新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に大きな影響を受けた東大。異例の事態が相次いだ総長選考や日本初となる大学債の発行など、今後の東大の在り方を左右する重要な出来事も相次いだ。東大の1年を振り返り、展望を考える。
新型コロナウイルス感染拡大 影響は甚大かつ長期的
全世界を翻弄し続ける未曾有のパンデミックに揺れた2020年。東大もあらゆる面で大きな転換を迫られた。COVID-19を巡る東大の対応を振り返ろう。
相次ぐ国内での感染者判明で先行きが不透明になりつつあった2、3月。恒例のイベントや式典は規模縮小や中止の報が相次いだ。2月29日には例年多くの新入生がクラスの親睦を深めるために参加する「オリ合宿」の中止が発表。3月4日には19年度の学位記授与式・卒業式を代表者のみの出席で行うとされ、18日には両国国技館での開催が予定されていた入学式の中止が発表された。
新年度の大学の行方に注目が集まる中、太田邦史東大大学院総合文化研究科・教養学部長は大規模なオンライン授業の導入や、対面の課外活動の一律禁止を表明。27日には教養学部独自の指針を2番目に厳しいステージ・オレンジへ移行し、Sセメスターの1、2週目の授業を休講とすることを決定した。31日には全部局で当面の間オンライン授業のみとなることが発表された。
東大本部は4月3日に活動制限指針を発表。緊急事態宣言発令後の8日には2番目に厳しいレベル3にまで引き上げられ、引き続き対面での課外活動が全面的に禁止された他、学内での研究も原則中止となった。
緊急事態宣言下の経済活動縮小や課外活動禁止で学生は苦しい立場に追い込まれた。4月下旬に全国の大学生協(消費生活協同組合)が合同で実施したアンケートでは、回答した東大生のうちアルバイトをする学部1年生の38.4%、学部2~4年生の67.8%が、収入が「大きく減少」もしくは「減少」したと判明。学部生の47%が経済的に「非常に不安」もしくは「不安」と答えた。また学部2~4年生からはサークルなどで新入部員を獲得できないことを心配する声も聞かれた。
東大は家計が急変した世帯への授業料減免や、経済的支援を要する学生への5万円支給などの支援策を実施。東大に在学したことのある女性と女子学生からなる同窓会「東京大学さつき会」も申請資格を満たす女子学生を対象に奨学金の給付を発表した他、東京大学基金が募金を呼び掛けるなど経済面での支援策が続々と講じられた。
緊急事態宣言は新規感染者数が落ち着きつつあった5月に解除され、6月以降学内の制限も徐々に緩和。7月13日にはレベル0.5(ステージ・イエロー)まで引き下げられた。課外活動施設も7月末から8月にかけて利用が再開。Aセメスターには一部で対面授業が開始され、学部新入生は初めてキャンパスで対面授業を受けることになった。
通常開催が困難となったイベントはオンライン開催で日の目を見ることに。4月に通常開催断念が発表されていた五月祭とオープンキャンパスは9月に、駒場祭は例年同様の日程で11月に、それぞれオンラインで開催。オンラインならではの試みが注目を集めた。
学内外でオンラインの活用が広がる一方、そうはいかない分野では新たな対策が必要になる。多くの受験生が会場に足を運ぶことになる前期日程では、COVID-19の罹患者や濃厚接触者らを対象とした追試験を実施することに。対象者が少数にとどまる限り募集人員通りの合格者を10日に発表する予定で、追試験は絶対評価で26日に合格者を発表するという。学校推薦型選抜でも実績証明に例年ほど厳密性を求めない配慮が示され、応募者は前年度を大きく上回った。
今年相次いだ式典の規模縮小やオンライン授業の活用は長期的に続く模様だ。11月25日には21年度の授業でも対面とオンラインを併用すると発表。12月3日には20年度の学位記授与式・卒業式も代表者のみの出席で開催される方針が示されている。
長期化する「規模縮小」「オンライン授業」への評価はさまざまだろう。仮に感染拡大が収束したとしても元の大学の姿に戻るべきではないとの意見もある中、オンラインの特性を考慮しながら、今後の大学の在り方として最もふさわしいものを今のうちから模索することが重要になる。