就活の際には多種多様な職業を知った上で進路を選択することが重要だが、興味のある業界以外の仕事について話を聞く機会はそう多くない。今回はさまざまな業界の8社に取材をし、東大卒業生に現在の職場や、就活時のポイントについて話を聞いた。また一部の卒業生にはコロナ禍で業務がどのように変化したのかについても語ってもらった。
(構成・松本雄大、取材・松本雄大、安部道裕)
JAXA
学び続ける姿勢
2021年に国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社した疋田さんは筑波宇宙センターに勤務。現在携わっているのは、大学や研究機関、民間企業等が開発した部品や機器、超小型衛星、キューブサットに宇宙で実証する機会を提供するプログラム(「革新的衛星技術実証プログラム」)だ。宇宙は、重力・放射線・温度などの観点で特有の環境であり、動作実績が重要となる。そのため、宇宙での実証機会を提供する同プログラムは、新規の部品等を開発した機関や宇宙産業への参入を希望する機関にとって、有用な機会だという。昨年11月には、同プログラムの一環である「革新的衛星技術実証2号機」が打ち上がり、現在運用中。続く3号機は、2022年度に打上げ予定だ。
同プログラムに参加するさまざまな機関と調整を行う中「本プログラムの実証で宇宙空間での実績を作り、国内の優れた技術を広く使ってもらえるような土台づくりができればと思っています」と語る。
業務で扱う内容は宇宙工学の領域が主であり、学生時代の専門分野が理学だった疋田さんには分からないことも多々ある。しかし「知識のギャップを埋めるために勉強しているこの状況が楽しい」と話し、知的好奇心が満たされる仕事にはとても満足している様子を見せる。部署の雰囲気は温かく、分からないことについて質問をすると優しく教えてくれるという。「皆さん気さくに話しかけてくれて、とても居心地が良い職場です」
何事にも正直に
「満足するまで研究がしたい」と考え、東大に入学。学部時代から博士課程に進むことを考えていた。アカデミアに残って研究を続けることも考えていたが、博士課程の時、ある探査機のプロジェクトに携り、研究だけではなくプロジェクトをマネジメントする仕事にも関心を持つようになった。「惑星科学を前に進めるためには観測機会を増やしていくことが大事で、そのためにはプロジェクトを円滑に進めることが重要だと意識するようになりました」
学生時代には、研究のみならずオーケストラ活動にも力を入れ、自身のやりたい事をやり切ったとのこと。「かなり充実した学生生活でした」と笑う。一方で、なかなか研究で成果を出すことができない期間もあった。「研究は楽しいだけでなく大変なことも多くありましたが、どんなささいなことも誠意を持って取り組めば自分自身の糧になることを学びました」
就活時は、自身の専門について理解してもらうことと、自分の志望を正直に話すことを大切にしていた。「この点に行き違いがあると、就職後に期待される役割と自分自身とのギャップに困ると考えました」。博士時代の経験も踏まえ、就活生に向けて「大変な時期に踏ん張れるように、よく寝て、よく食べて、一番の資本である心と体を大事にしてください」と語った。
日本政策投資銀行
パンフレットの一文字にまで入魂
2017年に日本政策投資銀行(DBJ)に入行した酒井さん。「単に資金を提供するだけでなく、それ以上の付加価値を提供することがDBJの存在意義」だと語る。
北海道支店に異動した2年目は、旅館やレジャー施設などを営む観光業界の企業向けに投融資を行う仕事をしていた。例えばある案件では、代替わり直後の若社長に対し、融資に必要となる事業計画の素案をゼロから作成・提示したところ「この資料は家宝にします」と言われるほど感謝をされたという。「顧客のニーズに合わせて苦労してつくり上げたものなので、感謝してもらえると一番やりがいを感じます」。
18年の北海道胆振東部地震の際は、DBJの特徴である中立性を生かして競合関係にある道内の地銀2行の間に入り、3行で協定を結んで復興を支援した。「2行を結び付けるのは前例がなく大変でしたが、その分達成感は大きかったです」。20年9月にはロンドンへ赴任し、昨今注目の集まるエネルギー業界において、海外の先進事例に参画して日本に還元すべく、再生可能エネルギー分野の投融資を手掛けた。
21年9月の帰国後、10月からは人事部採用チームへ配属。現在はインターンの準備や広報物の制作など、新卒採用業務を担当している。人事部はアットホームな雰囲気で、上司や先輩にも言いたいことがはっきりと言えるのだという。穏やかな人が多いながらも「みんな仕事には情熱を持っていて、議論は活発です」。採用パンフレットを制作するときは議論を重ねて一文字一文字にまでこだわっているのだと語った。
先入観を捨てて企業を見るべし
就活では先入観を持たずに企業を見るよう心掛けていた。「よく知らないけれど魅力的な企業というのはきっとあるので、資料を見てピンと来なくても一度は話を聞きに行っていましたね」。業種や企業を選ぶ上で重視していた基準は「社会にインパクトを与えられること」「世のため人のためになること」「その会社で働く人が魅力的であること」の三つ。そのため金融業界だけでなくインフラ業界なども視野に入れていたが「私は興味関心の幅が広いタイプだったので、一つの会社にいながらいろいろな産業に携われる金融を選びました」。中でもDBJに決めたのは、DBJは顧客のためにならないときには自社にとって利益になることでも投融資はしないという、顧客を第一に考え「世のため人のためになる」仕事をする企業だったからだと語る。
「大学生には学業や部活動などに楽しく全力で取り組んでほしいです」。自身は大学時代、アメフト部でトレーナーをしており、時には選手に言いづらいことも伝える必要があった。しかし、当時の経験で身に付けた伝え方や気後れしない精神が、顧客のためを思って厳しいことでもあえて伝えなければいけないことがある今の仕事では役立っている。「今しかできないことをしてください。就活の結果は後からついてくると思いますよ」とエールを送った。
【記事修正】2022年2月14日午後1時28分 タイトルを「【オンライン卒業生訪問2022】東大卒業生に聞く、職場事情と就活のポイント①JAXA ・日本政策投資銀行」から「【2022オンライン卒業生訪問】東大卒業生に聞く、職場事情と就活のポイント①JAXA ・日本政策投資銀行」に修正しました。
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