「世界が3次元である以上、3次元形状データを扱う技術は必要とされます」と語るのは、3次元形状モデリング技術を研究する長井超慧助教(工学系研究科)。数ミリの百分の1単位の世界で3次元のデータを操る。
長井超慧助教(工学系研究科)。手に持つのはモデルのリスの像(左)と、その3次元データをメッシュ生成したデータを3Dプリンターで実物にしたもの
長井助教の研究する形状モデリング技術はものづくりの現場で活用されることを目的に、3次元の形状データを作成・編集する技術だ。主な応用先にはCGやものづくりなどがある。「私の研究はものづくりへの応用が目的のため、極めて高い精度が要求されます」
3次元のデータは物体にさまざまな方向からレーザーや光のしまを当て、その反射光を計測して物体表面の情報をデータ化する、X線CTで物体内部まで計測するなどの方法で得る。得られた物体の形状の情報を計算機内で数学的な手法で再構築。物差しでは測れない複雑な形状の寸法を高精度に測り、設計通りの製品になっているか確認することができる。形状の持つ、強度などの物理的な特徴を解析することもできるという。
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学部時代はお茶の水女子大学理学部で情報科学を学んだ。「入学時はどうしても情報を勉強したかったわけではありませんでした」と長井助教。数学や物理が好きで、3年生のころからゼミを立ち上げて量子力学などを勉強したという。大学院は、学部での指導教員の紹介で東大の情報理工学系研究科数理情報学専攻で幅広い分野を扱う杉原厚吉教授(当時)の研究室に進んだ。「この時はまだやりたいことが決まっていませんでしたが、この研究室で与えられたテーマが今の研究につながっています」
大学院時代に研究したテーマは、スキャンデータ処理。特に3次元の点の集まりで表されるスキャンデータを、多数の多角形の集まりに変換し物体の形状を表す技術であるメッシュ生成に力を注いだ。3Dスキャンにはまだ課題が多く、実用化のために現在も研究を続けている。
形状モデリングの研究の面白さは、自分で開発したソフトウェアを動かした結果が3次元モデルとして目で見て分かることだという。「産業・芸術などさまざまな分野で、自分が作ったソフトが実際に人の役に立つのを見るとやりがいを感じ、モチベーションが上がりますね」。また、大好きな数学の理論をソフトウェア開発に応用できるのも魅力だ。「私の研究では高校や大学の教養で学ぶような数学とは趣の異なる、トポロジーや微分幾何といった専門的な数学を使っています。また、数学だけでなく物理学のような他分野の勉強ができるのも面白いです」
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「やりたいことは諦めないでひたむきに続けてほしい」と学生へアドバイス。修士課程での粘りから、杉原教授に博士課程の指導教員となる鈴木宏正教授を紹介してもらった。例題探しから自分で行ったスキャンデータ処理は本当に楽しく、日々休みなく研究を続け、研究職に就くことができた。またかねてから留学を希望し、研究と英語の勉強を続けたところ、形状モデリングの建築デザインへの応用で名高いポットマン教授を紹介してもらい、学会で実績が評価され留学につながったという。「誠実に努力を続ければ、必ずチャンスが巡ってきて、道が開けます」(西村直人)
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10年工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。理化学研究所、ウィーン工科大学やアブドゥラ王立科学技術大学院大学の博士研究員などを経て、14年より現職。
「NEW GENERATION」は東大を卒業・修了して数年の若手研究者を紹介する本紙の連載で、この記事は2016年1月26日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。