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2024年4月22日

テーマは「どくどく」? TEDxUTokyo 2023潜入レポート

 

以下全ての写真はTEDxUTokyo実行委員会提供

 

 昨年に引き続き開催された、TEDxUTokyo。2023年4月30日に安田講堂(東京大学大講堂)と工学部2号館で開催された。「どくどく」というテーマの下、さまざまな興味、経験、研究成果をもつ教員、研究者、社会人が一堂に会し、それぞれの胸が高鳴る瞬間を伝えた。刺激的なイベントの一端を、参加した記者の視点から伝える。(取材・宮川理芳、佐藤万由子)

 

 イベントは午前10時15分に開始した。On-stage SessionではSession1、2、3で計10人の登壇者が講演やパフォーマンスを行い、各Sessionの司会に当たるStageHostもそこに加わって会場を盛り上げた。さらにはOff-Stage Session におけるExhibitionとして企画ブースが設置されたほか、ワークショップが開かれたり書道パフォーマンスが行われたりした。

 

変面師の小林奈由さんによるパフォーマンス
書道パフォーマンスの様子

 

「偽善」を恥じる必要はない 教育学部教授のスピーチ

 Session2にはじめに登壇したのは東大大学院教育学研究科比較教育社会学コース教授の仁平典弘さん。学生時代を振り返りつつ、「意識高いね」という言葉でくくられがちな社会活動の意義について語った。

 

 東大入学後の仁平さんは六本木のダンスパーティーに参加したり、テニスサークルに入ったりと、いわゆる「東京の大学生っぽい」生活を楽しんでいた。しかし同時に大学には、外国人支援や薬害エイズ問題解決のために奔走する同級生も存在した。仁平さんは彼らの姿を「うそくさい、偽善的だ」と感じる自分がいたと振り返る。

 

 実際に日本では寄付などの社会活動をしたときに「偽善的だ」と冷笑されるような慣行がある。“World Giving Index”いわゆる「世界人助け指数」という、他者への援助行為などを総合的に数値化して判断した調査で、日本は119か国中118位と世界ワースト2位だった。ほかの国際比較を見ても、日本にはノブレス・オブリージュの精神があまり根付いていないことが明らかだという。

 

 話は仁平さんの学部卒業後の人生に戻る。大学院の博士課程に入り迎えた2000年代、大学のポストは次々と非正規雇用に置き換えられていった。仁平さんの場合も手取りは元々提示されていた給料から大きく下がり、当時の収入は月8万円。そんなある日、「ランチ880円」という看板を目にした。その瞬間「こんな高いもの食えるか」という怒りが腹の底から湧きあがり、「自分はこの社会に『含まれて』いない」という強烈な疎外感を覚えたと話す。同時に、自分が大学時代冷ややかな目で見ていた同級生たちは、こうした社会の脆弱性を変えるために頑張っていたのだと実感したという。

 

 大学時代の自分は「社会問題は自分の遠くにあるものだから、せめて友達や家族だけは大事にしよう」と思っていたと仁平さんは振り返る。しかしそのように過ごせるのも、現在や未来が脅かされていないからこそであり、それを下支えする条件は寄付やボランティアなどの市民の支えによって維持されている。公共的な活動は「遠くに行く」ことではなく、自分の真下のレイヤーをより強いものにすることだ、と強調し、社会活動を冷笑的に見る姿こそ古い価値観の現れであると指摘した。

 

 

 「偽善(hypocrisy)」の語源は古代ギリシャ語のヒポクラテス。「役を演じる」という意味だ。たしかに、社会活動に取り組む姿は、日常とは違う役割を演じているように見えるかもしれない。しかしそれは何かを偽ることではなく、自分の真下にあるリアルな空間で「役割を遂行する」ことだと仁平さんは述べる。「ですから、偽善という批判にもひるむことはありません。堂々とその役を演じましょう」と続け、聴衆を勇気づけた。

 

