PROFESSOR

2019年12月24日

上野千鶴子名誉教授インタビュー・余録 「東大の女性差別」が映し出す東大の課題、日本の問題

 東大が抱える女性差別の問題とその解決に向けた提言にフォーカスした、上野千鶴子名誉教授へのインタビュー。今回は、インタビュー記事では割愛したものの中から、東大の女性差別の問題への理解を深めたり、より広い地平の中にこの問題を位置づけたりする上で示唆的な、いくつかの議論を紹介したい。

(構成・山口岳大 撮影・原田怜於)

 

 

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)名誉教授 77年京都大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程修了。博士(社会学)。95年から11年まで人文社会系研究科教授。11年から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。

 

目次

 

学生の問題意識をいかに高めるか

グローバル化の波に乗り遅れる東大

おっさんは危機にならないと変わらない

ニッチな分野選びが女性の生存戦略に

 

取材参加者

 

高橋祐貴(たかはし・ゆうき)

工学部建築学科3年。米ノースイースタン大に留学中のため、テレビ電話で参加。

武沙佑美(たけ・さゆみ)

教養学部学際科学科地理・空間コース3年。

原田怜於(はらだ・れお)

教養学部文科Ⅲ類1年。

山口岳大(やまぐち・たけひろ)

文学部人文学科倫理学専修課程3年。

 

学生の問題意識をいかに高めるか

 

女性比率の向上が必要となる理由が、女性差別の不公正さの是正と学問の活性化の2点にあるとされた後、学生をいかに説得するかを巡って議論があった〉

 

(高橋)五神(真)総長をはじめとした執行部の方々は、二つ目の、多様性を学内に入れることで視点を増やし学問を活性化することの方をを強調していて。

 

(上野氏)そうです。おっさんを説得するときのロジックはそれです。女を入れるともうかりまっせ、業績上がりまっせ、です。それは事実です。事実ですからそれを彼らが言うのは当然でしょう。

 

(高橋)でもそれって、学生を説得する理由にならないんじゃないかな、と。

 

(上野氏)学生は研究の最前線にいますか? いないでしょ。

 

(高橋)そこですよね。いない学生の方が多いというのがあって。それが、「学問が活性化する」というロジックだけだと、学内のホモソーシャル(性的ではない男性同士の絆を指す)な空気に対して何かを投げ掛けることができない原因で。

 

(上野氏)学生って、データも知らないし、現実を知らないでしょう。ものすごく狭い自分たちのホモソーシャルな空間の中で、ツイッターでお互いに「いいね」をやってるだけでしょう。

 じゃあどうするかというと、愚直にファクトを提示していくしかありません。データをきちんと示して、こういうことが起きている、これは問題だということを一つ一つ突きつけてきたんです。これをジェンダー統計というんですが、長い間、東大の人事は数値データを外に出してきませんでした。文科省は全大学の女性教員比率を出していますが、職位別の統計じゃないんですね。そうなると、女子大や看護系大学では女性教員が多く、平均値が上がりますが、職位別、専攻別に見ていくと、偏りがはっきり分かります。私たちは90年代末に、大学当局に学部別職位別のジェンダー統計を出してほしいと要求しました。そのときに、本部の人事担当者が言ったせりふを今でも覚えています。「東大は性別で採用しておりませんので、そのようなデータはありません」と言ったんです。あるに決まってるんです。あるのに出さないんです。それを無理やり出させてきたんですね。要求しない限り、出てこない。

 

(高橋)その時点でホモソーシャルな集団という感じですね。

 

(上野氏)特に、理工系はこういう人たちが再生産されています。東京大学女性研究者懇話会で実施した初のアンケート調査「東京大学女性研究者が経験した性差別」の結果を見たら、よく分かりました。

 身の回り3mで、ホモソーシャルな男子集団で暮らしていては、性差別についての問題意識は全く出てこないでしょう。おまけに、東大女子の入れないサークルに入って、他大の女子がわらわら寄ってきたら、いいことだらけでしょ。問題意識なんて生まれようがないですよね。私は祝辞の後、東大の学生さんとしゃべる機会がいくつもありましたが、その中での一人が、東大女子を排除したテニサーに入っていた学生でした。「疑問に思いませんでしたか」って言ったら、「自分にとってはいいことだらけでした」と本人は言っていました。とても素直で正直な人だと思います(笑)。「どうやって他大の女子をリクルートするんですか」って聞いたら、びっくりの答え。女子大の門で、声を掛ける相手には2種類ある。一つは顔のいい女子。もう一つは、テニサーだからやっぱり勝たないといけないので、顔は度外視して実力のある女の子。この二つを基準にして選ぶと。私はあきれはてました。その辺の一般企業の、総合職女子と一般職女子の採用基準と同じことを18歳のガキがやってる。これを性差別と呼ばずして何というんですか。

