新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に大きな影響を受けた東大。異例の事態が相次いだ総長選考や日本初となる大学債の発行など、今後の東大の在り方を左右する重要な出来事も相次いだ。東大の1年を振り返り、展望を考える。
日本初の大学債発行 償還の見通し不透明
東大は10月、新たな財源確保策として「東京大学FSI債」(大学債)を発行した。発行額は総額200億円で、償還期限は40年。
これまで国立大学が債券を発行する場合には、附属病院や寄宿舎の整備など直接的な利益が確実に見込める事業を目的としたものしか認められていなかった。しかし、五神真総長の要望によって6月に国立大学法人法の政令改正が閣議決定。大学が生み出す余裕金などを原資とした債券発行が可能になった。
今回発行された大学債は社会問題解決に貢献する目的で発行されるソーシャルボンドに該当。発行実務に当たった坂田一郎副学長(経営企画、企画調整担当)は五神総長が掲げる未来社会協創(FSI)に活用するための発行であると説明しており、発行予定額の6倍を超す1260億円の注文が集まったという。
調達した資金はキャンパスのリノベーションに最優先で用いる予定。リモート学習やオンラインと対面を組み合わせたハイブリッド授業にも配慮したキャンパスのスマート化を今後数年かけて目指す。他にもハイパーカミオカンデ計画やチリで建設が進むアタカマ天文台計画などへの投資が想定されているというが、具体的な投資計画は各部局からの提案を基に今後決めていくという。
債券の償還には寄付金の資金運用高度化や土地・施設の貸し出しなどで得られる余裕金を当てる予定で、既に年間10億円の余裕金を生み出せる見込みが立っているという。ただ、東大は今後も大学債を継続的に発行する予定で五神総長は10年で最低1000億円の発行を想定している。40年期限の債券を10年で1000億円分発行するとなると年間10億円の償還では追い付かない。今後は償還計画を明確化するとともに、発行の目的を再度問い直すことが求められる。