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故・瀧本哲史氏によって創設された瀧本ゼミ政策分析パートは、政策分析・提言というアプローチでの社会課題の解決を目指している。伊丹裕貴さん(文Ⅰ・2年)と真次優芽さん(一橋大学・4年)に学業と並行して学生が政策分析の活動を行うことの面白さや苦労、具体的な活動の裏側を聞いた。(取材・鈴木茉衣)
──活動内容を教えてください
伊丹 社会課題を解決する学生シンクタンクと自称しています。活動の一つは政策を立案することで、もう一つがその提言です。立案では、実際に提言をした時に「それだったらやってみよう」と言ってもらえるよう、徹底的なリサーチを行ってエビデンスを示します。提言ではいわゆるロビイングのようなことだけではなく、広く社会実装を目指します。議員や自治体に提案することも、企業に提案したり研究者と共同研究を行ったりすることもあります。
──特に直近の活動の具体的な実績は
伊丹 立案では、例えば高齢者の脱水症対策を考えました。健康診断の結果から隠れ脱水状態の高齢者をスクリーニングし、その人たちにアドバイスするとともに経口補水液を送付する、というものです。他にも営農用のソーラーシェアリングを活用した環境政策や、吃音(きつおん)の方に対してオーストラリアで行われているiGlebe(iグリーブ)というものを日本で実装し社交不安を改善するという政策を考えました。
提言では認知症予防に取り組みました。認知症の前段階の一つである「MCI(軽度認知障害)」の方を見つけるという政策を渋谷区議会議員の方に提案し、議会質問が行われました。
──吃音の方の社会不安解消策の実装について、詳しく教えてください
真次 吃音は国内で研究が進んでおらず、特に当事者の方々の社交不安に対しては実証研究に基づいたアプローチがほとんどされていませんでした。実はゼミの中で数年前に同じトピックを扱おうとしていた方がいたのですが、当時は定量的なデータがなく議論がしにくいといわれていたんです。改めて自分で調べてみたところ、吃音の定量的なデータが集まってきていることが分かり、かつ既に定性的なデータは充分にそろっていたので、議論の場に持って行けると考えました。iGlebeは英語圏で開発・実証研究がされたので、日本語圏でも効果があるか調べ、日本人・日本の文化に合うようにして広めることを着地点としました。現在、研究者や企業を探して協力を仰いでいます。
──学生として政策立案、提言を行うことはハードルが非常に高いと思いますが、活動の大変な点や成長を感じた経験などはありますか
真次 むしろ学生だからこそ動ける領域が大きいと捉えています。ブルーオーシャンな領域に取り組むことで、大学生でもできる場所を自ら発掘していこう、という発想です。一方で企業・研究者と協働する際には学生扱いではなくなるので、一層真剣に取り組むことは求められます。こちらは学生団体として利害関係なく取り組んでいても、企業や研究者にとっては何かしらのインセンティブがある形で一緒に進めていく必要があるため、それが何なのかをしっかりと説明できる必要があります。学生だから、と甘く見られず取り組むことの難しさと大切さは実感することが多かったです。
──理想だけに終始せず、現実的にできることを考えることがポイントになるんですね
真次 はい。ユートピアを作ろうとしているわけではなくて、いかに現実に即した議論の中で、かつ定量的に測れる部分も大事にする中で、どうすれば本当に社会を変えられるかに重点を置いて議論をしています。
伊丹 リサーチを進めると、自分の仮説が既に試されていたものであったり、間違っていたり、理論上は可能でも制約があったりと、社会におけるさまざまな理不尽さや複雑さに直面することがあります。政策立案という目的の障壁となるようにも思えますが「社会はこんな複雑なんだ」「こういうところに改革が進まない原因があるんだ」と実感できるのは、自分の内面的な成長につながります。
──お二人はどんな思いで瀧本ゼミに参加したのですか
伊丹 僕はもともと政治に関心があったのですが、大学で学問としての政治は学べても、政治や政治家の実態を学べないのがもったいないなあと思って。瀧本ゼミは論文やエビデンス、データを実際の政治に反映させるという、二つの橋渡しができるのが面白いなと思って入りました。
真次 私は大学では政治ではなく、開発経済学や環境経済学を学んでいます。どんな分野でも、自分の知らないことを知るのが何でも好きというタイプで、知らない世界に対しての純粋な好奇心から入ゼミを決めました。また、大学の勉強がインプット中心でアウトプットの機会がないことを悩んでいたので、社会実装を大事にしている点に魅力を感じました。
──瀧本ゼミでの経験は、個々の卒業生の方の進路にどう生きているのでしょうか
真次 ゼミで培った論理的思考力や行動力などのエナジーを、今後自分がどこに向けていくかそれぞれが考えて別々の方向に向けている印象があります。研究の道を歩む方もいれば民間企業に入った方もいますが、出身者の進路の多様さにはゼミ内での扱うトピックの多様さが反映されていると思います。
──求められる資質は
真次 一番は社会に対する関心です。世の中はどう動いていて、より良くするにはどうすればいいんだろう、という好奇心はゼミ生に共通していると思います。また、立案も提言も一筋縄ではいかないところがあるので、つまずいた時でも「これはこれでいい学びになった」「次は考え方を変えてみよう」と思えるリサーチ体力や新規性を追究する能力なども必要です。
伊丹 司法などではなく公共政策で、またグローバルにというよりはローカルな日本社会で活動しているゼミなので、身近な社会の解像度を上げたい、変えたいというパッションを持っている方を歓迎します。また、リサーチを進めてみたものの大学生の立場から介入できるポイントがなく、諦めることも往々にしてありますから、そういった状況でも議論を楽しめて、フィードバックを受け入れる柔軟さがある方にぜひ入ってほしいです。
──入ゼミを希望している学生へのメッセージをお願いします
真次 われわれも新しい人が入ってくる分だけ新しい視点を知れるので、純粋に楽しみです。お互いの意見を高め合うための時間として真摯(しんし)に議論を楽しめる関係性を先輩後輩関係なく作っていきたいと考えているので、一緒にそんな環境を作れたらうれしいです。
伊丹 エビデンスに基づき自分たちでリサーチして立案した政策を社会実装に移す、ということをやっている学生の団体は日本を見渡しても他にないと思います。それを大学生のうちに経験できるのはとても貴重な経験です。検討している方はぜひ来てください。