 

(高橋)それはその学生に伝えられたんですか。

 

(上野氏)言いましたよ。言いましたけど、彼は「4年間エンジョイして楽しいことだらけだった」と言いました。それはそうでしょう。「こんなサークルやめた方がいいとは思わなかった」と言ってました。

 

 

〈これに続いて自身も東大女子である記者から、東大女子の側も、女子率の低さゆえの利益を享受し、問題意識を持つに至っていないのでは、という意見が出た〉

 

(武)その点で、逆に女子の方も2割だから有利な立場にあるときもあるなと思っていて。例えば、性別で枠が設けられている所に、女子の方が入りやすいとか、希少価値だからこそモテやすいとか、逆にそういうところにメリットを感じている女子もいなくはないのかなと。

 

(上野氏)いいじゃないですか、それはそれで。だって、男性は長い間、組織的・構造的に上げ底を経験してきたのだから、逆転の希少価値をたまに女性が味わって何が悪いんですか。

 

(武)それは、2割という比率を是正したい気持ちには結びつかないですよね。

 

(上野氏)希少価値を維持するために他の女性を排除したい、と? 東大女子はそんなに偏狭なんですか? 少数派である利点以上に不利も経験しているでしょう。それに希少価値をエンジョイできるのは、女性性偏差値が高い女子に限られます。彼女たちも入試のときには不利を経験しているはずです。選び抜かれた女性しかそもそも受験できず、合格できず、ということになっているので。個人としてはともかく、カテゴリーとしての女性は集団として差別されているわけだから、個人にはプラスでも、カテゴリー全体にとってはマイナス。これを私たちはジェンダーの再生産と言います。ジェンダーの再生産には、男性も女性も共犯者になります。それによって利益を得る女性だっていますから、もちろん女性も共犯者になりますよ。

 

(武)そこで、外からデータなどを見て、もっと広い視野で見ていかないといけないということなんですか。

 

(上野氏)自分の場合は例外でも、実際にデータを見ればはっきりバイアスがあることは分かりますから。例えば、女性が東大に合格するに当たって、どんなサポートを周囲からもらったか。東大にたくさん卒業生を送っている中高一貫私立女子進学校もありますが、母集団の数でいうと、女子進学校の数と男子進学校の数は圧倒的に違いますから、女性は格段に恵まれた条件の人しか最初から来ないのです。桜蔭とかから来た女子学生は今まで差別なんかこれっぽっちも受けたことがないって豪語しますよ。でも、自分の周囲になぜ女性がこんなに少ないかといったら、どこかでディスカレッジされた女性集団がいるからです。そしてそのことは、自分が属する女性というカテゴリー全体の不利益につながるはずなんです。ということに、自分の半径3mだけではなく気が付くのが、学問というものなんじゃないですか。

 

(高橋)でもやっぱり、男性が多い場所で、女性が希少価値になることによって優遇されることってあるんじゃないかと思っていて。

 

(上野氏)希少価値であることで、本当にいい目に遭いましたか?

 

(武)正直に言うと、そういう環境を楽しんでいるんじゃないかなと思う人もいます。

 

(上野氏)他人のことじゃなく、あなた自身はどうですか。

 

(武)私も、少しそういう優越感を感じたことはあります。

 

(上野氏)それじゃ、合コンで東大女子と名乗りますか。

 

(武)合コンに行ったことはないですけど、言えないだろうと思います。

 

(上野氏)やっぱり自己抑制しているんじゃないですか。東大男子と東大女子の置かれた状況が違うことを自覚して、場面によって態度を使い分けしているんですね。

 

(高橋)先ほど、優遇されることがあるんだったら女性もエンジョイすればいいとおっしゃったと思うんですが、東大女子がどこかの場面で優遇されるとき、それは権力を持っている側に男性が多いからこそ生まれる優位性じゃないでしょうか。エンジョイするだけだったら、権力構造の再生産になってしまうんじゃないかと。

