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2019年1月14日

濱田元総長も加わり「東大新聞ななめ読み」 外部有識者による編集諮問委員会を開催

 東京大学新聞社は2018年10月18日、直近1年分の記事の評価を外部のメディア・ジャーナリズムの有識者に求める「編集諮問委員会」を実施した。元東大総長でメディア法が専門の濱田純一名誉教授の他、朝日新聞常務取締役・ハフィントンポスト日本版代表取締役の西村陽一氏、メディア研究などを専門とする吉見俊哉教授(情報学環)らが委員に名を連ねた。

 

 現役東大生が自らの関心・問題意識に基づいて書いた記事は、有識者の目にどのように映ったのか。今回は単なる記事評価にとどまらず、これからの大学の在り方にも話が及んだ編集諮問委員会の模様をお伝えする。

(執筆・高橋祐貴 撮影・安保茂)

 

記事を評価する編集諮問委員一同

 

◆司会進行

宍戸常寿教授(東京大学新聞社理事長・法学政治学研究科)

◆編集諮問委員会 委員一覧

桂敬一氏(元東大教授)

西村陽一氏(朝日新聞常務取締役兼ハフィントンポスト日本版代表取締役)

長谷部恭男教授(元東大教授、現早稲田大学)

濱田純一氏(元東大総長)

吉見俊哉教授(情報学環)

 

紙面連載に「大きなテーマを考えよ」

 

 初めに批評を受けたのは、2018年1月30日発行号より紙面で連載されている企画「ミネルヴァの梟(ふくろう)──平成と私──」。平成時代の東大の変化と、その現在への影響を描き出すこの連載は、これまで学外の劇団と機動隊が衝突した「学生運動の終焉」として知られる風の旅団事件、安田講堂での卒業式再開後期試験導入駒場寮廃寮を扱ってきた。

 

 編集諮問委員からは、時系列順に連載するという枠組みの下、初回に1989年(平成元年)の風の旅団事件を持ってきた点に改善点を見いだすコメントが相次いだ。朝日新聞社の西村氏は、初回記事は面白いとしつつ「風の旅団事件のような歴史上の事件として完結させられる題材もあれば、後期試験導入など現在の状況とつなげられる題材もあり、同じように扱うのはもったいない。切り口の使い分けを考えるべきでは」と指摘。濱田元総長は「風の旅団事件はマイナーな事件で、初回に据えるには違和感がある」とした上で、個々の題材に少しずつメッセージを盛り込むのではなく、連載全体を通じて伝えたいメッセージを初回で提示すべきだったとした。

 

朝日新聞社・西村陽一氏

 

 一方で連載のテーマ上、東大のあり方の変遷についても話が及んだ。桂氏は、旧制一高はある意味独特な同質的共同体だったとした上で、平成を通じて東大がゲゼルシャフト(Gesellschaft:近代化で生じた、地縁や血縁、友情ではなく、利益や機能により人為的に形成された共同体)化してきたと指摘。東大の変化を追うことでこれからの東大の変化のあり方を提示できるはずだと述べた。濱田元総長は安田講堂の記事に触れ「総長室を安田講堂に移したのには思うところもある。これからの時代は、安田講堂をどう学生のものにしていくかということを考えてほしい」と編集部員に呼びかけた。

 

元東大教授・桂敬一氏

 

女性教員の職場環境の記事、取材先が「あと一歩」

 

 続いて取り上げられたのは「女性教員の職場」としての東大の問題を指摘し、改善のために当局が取っている施策に迫った連載記事だった。現役女性教員として意見を求められた評議員の加藤陽子教授(人文社会系研究科)は、OECD(経済協力開発機構)のデータを引用しつつ教員採用に女性枠を確保するクオータ制への賛否両論を並記するなど、根拠や論点をはっきり示した点を評価。一方、東大が採っている対策について、対応が不十分に思われる男女共同参画室室長にのみ取材した点を惜しんだ。

 

加藤陽子教授

 

 吉見教授は、最もシビアな状況に置かれているはずの若手の女性研究者に取材していない点を指摘。加えて日本の女性教員比率がOECDの中で低いということだけでなく、日本の中でも東大がとりわけ低いという事実をデータで共に示すべきだったとコメントした。

 

吉見俊哉教授

 

