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2019年12月14日

学生新聞のあるべき姿とは 有識者を招き編集諮問委員会開催

 東京大学新聞社は10月30日、直近1年分の記事の評価を外部の有識者に求める編集諮問委員会を開催した。弊社前理事長でジャーナリズム研究を専門とする林香里教授(情報学環)の他、東大名誉教授の長谷部恭男教授(早稲田大学)、前総合文化研究科長の石田淳教授らが委員に名を連ねた。現役東大生が執筆した記事は、有識者の目にどのように映り、どのような意見を与えたのか。編集諮問委員会の模様をお伝えする。

(執筆・撮影 中野快紀)

 

記事を評価する編集諮問委員・評議員ら

 

◆司会進行

宍戸常寿教授(東京大学新聞社理事長・法学政治学研究科)

◆編集諮問委員会委員、評議員一覧

編集諮問委員

濱田純一名誉教授(元理事長・前東大総長)

長谷部恭男名誉教授(元理事長・早稲田大学教授)

吉見俊哉教授(情報学環・元理事長)

林香里教授(情報学環・元理事長)

評議員

西村陽一氏

大加章雅氏

南部雅弘氏

有井和久氏

加藤陽子教授(人文社会系研究科)

石田淳教授(総合文化研究科)

澤康臣氏

 

 最初に講評を受けたのは2019年4月30日号に掲載された記事。東大から一度採用の連絡を受けたもののそれを白紙撤回され、東大を提訴した宮川剛教授(藤田医科大学)の話から東大の労働契約の問題に迫ったものだ(記事はこちらから)。初めに記事の担当者が執筆の経緯を説明すると、弊社評議員で朝日新聞社の常務取締役を務める西村陽一氏は「意識が低い」という表現が記事の中で多用されていることを挙げた上で「具体的に何が低いのかをきちんとデータを使って示すべき。何が問題なのかを丁寧にかみ砕く方が、読者にとっては分かりやすい」と指摘。最終的に何を伝えたいのかをはっきりさせることの重要性を主張した。長谷部恭男教授からも「労働契約の在り方そのものに問題の核心があったのか?何が問題の核心があるのかが分かりにくい」という指摘があった

 

長谷川恭男名誉教授

 

 加えて、記事を執筆する上での客観性の問題にも意見が及んだ。林香里教授は東大の雇用制度について問い直そうとした記者の姿勢を評価。一方吉見俊哉教授は、「東大の人事に焦点を当てるなら、もう少しカメラを引いてみるべき。東大が人事でもめたことは過去にもあった。それらのケースや他大学の事例などと比較しながら報じるなどして、客観視することが必要だ」と、報じる上での姿勢についての意見を投げかけた。

 

吉見俊哉教授(情報学環)

 

 林教授は「大学の雇用問題はかなり複雑で、東大人事はブラックボックスだ。オフレコ(オフ・ザ・レコード。記録、他言、公開をしない、あるいはしてはならない内容のこと)の内容が多すぎて、学生が取材するには無理がある」としながらも、日本の労働問題や大学の雇用形態の複雑化などと結び付けるなど、報じ方にも工夫できる点があるのではないかとの問題提起をした。これを受けて西村氏も、読者である東大生にとって関心の強い就活に焦点を当てることができ、第2弾として「内定」について考える企画を行っても良いかもしれないと、学生新聞の強みを生かした具体的な提案を与えた。

 

林香里教授(情報学環)

 

 続いて講評を受けたのは、2019年3月19日号7月30日号で報じた、早野龍五名誉教授の論文不正疑惑に関する二つの記事。当時理学系研究科の教授だった早野名誉教授が共同執筆した、福島の放射能汚染問題に関する論文に研究不正と倫理指針違反があるとして申し立てを受けたもので、全国のメディアでも報じられた疑惑だ。いずれの記事でも論文に使用されたデータやグラフを用いて疑惑の内容を解説する部分を設けているが、それに対し西村氏は「この記事の内容を文系の読者が理解することができるのだろうか?書き方は難しいかもしれないが、内容をかみ砕いて注や表を増やすなどの工夫が必要」と課題を指摘する。加えて、読者にとって分かりやすい記事作りに向けた工夫として「輪読」を挙げた。科学を扱った記事やデータが使用されている記事については、編集部全体を内容を検討する過程で記事がわかりやすくなっていくと提案した。

 

 早野名誉教授は東日本大震災後、Twitterなどを通じて放射能汚染問題に関する意見を発信し続けた人物であり、加えて発表した論文は政府の政策決定の根拠となっていた。そのような背景を踏まえ林教授は「放射能汚染問題に関するオピニオンリーダーであった早野名誉教授の不正疑惑は、普通の研究不正とは異なるもの。研究に関する難しい内容よりは疑惑に関する背景を書いた方が良かったのではないか」との意見を述べた

 

 弊社評議員でNHK出版の大加章雅氏は「早野名誉教授は科学を分かりやすく市民に説明しようとしていた人。読者は『不正をしたのは国の負担を軽減させるためなのか?』や『福島の人たちの不安を取り除くために行ったのか?』などといった両極の可能性を考えながら記事を読むこともあろう」とし、問題についての多様な見方を提示することで読者の判断リテラシーを高めてゆくことも目指すべきと指摘した。吉見教授は早野名誉教授の不正疑惑のように扱い方が難しく、意見が分かれる内容については編集部内で議論を重ねながら方針を決定したり執筆したりすることが肝心であるとの助言を送った。

 

NHK出版・大加章雅氏

 

 最後に講評を受けたのは、弊社が運営するオンラインメディア「東大新聞オンライン」で今年5月から6月にかけて連載されたアンケートの分析企画(こちらのリンクからアンケート分析の第1弾が閲覧できます)。今年4月に行われた入学式における上野千鶴子名誉教授の祝辞について、弊社が行ったアンケートの結果を分析したものだ。長谷部教授は祝辞について肯定的な意見、否定的な意見を両方取り上げている点を挙げ、テーマとして面白いと評価。担当した編集部員からは「アンケートの信ぴょう性が低いという批判も受けた。実施前にもう少しやり方を練るべきであった」という説明があったが、西村氏は一般メディアがニュースで取り上げるだけで終わったことをアンケートで深掘りしたことは、オンラインの使い方として王道を行くものであり、評価されるべきと述べた。さらに林教授は東京大学新聞が東大の男女共同参画や教員についての話を積極的に取り上げていることについて「東大の中の女性の心を勇気づけている」とし、今回の企画も過去にはなかったもので、東大のマイノリティーに視線を向ける姿勢を歓迎した。

 

 一方で課題も残る。西村氏、林教授はそろって見出しの無機質さを指摘した。西村氏は「記事の中には見出しとして使いたくなるような言葉があふれているし、扱っているもの自体潜在力の高いコンテンツだ。構成や見出しについて、読者を引きつけるためのもう一工夫の余地はたくさんある」とした。前総合文化研究科長の石田淳教授からは、上野名誉教授が祝辞の中で定番の「みなさん」ではなく「あなたたち」という言葉を繰り返し用いることで「みなさん」の自覚を促したなど他にも読者の注意を喚起するべき部分はあると主張。加えて、時代の変化に合わせて新たな学問が生まれているという祝辞の結論については全く触れられていないことも残念と、テーマ設定における課題について意見を述べた。

 

石田淳教授(総合文化研究科)

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