新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年度はキャンパスを訪れる人が激減した。その影響で東京大学消費生活協同組合(東大生協)の経営は苦しいものとなった。新型コロナウイルスの感染拡大は東大生協にどのような影響を与えたのだろうか。またそれに伴って東大生協の利用者の生活はどう変わったのだろうか。東大生協と利用者の現状から、今後の東大生協を探っていく。
(取材・安部道裕)
利用者数激減で苦境にーー駒場食堂は1/6
東大生協の事業は購買、書籍、トラベル、食堂の四つに分けられる。事業別に2020年度の経営状況を19年度と比較して見ていこう(図1)。東大生協で専務補佐を務める石幡敬子さんに話を聞いた。
食堂事業は四つの事業の中では利益率が高いため、新型コロナウイルスの感染拡大による影響も最も大きかったという。利用者数は例年と比べ駒場食堂で約6分の1、中央食堂で約半分となった。原材料の価格高騰や物流の停滞の関係で、麺類など一部のメニューを値上げすることとなった。
購買事業ではおにぎり、弁当などの食品が最も打撃を受けたという。新型コロナウイルスの感染拡大による製造元の休止、さらには物流の停滞が原因だ。その影響で品薄の状態ともなった。一方でパソコンや電子機器に関しては例年よりも好調だった。オンライン授業のための準備で需要が拡大したことや校費・研究費の利用が伸びたことが理由だ。
書籍事業では、キャンパスを訪れる人が少なくなったことで、店頭販売で厳しい状況が続いたという。20年4月からは、店頭で教科書を購入できない学生に対応するため、新たに教科書販売の配送サービスを開始した。
トラベル事業は、Sセメスターでは利用者がほぼ皆無だった。夏季休業期間やAセメスターでは帰省や自動車免許取得のために利用する人が少数いたが、依然として利用者は少ない。
全体としては、20年度は事業余剰(本業での利益)で3億4505万円の赤字となった(図2)。東大の役員に、東大生協の状況を役員会議で共有してもらうなどして、東大からの支援を受けた。また政府から雇用助成金が出たことから、当初想定していたほどの赤字は出なかったという。さらに昨年12月には「東大生協加入・増資キャンペーン」を実施し、総額198万6200円の出資金増強が図られた。
利用者の生活にも変化が
新型コロナウイルスの流行は、東大生協の利用者(組合員)にも影響を与えた。Aさん(養・3年)は、19年度の平日は食堂など東大生協の施設を毎日利用したが、20年度は年間を通してほとんど利用しなかった。代わりにコンビニで食事を済ませたり、自炊をしたりしていたというが、食費は高くなったそうだ。教科書や参考書も、従来は組合員価格で安く買えることから東大生協を利用していたが、20年度は東大生協の書籍部をあまり利用しなかった分、出費は増えた。
一方で、購買部でのキャッシュレス決済の拡大や、書籍の配送サービスについては、新型コロナウイルスの流行以前には実現されておらず、不満に感じていたという。
東大生協の今後は?
20年度の経営を踏まえて、東大生協は今後の対策も打ち出している。購買部では物流や製造元に左右されないようにするため、食堂で弁当などを作る予定だという。オンライン授業のための機器類は21年度も新入生、教員への提供を強化していく。しかし政府からの雇用助成金は21年度も継続されるか不明なため、21年度の赤字はさらに大きくなると予想されるという。
役員報酬や物件費の削減、他の生協への人員移動による人件費削減や体制縮小に取り組み、今後は中期的な再建計画を立てていく。まずは2年後に収支均衡となることを目指している。
とはいえ、学生、教職員の支援や組合員の交流といった、東大生協の役割や存在意義は、今後も変わらないという。
東大生協は04~16年度にも累積赤字を抱えていた。組合員のための必要な投資が行えないなど、石幡さんによれば「企業体として健全だとはいえなかった」。しかし17年度以降は黒字となり、駒場食堂の椅子を新しくするなど、組合員に還元していくことができた。この経験を、現在の経営状況の改善にも生かせるか注目したい。