入試時に高い英語の能力(上位1割程度)を持つと認められた学生のうち、希望者を対象に第二外国語を集中的に鍛えるトライリンガル・プログラム(通称TLP)。中国語を皮切りに、2019年度現在、六つの言語でTLPが用意されている(表1)。TLPの設立に携わり、現在は後期TLPから発展したEAA「東アジア教養学」のコーディネーターを務める石井剛教授(総合文化研究科)に中国語を例にTLPについて話を聞き、TLPに参加した学生3人の声を聞いた。
(取材・米原有里)
TLPはいつ、どのような経緯で設立されたのですか
TLPは2013年度に実験的に開始されて、14年度に本格始動しました。当時、国際的な大学ランキングで非英語圏でありながら上位にあったのは東大だけでした。英語圏にはない、東アジア的な特性で世界に伍していくために、英語と並んでグローバルな言語となるであろう中国語を扱える人材を育てたいと思ったのがTLP創設のきっかけです。
現在、従来の西洋的な民主主義のあり方に軋みが生じている一方、中国が急激に発展しています。そのような視点で見たとき、数十年後、中国語を使えるか否かは決定的な違いをもたらすと思います。英語と中国語を徹底的に学び、西洋的な知の世界でも、中国的な漢字文化圏でもない、新たな世界のあり方を考えられる人材が必要なのです。
TLPの授業にはどのような特色があるのでしょうか
一部独自の教科書を使ってはいますが、TLPと一般の授業とで決定的な違いは特にありません。あるとしたら教え方の違いでしょうか。中国語はTLP生のみのクラス編成で、TLP担当の先生同士で個々の生徒について話し合い、TLPの授業同士が有機的に連動するように工夫しています。
TLPの最大の魅力はなんでしょうか
少人数できめ細かい授業ができることでしょうか。中国語は1クラス20人以下に収まるようクラスを作っています。先生方もTLPを熟知した先生ばかりで、学生さんと先生との距離が近いです。また、海外研修に企業からの支援をいただくなど、社会からの期待が大きく、言語学習にとどまらないさまざまな活動の場が提供されます(写真)。
TLPで養成される語学力とはどのようなものでしょうか
結果的に修了生はHSK(中国語の検定試験)5級程度(注・全6級のう2番目に難易度が高い)の語学力を身に付けますが、特にそれを目標としているわけではありません。学生には、前期教養課程が終わる時までには中国語で授業を受けることができるようになろうね、と言って教えています。正確な読解力によって身に付けた教養と、それに支えられた発信力を習得することが目標です。
TLPでは授業についていけなかったり、必修科目の多さ(表2)を負担に感じた多くの学生が離脱したりしています(表3)
半数以上の学生が離脱してしまうのは問題ですが、そもそもTLPはできる人を伸ばすように設計されているので、やむを得ない面があります。私が学生に伝えているのは、たとえ脱落したとしても、たまたま中国語が自分に合わなかっただけだということ。みんな東大生だからどこか他の場所で能力を発揮するはずで、そこに能力の優劣はありません。むしろTLPを続けた人と疎遠にならずにお互いリスペクトし合ってほしいですね。
15年度に教養学部後期課程で設立された、中国語においてのみ開講されている後期TLPとはなんでしょうか
前期教養課程修了後、中国語のさらなる向上を求める生徒を対象に発足したプログラムです。前期TLP履修者に限らず、中国語と英語ができる優秀な学生が集まっています。20年度からはEAA(東アジア藝文書院)と名称を変更し、進化します。従来は言語運用能力を高めることにとどまっていましたが、EAAでは提携する北京大学と協力し、中国語と英語を使ってこれからの世界を考えることのできる人材育成を目指します。
TLPの履修を迷っている新入生に向けて一言お願いします
TLPを履修し、多くの言語を使って世界を考えるという喜びを感じてください。多角的な視点で世界を見ることで、多くの想像力が生まれてくるからね。
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この記事は2020年3月10日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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キャンパスのひと 中村慧地さん(文Ⅱ・2年)
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