美味しい食とお酒、そして奇麗な風景を楽しみながら被災地復興に貢献する……。
「東北風土マラソン2014」に参加すれば、こんな欲張りが叶う。
この欲張りな仕組みの発起人である竹川隆司氏と、運営に携わる東大院生北川烈さんにインタビューした。
――「東北風土マラソン」とはどのような企画なのでしょうか?
竹川 このマラソン大会の主目的は、東日本大震災の被災地復興です。開催場所は宮城県の登米市という場所ですが、実はこの場所は、震災直後、津波で被災した沿岸地域の復旧においてハブになったところなのです。今回はそこに東北の様々な要素を集め、多角的に復興支援をしたい、というわけです。
――復興支援としてのマラソンですか…!
竹川 ええ。僕は仕事柄、海外に滞在することが多いのですが、地震直後は、例えばアメリカでも、本当に多くの人が日本の地震のことを心配してくれていました。自分でも、被災地のために何かしたい、という思いをあたためていて、考えついたのが今回の「東北風土マラソン」です。本企画のモデルとしたのは、フランスで30年以上続いている「メドックマラソン」という大会です。メドックマラソンの参加ランナーは、シャトーなどを巡り、ワインを飲みながら走るんですよ。
――えっ、ワインを飲みながら…!?
竹川 おもしろいでしょ。休憩ポイントごとに、地元の料理が振る舞われたりもするんです。メドックマラソンには、ランナーだけでなく、ランナーと一緒に訪れる家族や友人など、3万人以上が開催地を訪れます。マラソン前後にもイベントが催され、全体で約20〜30億円の開催地への経済効果があるとされています。地元の人たちも毎年、積極的に運営に携わるなど、楽しみにしているようです。今回の「東北風土マラソン」は、このメドックマラソンは勿論、多くの日本の企業や自治体の協力で成り立っています。
――被災地復興にメドックマラソンの魅力を活かそうと思いついたきっかけは?
竹川 もともと私自身、東北が好きだったのです。料理も日本酒も美味しい。景色も、空が開けていて気持ちいいですよね。このように東北には、東京とは異なる魅力がたくさんあります。と同時に、東京との距離は近いんですよ。今回の開催地である宮城県登米市までは、東京から新幹線などで3
時間くらい。東北って、東京から近いのです。
――東北風土マラソンでは、どのように地元の物産に触れられるのでしょうか?
竹川 コース内に設けるエイドステーションで、東北各地の食材を出す予定です。拠点の会場で同時開催する風土博覧会でも、東北全体の物産を販売しています。イベント期間中、沿岸部を視察するバスなども出すので、沿岸被災地の現状を知りたいという人にも、是非足を運んでもらいたいですね。
それから、仕込み水って分かりますか?
――水…ですか??
竹川 日本酒を作るときに使うのが仕込み水です。エイドステーションではこの水を提供します。この水がおいしいんですよ〜!
――飲んでみたいです!…日本酒は?
竹川 日本酒は、ゴールした後の場所で、提供します。(笑)
――では、東北風土マラソンと、メドックマラソンとの違いは何すか?
竹川 大きいのは、子供だけが参加できるキッズランという機会を設けたことです。これには二つの思いを込めました。一つは、子供達に、小さいときからランニングに親しんでもらいたいという思い。もう一つは、その子供達が大きくなってから、東北風土マラソンを支えてもらいたいという思いです。
――ということは、東北風土マラソンは、今回だけで終わる企画ではない、ということですか?
竹川 はい、続けて行きたいと考えています。マラソンの企画当初から僕は、単発型の「支援」ではなく、サステイナブルな「仕組み」や復興支援の受け皿となる「場」を作っていきたいと考えていました。ですから、是非、東大新聞の読者である大学生など、若い人にどんどん参加してもらいたいのです。ランナーもボランティアも、4月4日まで募集しています。「ボランティア」と一口に言っても、ルート整備やブース準備だけ、ということではありません。東北風土マラソンは産まれたばかりの企画。ここには、色々なコミットの方法があります。自分に出来る範囲のことを、主体的に探しに来てほしいと思っています。
――世間では、「今の大学生は受け身的だ…」なんていう若者論もあるようですが…?
竹川 僕自身はそうは思っていません。向上心や日本の将来への危機感を持っている大学生は多いと思います。だからこそ僕は、大学生や若い人が、その熱い思いをぶつけられる「場」や、彼らが主役となって活躍できる「仕組み」を、きちんと作りたいと考えているのです。
――では東大院生で、東北風土マラソンの運営に携わっている北川さんに聞きます。この企画に携わろうと思ったきっかけは?
北川 自分も楽しんでコミットできる企画だな、と思ったのです。上から目線な「復興支援」はちょっと違うな、と思っていたので、この企画の、現地の人と一緒に作り上げるスタンスに惹かれました。そもそも、東北に対しては、心理的な距離の近さを感じていました。母方の実家が東北なのです。自身が留学から帰国したときにこの企画について知り、挑戦することにしました。
――企画に携わりながら、勉強になったことは?
北川 開催地に出向いて、現地の方と話すことが多いのですが、毎回、人の温かさを感じます。企画運営を通じ、東京の大学内で過ごしていては出会えなかった方々との出会いをたくさん経験しました。刺激をもらっています。それから、大雪の中、マラソンコース周辺のお宅を訪れたとき、ご飯をご馳走になりました。おいしかった…。(笑)
――同年代のメンバーがもっと増えたらいいですよね。
北川 そうなんです。東北風土マラソンには、本当に色々な関わり方があります。コアな企画メンバーとして携わってもらう余地も、まだまだあります。大会当日に応援隊として訪れる「ゆるきゃら」の中に入る、なんていうボランティアもあり得るかもしれません…!(笑)
そしてもちろん、たくさんの大学生に、ランナーとして参加してほしいと思っています。
竹川さんが語ってくれた、「走るとは人生そのものです」という言葉が印象的だった。その心は、「色々な積み重ねがあって、今という一瞬があるから」、「山も谷もあるが、練習は嘘をつかないから」だそうだ。竹川さんオススメの本は村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』。自称運動が好きな筆者だが、マラソンに挑戦した事は無い。まずはオススメという書をひもとくことから始めるべし…!?
文・菅野千尋
ランナー、ボランティアの募集は4月4日まで!あなたも参加してみては?
www.tohokumarathon.com
竹川隆司
2000年国際基督教大学卒業、野村証券に入社。米ハーバードビジネススクールでMBAを取得。2011年に朝日ネットに入社。米国子会社を設立し、大学向けに授業支援システムを提供してきた。2013年に同社を退社し、現在は発起人代表として東北風土マラソン&フェスティバル2014の準備を進めている。
北川烈
東京大学大学院学際情報学府修士1年。現在、東北風土マラソンの運営メンバーとして活躍中。