちに経験を
3年生の夏、周りの学生がインターンに参加しているのを見て、自身も参加し始めたのが就活の始まりだった。いろいろな業種を見る中で、クライアント企業、顧客、広告会社それぞれの視点を持ってビジネスを行える企業に魅力を感じた。さらにその中でも博報堂の「褒める文化」や「社員の多様性を重んじ、リスペクトしている社風」に引かれ、入社を希望した。
学生時代はテレビ局のアルバイトとして、ある深夜番組の制作補助をしていた。「一見不可能のように思えることも、自分でやり方を考えるということをこのアルバイトから学びました。例えば観覧客を集めるように言われたとしても、いきなり自分の知り合いの中から集めるのは難しいので、対策としてメーリングリストを作っていました」と語る。こうした、自分で考えて戦略を立てる経験は、これまでにやったことのない新たな取り組みに立ち向かうことが必要な、今の仕事にも生きているという。
就活にこれから向かう東大生へ「就活の時は見栄を張らないことを大切にしました。また、失敗することを恐れず、興味のあることに飛び込むことですね。若ければ若いほど失敗が許される。今のうちにいろんなことをやっておいた方がいいと思います」というアドバイスを送った。
【関連記事】
【2022オンライン卒業生訪問】東大卒業生に聞く、職場事情と就活のポイント④リブ・コンサルティング、スクウェア・エニックス・AI &アーツ・アルケミー