2025年1月29日

『東京大学新聞』ができるまで ~信頼されるメディアとしての体制~

 

 

 メディアが信頼されるために、記事がどのようにできるかを読者に知ってもらうことは重要だ。しかし「東大新聞」こと『東京大学新聞』の読者が、紙面がどう作られているかを知る機会はほとんどない。そこで今回は東大新聞の記事や特集号ができるまでを解説する。責任あるメディアとしてどのような取材・校正体制になっているのかに注目してほしい。また後半では東京大学新聞社の組織概要を紹介する。普段の記事とは少し違うテイストで『東京大学新聞』そのものを知ってほしい。(取材・吉野祥生)

 

【一つの記事ができるまで】二人三脚の原稿執筆

 

 『東京大学新聞』の記事を執筆および校正するのは、現役東大生の部員で構成される編集部だ。編集部は、ニュース面、学術面、文化面、部活・サークル面の四つの面(担当部局)に分かれており、原則として各編集部員はいずれか一つの面に所属する。今回は、私の所属する部活・サークル面を中心に記事がどのように取材を経てできあがるかを紹介したい。部活・サークル面は、東大の運動部が出場する試合を中心に取材する。試合日程を各部のウェブサイトやSNSで確認して、取材に行ける編集部員を面内で募集するが、他の面の部員に参加してもらうことも多い。

 

 東京六大学野球のリーグ戦は定番で、基本的に東京大学運動会硬式野球部が出場する全試合は、神宮球場へ取材に行く。硬式野球部以外の部活は、重要な試合や取材依頼のあった際に取材に行くことが多い。また、記者が希望した部活やサークルを取材することもある。取材の前には、取材許可の申請など関係各所と調整を行う。試合を取材するときは基本的に複数人で現地へ向かい、試合の模様やスコアを記録するとともに、選手の写真を撮影する。試合終了後には、選手やコーチなどに直接インタビューを行うことも多い。ここまでが、部活・サークル面特有の取材方法だ。

 

スポーツ取材では、感動的な場面に立ち会うこともある(写真は2024年10月13日、硬式野球部が東京六大学野球にて法大にサヨナラ勝ちしたシーン、撮影・五十嵐崇人)

 

 取材の対象や内容は、面によって大きく異なる。あくまでも一例だが、ニュース面では入試の前などイベントごとに、東大が開く記者会見に出席して質疑応答をもとに速報記事を書く。学術面では東大の教員に専門的なインタビューを行う。文化面では学外に飛び出して、美術館や映画など記者それぞれが関心を持つ対象に取材するなどさまざまだ。記事作成はライターとチェッカーと呼ばれる2つの役職で二人三脚で行う作業だ。取材で得た情報を、原稿執筆を担当するライターが字数指定などに合わせ文章に起こす。ライターは取材をした部員が務めるのが通例だ。

 

 いったん原稿ができたら、記事を校正するチェッカーに送る。チェッカーは表現や構成が適切かを確認し、推敲(すいこう)した原稿をライターに提案する。ライターはチェッカーの入れた添削を受け入れるか、受け入れないなら自身が納得いく表現に直して、第2稿をチェッカーへ再び送る。こうして原稿を数往復させると、ライターもチェッカーも納得した完成稿ができあがる。完成稿になった原稿は、必要があればインタビュー相手に関係する箇所のみを送付し事実関係や表現を確認してもらう。その確認を経た原稿は「掲載稿」となり、ここでライターとチェッカーの役割は基本的に終了する。掲載稿は次節で説明する校正作業へと移されていく。

 

チェッカーによる校正の例(赤字がチェッカーによる修正の提案)

 

【一つの号ができるまで】特集号は「届けたい記事の詰め合わせ」

 

 2021年に発行形態を週刊から月刊に変更して以降の『東京大学新聞』は、各号24面構成が基本で、毎号が特集テーマのある「特集号」だ。一つの号には十数本の記事が掲載される。その構成を考えるのは「総括」と呼ばれる役だ。毎号別の部員が総括を担当する。総括の最初の仕事は号の構成や特集の内容を考えることだ。この2025年1月号なら、特集のテーマは「AIとジャーナリズム」。今号の目次を見ると、前半に特集テーマに沿った記事がまとめられ、後半には報道記事やスポーツニュース、文化記事や学術記事が並んでいるのが分かる。

 

『東京大学新聞』2025年1月号。特集テーマや特集記事の内容は総括が決めている

 