 

(上野氏)おっしゃる通りです。だからこれを、ジェンダーの再生産というんです。私は元京大女子でしたが、東大女子、京大女子などのエリート女を見ていて、圧倒的に男優位の集団での女のサバイバルの仕方は2通りあると感じました。顔で決まります。ちょっと顔のいい子たちはアイドルになります。アイドルというポジショニングをとって、能力をひけらかさないで、資源の配分にあずかって生き延びていく。そのときにどう言うかというと、東大みたいな大学に入れば、男子も女子も、周りに自分より優秀な学生が山のようにいることに気が付くでしょ。それを、女の子たちはジェンダーの言葉で正当化するんです。「やっぱり男の人ってすごいわね。私にはかなわないわ」って。これが、女性性を資源として活用できる女性ね。それから、女性性を資源として活用できない女たちはというと、総合職狙いです。「男に絶対負けないよう頑張る」って言って、モテない女子になるんです。これが女の生存戦略で、私はこれを半世紀前に観察しましたが、半世紀間変わってないなと思いますよ。

 米国の大学ではどうですか?

 

(高橋)男女比が1対1なので、東大ほど、男女だからどう、と感じることが少ないです。

 

(上野氏)そうでしょう。そのくらい女子がいれば、女子だからどうこう、ってもう誰も言わないし、個性で判断しますよね。

 アエラの取材を受けたときに言いましたが、英オックスフォード大に留学した東大男子が、世界中から集まる周りの女子学生がものすごく優秀なことに驚嘆して、「女の人にもこんな優秀な人たちがいるんだ」と言ったことを、その場で聞いた上智出身の女子から教えてもらいました。彼女が思ったのは、「あんたの周りにいた東大女子がバカのふりしていたことに気がつかなかったのか」って。「バカのふり」が女子の生存戦略になるんです。「あなたを凌駕(りょうが)しない」っていう、「かわいい」戦略です。これが抑圧でなくてなんですか。

 

 

グローバル化の波に乗り遅れる東大

 

〈東大の密室人事との比較で、自校出身者を採用しないというアイビーリーグ(米国東部の名門私立大学8校の総称)の慣行が紹介された際、東大の国際化にも話が及んだ〉

 

(上野氏)高等教育はグローバル産業です。このグローバル産業には、研究者と学生というアクターがいますが、この人たちは、国際移動がものすごく速いです。日本と米国を比較して思いますけれども、グローバル産業としての日本の高等教育は、完全に負けています。

 日本の中にいて安住していたら、こういう危機感は持たないでしょ。東大の研究者は、グローバルランキングをものすごく気にします。なぜかというと、自分たちの研究室から、グローバルコンペティション(国際競争)ができるような人材を育てなきゃいけないというミッションを背負っているからです。

 東大は、男女ともにインブリード率(研究者に占める自大学出身者の割合)が徐々に下がっています。海外大学の学位取得者を積極的に採るようになっています。文学部の社会学研究室でも、私学出身の海外学位取得者を積極的に採ってきました。アイビーリーグでは、自大学出身者を教員に採用しないという慣行があります。そうやって人材の交流を図っているんです。

 

(高橋)上野先生ご自身も、東大出身ではないですよね。東大出身でない研究者が東大に着任するという流れをつくる突破口はどこから出てくるのかなと。

 

(上野氏)私の採用を決めたのは東大側ですから、理由は採用した側に聞いてください(笑)。私は別に手を挙げてここに入れてくれと頼んだわけじゃありませんから。密室人事の中で、ある日お声が掛かって、青天のへきれきでした。

 

(高橋)じゃあ、システム的な話ではないんですね。

 

(上野氏)公募人事ではありません。東大の人事は今でも大半が非公開です。ですが、多様性と国際性には配慮してきたと思います。東大は、そういう意味では積極的に動いてきた所です。

 例えば、工学部建築学科に高卒の教授、安藤忠雄さんが生まれましたし、情報学環には在日韓国朝鮮人の教授、姜尚中さんが採用されました。そういう人事を比較的大胆にやってきたのが東大です。祝辞の中で「東大は変化と多様性に開かれた大学です」と言ったら、後で「そんなことはありません」とクレームが付きましたが、他大学に比べて相対的には、という意味です。

