就活では多くの業界・企業を見た上で進路を選択することが重要だ。しかし多種多様な仕事について、社会人の話を直接聞ける機会は多くない。そこで今回は幅広い業界から四つの企業を訪問。東大出身者に仕事の内容ややりがい、就活時の経験などについて聞いた。インターネット上の情報だけでは知ることができない、業界や企業の魅力や実態を知って進路選択の参考にしてほしい。(取材・内田翔也)

機械への情熱を形に
ソニーグループ株式会社の基盤AI開発部という部署にて、画像認識AIの研究開発に取り組んでいるという若杉さん。特に顔認識技術をはじめとした、人物の識別に関わるAIの構築、学習に日々いそしんでいる。日進月歩で成長していく現代のAIの技術に遅れないために、日々勉強に努めながら、その技術を机上の空論で終わらせず、現実に存在する、あるいはこれから生み出すプロダクトに実装するところまで進める。それが主な業務内容だ。
最近では、BRC-AM7という、AIを活用し被写体を自動的に追尾する、オートフレーミング機能を搭載したカメラに、若杉さんが開発に携わった画像認識AIの技術が実装されているという。BRC-AM7などのオートフレーミングカメラは、音楽のライブやスポーツなど、被写体を追う必要のある映像制作の現場で広く用いられており、「自分が作ったものが実際に製品化されて、目に見える形で実現されていることには、大きなやりがいやモチベーションの向上を感じます」と語る。このように、自分の研究開発が非常に直接的な形でに社会にインパクトを与えられることが、大きな魅力の一つのようだ。
ソニーでは近年エンターテインメント事業に注力しており、扱うテーマと生活との距離が近い。映画制作、音楽やスポーツのライブなど、誰もが触れる、誰もが知っているような活動と、若杉さんら技術開発を担う部門の構築した非常に高度な技術がコラボレーションできるのは、幅広い事業を手がけ、高い実績や広範なネットワークを構築しているソニーならではだろう。「すごく技術者を大事にしてくれる会社で、チームの大きな指針がある中で、それにどういったアプローチで取り組んでいくかとか、どういうリソースを活用して対処するかなど、自分のやりたいようにやらせてくれます。日々変化するAI産業の中で、新しいツールを使ってみたり、仲間からもこんなのがあるよ、と教えていただいたり、さまざまな試行錯誤をすることができて、それは働きながらも大きな学びになり、非常に楽しいです」
若杉さんの仕事は、学生時代の研究と非常に密接に関わっているという。幼い頃からロボティクスや、頭の良い機械について人一倍思い入れがあり、東大に入学後、工学部機械情報工学科に進学した。原田研(機械学習・深層学習を基盤としたコンピュータービジョンやロボティクスの研究を行う原田達也教授の研究室)で画像認識の最先端の技術を陶とう冶やされ、そこで培った研究の能力を存分に生かせる仕事を、ソニーに見出したのだという。「夏インターン参加して、もうここしかない!という気持ちになりました」
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)を全社として共有していることを、インターンを通して実感し、学生時代に力を入れた画像認識の研究がソニーでなら続けられるということに大きな魅力を感じた若杉さんは、学生時代に培った高い専門性を評価されて入社に至ったとのことだ。「自分の興味関心を基に、ソニーで何をやりたいか、しっかり考えられていたのが良かったんだと思います」
幼い頃からの興味関心を学問、ひいては仕事にも結びつけ活躍し続ける若杉さんは、「自分の中で突き詰めようと思えるもの、寝食を忘れてでもやりたいと思えるエッジがある人は、それが非常に大きな武器になるので頑張って欲しい」という。もちろん、自分の専門とは異なる分野でも選考を受けて活躍することができるが、就活市場の中で専門性もますます重視されている昨今、「やりたい!」と心の底から思えることをどんどん突き詰める、どんどん尖らせることができれば、おのずと道は開けていくのではないだろうか。