4月12日から公開されている映画『アクト・オブ・キリング』が話題を呼んでいる。
1960年代、インドネシアで100万人以上が殺される大虐殺事件があった。その実行者たちは現在、国家的英雄として裕福な暮らしを送っている。この映画は、彼らが自分たちの過去の行為を、自ら映像化していく様子を映している。
映画『アクト・オブ・キリング』ホームページ
作中で描かれるのは、嬉々として殺戮の様子を演じる実行者たち。直接的な暴力シーンが多いわけではないが、拷問や殺害の様子を説明する彼らには、吐き気をもよおす恐ろしさがある。
しかしその一方で観客は、100万人を殺した大量殺戮者にいつしか感情移入していることに気づくだろう。自らの行為を演じることでその行為を捉え直し、新しい意味を見出していく彼らの様子には、価値観を揺さぶられた人が誰しも感じる内面的葛藤が垣間見える。
この映画が強く注目を集めているのは、多くの点で画期的な作品だからだ。
今まで語られることの少なかった大量殺戮の実行者の語りを記録したこと。権力を持ち、裁かれることのない側が、過去の事実を自ら表現したこと。これほど社会を揺さぶりうる映画はまれだ。
文化人類学、平和構築、人権・国際法、表象文化論など、あらゆる角度からこの映画を論じることができる。
レポートのネタに困っている学生は、この映画を授業の内容と絡めて論じればよいのではないだろうか。
(文:須田英太郎 @Btaros)