 

(高橋)国内ではそうですが、国外と比べるとまだまだだなあと。

 

(上野氏)その通りです。そもそも海外学位取得者も日本国籍者なので、外国籍教員の数は国際比較すると圧倒的に少ないです。

 もう一つ、日本の高等教育のグローバル化を阻む最大の障壁は、言語障壁です。日本語で学位論文を書いても、国外の人は誰も読まないし、誰も判定できない。そうすると、学位の国際ランキングが下がります。この間、香港大の人事の話を聞いたら、英文で学位論文を書いたらポイントを取れるけど、日本語で書くとポイントにならないと聞きました。外国人にとっては日本語で学位論文を書くのは並大抵の努力ではないのに、その努力が報われないのです。

 

(高橋)東大でそれをやったら、人が集まらなさそうですね。

 

(上野氏)そうでしょうね。中国と韓国は、日本よりはるかに英語化が進んでいます。韓国の有名大の教授昇任資格の条件は、英語で授業ができることだと。これをやったら、東大の先生たちの半分くらいは生き延びられないでしょう。

 

おっさんは不利にならないと変わらない

 

東大女子を排除するテニスサークルへの警告が話題になった際、上野名誉教授自身が過去にハラスメント防止委員会に関わったエピソードが語られた〉

 

(上野氏)東大は学部別の男女比が非常に違っていて、これを専攻のジェンダー隔離といいます。理工系は圧倒的に男子が多く、それも中高一貫男子校出身者が圧倒的に多い。彼らは入った後も、交際経験も恋愛経験もない。90年代に学内にハラスメント防止委員会をつくったとき、衝撃のデータが出てきたんです。ハラスメントというと、教師と指導学生との間の非対称的権力関係における性差別だと、私たちは予想していました。ところが、出るわ出るわ、出たのは圧倒的にストーカー事案でした。私は、ストーカー事案がいっぱい出てきたときに、「うわー、東大生らしい」と思いましたね。女性に妄想を抱いて、その女性との関係の持ち方が分からず、付きまとう。付きまといによって、女性が恐怖を感じて、学内に入れない。ハラスメントとは、教育研究の継続を阻害する権力の乱用と定義されますが、女子学生がキャンパスに入れなかったら、教育研究の継続が不可能になります。東大はハラスメント防止委員会の他に、ストーカー防止委員会を立ち上げたくらいです。

 

(原田)それでハラスメント問題は解決したんですか。

 

(上野氏)いいえ、しません。しませんが、東大のハラスメント相談所の相談件数は順調に伸びています。順調に伸びてるってことは、東大が問題だらけということではなくて、逆に相談窓口が信頼できるということの証拠なんです。

 

(原田)女性が訴えるようになっただけで、男性の意識が変わっていないということですか。

 

(上野氏)その通りですが、ハラサーは実際に制裁を受けます。被害者の女性を守る責任が大学にはあります。被害を受けた女性が告発したら、例の工学部の学生たちのように(2016年に東大生ら5人が起こした強制わいせつ事件のこと)、処分を受けます。それができるような体制を私たちはつくってきました。

 

(原田)(東大女子を排除するインカレサークルについて)教養学部報では太田邦史教養学部長が声明を出していて、学生側が主体的に変わってほしいということだろうと思うんですが、厳しいでしょうか。

 

(上野氏)自主的には変わらないでしょう。東大女子を入れないサークルに4年間いた男子は、何の痛痒(つうよう)も感じず、楽しいことばかりだったと言ってましたからね。

 

(原田)そこで自ら変わることは難しいんでしょうか。

 

(上野氏)それを既得権益といいます。積極的に手放す理由がないでしょう。彼らはそれから利益を得ているのですから。「こんなことをやると、あなたたちに不利益ですよ」と言っていかないと変わらないでしょう。

 セクハラは、おっさんが普通に振るまうと起きる、それにノーと言った女性たちが「あなたは人権侵害をやってるんだ」と告発してきて、裁判を起こし、その結果、勝訴率が高まって賠償額が上がっていった。「セクハラは損だ」、「セクハラは自分のキャリアを台無しにする」と彼らが学習した結果なくなっていったのでしょう。なくなったとは言わないけれど、少なくとも注意深くはなりましたね。