 濱田元総長は編集部員が東大新聞の読者層を意識しているかについて質問。紙面の主読者が東大生であることを聞くと「重要な問題だが、果たして学生はこの記事に興味を持てるだろうか」と疑問を呈しつつ「総長など東大幹部は割と東大新聞を読んでいる。そこにプレッシャーをかける意味ではいい記事だろう」と評価した。そして「記事自体の評価ではないが」と断った上で「こうした女性教員比率の問題を解決するのは本当に難しい。本気で変えようと思ったらクオータ制を導入するしかない」とコメント。東大の場合、クオータ制導入による研究水準の低下が懸念されることもあるが「『一度下がってもいい』というくらいの意気込みでやらなければ変わらない」と、悔しさを顔ににじませながら語った。

 

元東大総長・濱田純一氏

 

 濱田元総長の「大学は簡単には変わらないことを前提とした、しつこい記事作りをすべき」というアドバイスを引き継いで、西村氏が出したアドバイスが「この記事で東大が実施予定としている、男女共同参画のための施策を検証する記事の執筆」。当局にプレッシャーをかける意味でも、東大新聞が当局の取り組みを評価すべきとした。加えて、オンラインでの追加記事として「若手女性研究者匿名5人の座談会」と「男女共同参画室室長と(記事内で女性教員の問題多き現状を語った)林香里教授(情報学環)の対談」を提案。続報を出すことを呼び掛けた。

 

 憲法学者の長谷部教授は自身の配偶者が研究者になった時のことを引き合いに出し「妻が研究が好きで学者の道に進んだように、研究者になろうと女性が決意する段階では、職場環境を職業選択の決め手にするわけではない。職場環境の変化が女性研究者の比率を直接に変えるわけではないのではないか」と話した。

 

長谷部恭男教授

 

もはやページビュー至上主義など存在しない

 

 続いて議題に挙がった「新入生の47%が『不快な思い』 東大生に聞いた新歓活動の裏側」は、東大生に行ったアンケートを基に、新入生と上級生の双方が不快な思いをする新歓の形態を批判する記事。宍戸教授が「大きなサークルの新歓担当者に取材したり、サークルに入って1年たった状態でどれだけ新歓に対する印象が変わったかを取材したりしても良かったかもしれない」と追加取材を提案した他、濱田元総長が「不快だからダメだという論理を絶対視しすぎていないか。世の中嫌だけれどもやらなければならないことはいくらでもある」と、記事の前提に疑問を投げかけた。

 

 オンラインの記事から議題として挙げられたアクセスランキングは、その月に公開した記事の中で最も読まれた上位10位までの記事を改めて紹介する記事。紙面からオンラインへの読者の呼び込みを目的に、毎月紙面やオンラインに掲載されている。編集部員が目的を達成するためにはどのように書けばいいのかアドバイスを求めると、西村氏は「むしろアクセスランキングをどのように編集部員が活用するかを考える必要がある」と指摘した。例としてほぼ毎月上位3位以内にランクインしていた連載「蹴られる東大」を挙げ、「なぜこの連載が読まれるのかきちんと分析した上で、関連記事が出た際には再度SNSで流すなど、ここから発展させる方法を考えた方がいい」と呼び掛けた。

 

 他方、桂氏は「私が古い人間だからかもしれないが、オンラインの記事はスマホで情報の断片だけを読んでいるものがほとんどで、PV(ページビュー)数がどれだけ多くても本当に読まれたとは言えないのではないかと思ってしまう。アクセスランキングのようなものには実質的な意味はないし、記者は文脈をきちんと読み取ってもらえる記事を書いてどーんと構えていればいいのではないか」と違った視点からコメント。これに対し編集部員が「ページ滞在時間なども見て、どのような読まれ方をしているかはある程度把握している」と答えると、西村氏は「まさに大切なのはそこで、最近はオンラインメディアの世界でもPV至上主義から変わりつつある」と指摘した。朝日新聞社では現在、PV数だけでなく、有料・無料の会員登録数、サイトにおける滞在時間、読了率、読者の流入経路、動画の視聴時間などさまざまな指標を参考にしているという。またハフィントンポストジャパンのサイト「ハフポスト」では、その記事を読んだ読者がコメントやシェアなどの行動をどの程度起こしたかを測るソーシャルアクション数もあわせて重視しているという。

 

 最後には濱田元総長が改めて、読者のことを考えた記事執筆の重要性を「ある意味では当たり前のことだが、ちゃんとやれていないという印象を持ったのできちんとやってほしい」と強調。東大新聞の課題を明らかにした。

 

2019年1月15日2:00【記事訂正】写真キャプション中の長谷部恭男教授の名前に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2019年1月15日19:00【記事訂正】「クオーター制」と表記していたところを「クオータ制」に修正しました。

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