 特集記事を何本用意するか、各記事にどれだけの紙面を割り当てるか、正副編集長をはじめ各役職者と共に話し合って決める。 構成が決まれば、特集記事のライターやチェッカーを総括が割り振り、内容や進捗を自らも管理しながら進めていく。一方で、ニュース面、学術面、文化面、部活・サークル面それぞれが担当する記事は、各面のチーフが主導して独自に進行していく。紙面構成の慣例として、2面から3面は巻頭インタビュー、24面には総括によるコラム「排調」が掲載される。「排調」末尾の漢字1字は執筆者である総括のペンネームだったのだが、読者はその意味に気が付いていただろうか。「排調」には、総括自身が日々感じていることや社会への主張など執筆者の個性が表れるのが特徴だ。

 

 前節で紹介したライターとチェッカーのやりとりを経て原稿ができあがると、次は校正作業が待っている。原稿と図表要素をまとめ、記事ごとに紙面のレイアウトを考えるのは、「面担」と呼ばれる役職だ。面担がレイアウト指定をまとめた設計図を社会人である業務部に渡すと、校正用の紙面(ゲラ)にして送り返してくれる。ゲラの校正は4重で行われる。まずは面担自身が目を通す。次に、正副編集長がそれぞれチェックを行う。事実関係は正しいか、表記面での問題がないか、内容が他者を傷つける内容になっていないかなどを確認し修正を加える。ライターも修正後の原稿を確認して再修正が可能で、ライターの意思を最大限尊重する体制になっている。この後に広告を入れると、ほぼ読者が見る紙面の形になる。

 

 最後に編集部内で当該記事に関わっていない部員が、誤字脱字や不自然な表現などがないかを確認する「第三者チェック」を行い、記事は完成となる。多くの部員が記事に目を通すことで、ミスや意見の偏りを生まないような体制となっている。『東京大学新聞』は基本的に毎月第2火曜日発行で、特集号全体が完成(校了)するのはその前週の金曜日だ。校了後は印刷業者にデータが送られ、印刷が開始される。その後は第三種郵便物として配達され、発行日またはその前日には読者の手に届くようになっている。

 

東京大学新聞社編集部の役職図(すべて現役東大生が務めている)

 

【組織概要】学生と社会人が協働するメディア「東京大学新聞社」

 

 最後に東京大学新聞社の組織概要を説明したい。『東京大学新聞』は、公益財団法人・東京大学新聞社が発行する月刊の学生新聞だ。公益財団法人は営利を目的としない公益に資する事業を行う民間団体。主な収益源は、月刊紙『東京大学新聞』や受験生向け書籍『東大を選ぶ20XX』シリーズの売り上げ、そして紙面や「東大新聞オンライン」での広告収入だ。「東大を動かすメディア」を理念の一つに掲げ、東大からは完全に独立しており、東大の広報機関ではない。

 

 記事の執筆および校正作業は、編集部に所属する現在70人程度の現役東大生が行っている。学部1年生から大学院生まで幅広い年代の部員が精力的に活動しているのが特徴だ。一方で、社会人による業務部もあり、紙面の制作のみならず広告営業や定期購読の手続き、発送や会計などを担当している。業務部は紙面制作や図表の作成には関わる一方で、記事広告を除いて記事の内容に関与することはない。編集部の活動をそばから支えており、常に編集部と連携しながら広告戦略などを探っている。東京大学新聞社全体の組織図(図2)は次の通りだ。

 

東京大学新聞社の組織概要(編集部以外はすべて社会人が務めている)

 

 東京大学新聞社の理事や評議員、編集諮問委員は東京大学新聞社の卒部生や東大教員など外部の有識者から構成される。理事は公益財団法人・東京大学新聞社の経営方針や予算案を理事会で議論の上決定すること、評議員は理事会の案を審議し承認することが大きな役割だ。編集諮問委員は、編集部で作った記事を見て、記事や編集方針について意見を出す役割を持つ。例えば、昨年10月に行われた編集諮問委員会では、学費値上げ問題に対して社説を出したほうがよいといった指摘がなされ、報道姿勢やジャーナリズムのあり方を模索する機会でもあった。このように、多くの人がメディアとしての東京大学新聞社をより良くしていこうと関わっているのだ。

2024年10月に行われた編集諮問会議の様子をまとめた記事はこちら:

【イベントレポート】有識者による編集諮問委員会を開催 記事の構成から編集方針まで幅広く議論

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