 

(高橋)論理や説得の問題というより、実利から変えていかないとってことですね。

 

(上野氏)おっさんを教育するにはね。私の経験則では、男性が論理で動くとは思えません。彼らは基本的に、利害で動きます。自分に不利になると分かったら、やらなくなるでしょう。

 

(武)東大の男子学生もおっさんも一緒ということですか。

 

(上野氏)東大生はミニおっさんの要素が強いんじゃないですか。

 

 

ニッチな分野選びが女性の生存戦略に

 

上野名誉教授が入試におけるクオータ制の導入を提言すると、それに伴う課題にも話が及んだ〉

 

(高橋)祝辞の直後に松木男女共同参画室長に話を聞きに行ったのが僕なんですが、「施策をいくつも打っているけれど全然効果が出ない。よりによって今年は女子比率が下がっている。何かいい案があればむしろこちらが教えてほしいくらいだ」と(松木氏が)言っていたんですけど。上野先生からの提案としては、選抜方式を変えろということですか。

 

(上野氏)ええ。それに、期間限定でクオータ制を採用したらいいと思います。やる気があればできるのに、やる気がないのでしょうか。

 

(高橋)米国では、ハーバード大でのアファーマティブ・アクションに関する裁判が終わったことがちょっと前にニュースになって。アジア系の学生が逆差別されているって訴えて、結果的にアファーマティブ・アクションが差別ではないという判決が出たんですけど。

 なかなか、この考えの壁を日本の大学は越えることができないなと思っていて。それは何でなのかなと思うと、東大が社会のエリート層を生産する一つの機構であるから、マイノリティー出身者を社会の意思決定層に送り込んでマイノリティーの声を拾い上げるための機関として機能しなければいけないんだという、公共に資する大学としての意義があまり考えられていないのかなと。

 米国でアファーマティブ・アクションの議論をするときって、だいたいレイシャル・レプリゼンテーション(ある集団の構成員の人種比率が、社会全体における人種比率を適正に反映していること)が行われているかというところから話をするので。東大はどちらかというと、試験が公平かどうかに論点が置かれがちだなと。

 

(上野氏)「公平」な試験で選抜している能力とは一体何か、ってことですね。

 

(高橋)そもそも、東大を受ける女子が少ないという問題があって、受験者を増やさなきゃいけないと思うんですけど。選抜方式を変えるだけで、受験者の男女比が変わるのかなと。

 

(上野氏)過渡期に短期的にクオータ制を採用したらよいと思います。

 

(原田)クオータ制を作ったら、そのまま女子率が伸びていくと考えられますか。

 

(上野氏)一定の変化が起きたらやめたらいい。

 

(山口)一回ある程度の目標に達したらやめてもいいというのは、その段階で東大の中の環境が変わっているから、その後も自動的に、入試で特別な施策を打たなくても女子率が保たれるということですか。

 

(上野氏)そういうことです。もう一つ、AO入試の枠をもっと大胆に増やせばいい。AO入試を増やせば、結果として女子比率が高まるということは、他大学の経験からも分かっています。なぜそうなるかは分からないが経験的にそうなる、というのを経験則といいます。

 

(高橋)例えばですけど、試験選抜の方法を変えずに、男女の枠を別で設けて試験をするというのは効果的だと思いますか。(東大の1学年の定員約3000人を)男女それぞれ1500人みたいな感じで。

 

(上野氏)そこまでドラスティック(抜本的)な変化は期待できなくても、3割までは増やしてもいいような気がします。3割だって相当な数です。組織論的には3割という数字は、集団の中のマイノリティが3割を超せばマイノリティがマイノリティでなくなって、組織文化が変わる、という分岐点、クリティカル・マスと言われる数字です。いろんなデータを見れば、女子を3割採ったからと言って、女子の成績が劣るとは思えませんね。

 

(原田)同じ点数を取っている男女の中でも、女子を採ることになりますよね。

 

(上野氏)それがアファーマティブ・アクションです。

 それに、難しくなっているのが、ジェンダーの自己申告が分類不可能になってきていることですね。Q(クイア、すなわち変態を表す性的少数者の自称詞)やX(自分を男性、女性いずれの性別にも合致しないと認識する人)の人をどうするんだっていう。

 

(高橋)それすら議論に挙がっていないのが東大なんですよね。

 

(上野氏)ですね。

 

(武)そのときに、男女という枠をまず考えるということ自体は、いいんですか。

 

(上野氏)だってそれが現実ですから。ジェンダー統計を見れば、明らかにバイアスがあることは、疫学的に証明可能です。

 

(武)そうなんですが、そもそも今、ジェンダーという概念が多様化する中で、今から男女で分けるみたいなことをすることで……。

 

(上野氏)性別二元制は強固に続いています。QやXを自称する人が増えたところで性別二元制が揺らぐわけではありません。むしろ性別二元制が強固だからこそ、それに抵抗するQやXの人が登場するのでしょう。対応は簡単です、MとFのほかに「その他」もしくは「答えない」という分類カテゴリーをつくればそれでいいんですから。

 

(武)あと、3割の女子枠を導入する際に、やっぱり文系がすごく増えるかなと。例えば、文Ⅲは女子が4割に達するときもあるんですけど、理系は全然届かないとか。

 

(上野氏)部局別に対応すべきでしょうね。

 

(高橋)社会全体で理系に女子が全然行けないという風潮がありますね。

 

(上野氏)これも専攻の性別隔離ですね。リケジョを増やせっていうのは国策です。男女で理系脳、文系脳があるわけではありませんから、それもジェンダーの社会化の効果でしょう。

 

〈クオータ制の課題の中で、文系理系や専門分野ごとに男女比に差が出ることが指摘されたが、この「専攻の性別隔離」にどう向き合うべきかについても議論があった〉

 

(上野氏)理系の女性研究者のサバイバルの仕方を見ていたら、まず上司のいない先端分野を選ぶ傾向があります。だから、女性は、教授のいない分野の学部初の女性准教授になったりしています。それともう一つは、女性は研究テーマに、男性と競合しなくてすむニッチを選ぶ傾向があります。スーパーカミオカンデみたいなチームを組んで取り組む大プロジェクトには入らないし、入れてもらえない。

 

(高橋)最初はそれでいいんですかね。

 

(上野氏)初期はやっぱりそうなるでしょう。理工系の研究者は基本的に中小企業のトップのようなところがあって、プロジェクトをつくって、人を手当てして、金を取ってくるのが仕事ですから。でもそれをやってる女性研究者はたくさんいますよ。

 

(高橋)考えようによっては、新しい分野がたくさん生まれている今の時代ってチャンスかもしれないですね。

 

(上野氏)そうです、その通りです。だから、ナノテクとか、生命科学の先端分野では女性がすごく多いです。

 

(武)そういうところ(男性の教授が少ない先端分野)に、興味関心を抱けなかった人は、結局、教授にはなれないということですよね。

 

(上野氏)そうではなく、女性研究者は生き延びるために、興味関心の適応的調整をやっているということです。それが男が目を付けない新しい分野を、結果として生み出しているということです。

 

(高橋)難しいですね。競争率の高いところに行かないと逃げたと思われるような価値観があると、(ニッチを選んだ女性が)自分を納得させるのが難しいというか。

 

(上野氏)競争とは何でしょうか。すでに確立した分野で、スーパーカミオカンデとか何百億円規模のプロジェクトをやって、あれだけの国家予算で、数百億円に一人ノーベル賞受賞者が出るのは、コストパフォーマンスから考えたら、もらって当然でしょう。おっさんたちがそういうことをやってきてるから、そこに入らなくても、別のことをやったらいいんです。ベンチャー企業の生き延び方も同じですよ。

 理系の女性研究者は男性との競合をできるだけ避けるような分野選択をする傾向がありますね。それが結果として、彼女たちの生存戦略になるんでしょうね。

 

(高橋)分野別に、男性が多い、女性が多い、っていうイメージがあって。

 

(上野氏)ありますよ、もちろん。過渡期はそういうものでしょ。でも、いつまでも過渡期じゃありませんから。米国には、アストロノーマー(天文学者)の女性研究者もたくさんいますね。

 

(高橋)男性が多い分野で研究したいという女性が、その選択肢を選べることが、本当の平等なんだろうなと思います。

 

(上野氏)自由に選択できるっていうのはそういうことでしょうけれど。今は自由に選択できる状況じゃないので。女子にとっても男子にとっても、東大に行くこと自体、自由な選択じゃありません。

 

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