 炊き出しやボランティア活動に参加したことのある記者にとっては、今までの自分の信念を後押ししてくれる、力強い言葉であった。そして、仁平さん自身も「足元にある別の世界を可視化できる優れたパフォーマー」になりたいとし、スピーチを締めた。社会活動は、他人のためだけでなく、自分のいる世界をより安心な場所にするための第一歩だということに、多くの聴衆が気づいたのではないだろうか。

 

 

文理の壁も商業と学術の壁も越える「どくどく」 テーマの多様な解釈

 

 企画ブースには、全体のテーマ「どくどく」に関係する展示が並んだ。特に多くの来場者をひきつけていたのは、iGEM UTOKYOとe-lamp.のブース。

 

 iGEM UTOKYOは国際生物学オリンピックで金メダル受賞歴のある東大生が中心となって活動する団体だ。合成生物学の知見を生かして「社会問題の解決に活かせる生物」を生み出すことを目指している。毎年合成生物学の世界大会「iGEM」に参加し、22年度は絶対評価である金賞を受賞、相対評価であるベスト・モデリング賞にもノミネートされた。これは全体の上位5位以内の評価を受けたことを示しており、国内の団体では最高位。スライドやGenochemyという遺伝子学専用のプログラミングツールを用いて紹介していたのは、まさにその世界大会で高い評価を受けた合成生物、「Octopass」。一定の順番に信号を与えないと物質を生成しないように作られた合成生物で、貴重なものを守るためのパスワードとしての使い方を想定しているという。 

 

 高度な研究内容に引き換え活動メンバーは1年生5人、2年生11人、3年生5人(当時)と小規模。東大医科学研究所の分子遺伝医学分野研究室のバックアップを受けながら活動している。ブースにいたのは22年の大会に出たメンバーだったが、「合成生物学を少しでも多くの人に知ってほしい」と、文系の記者の要領を得ない質問にも真摯に答えてくれた。

 

 

 e-lamp.のブースでは、脈動によって明滅するイアリングを紹介していた。耳たぶにパルスセンサーを付けることでLEDライトのみ明滅を可能にし、「ときめき」を可視化することを目指している。キャッチコピーは「もしも『心』が可視化されたら、社会はどう変わる?」話を聞いた代表の山本愛優美さんによると、着想のきっかけは顔をマスクで覆い、相手の感情が分かりにくくなってしまったコロナ禍という。人とコンピュータの間をつなぐ情報交換の方法を研究するHCI(human computer interaction)の発想を用いて、2020年、慶應義塾大学生が開発に乗り出した。顔の周りであることや脈拍の計測の安定性から、耳たぶにつけるイヤリングを選んだ。恋人とのデートや婚活時の「ときめき」やライブ会場での「どきどき」だけでなく、企業のワークショップ、空間演出などの商業的な活用や、普段の遊び、食事の際のコミュニケーションの道具としても使ってほしいという。

 

 テーマに掲げられた「どくどく」は、文字通り心臓の拍動の音であると同時に、より象徴的な意味も含んでいるだろう。「ときめき」や「興奮」の音、まだ言語化できない変化の予感の音。幅広い意味を含んでいるからこそ、展示ブースに並ぶ団体もまた生物学からアートまで多種多様で、通常では隣に並ばないような組み合わせを楽しむことができた。文理の、あるいは商業と学術の壁を軽々と越える力のあるテーマだったと言えるだろう。

 

 今年度のTEDxUTokyoのテーマは、「daydream」。現実との境目が曖昧な「daydream」というテーマのもと、自身が生きる「現実」とそれに対する「認知力」の双方を捉え直す試みが図られる。様々なスピーカーの語りを通して参加者が自由に発想し、相互に交流が生まれる場を期待したい。

 

詳細は以下のwebサイトからご覧ください。

https://events.tedxutokyo.com/main2024/

日時:2024年4月28日(日)午前10時開始 午後7時終了

場所:東京大学本郷キャンパス 安田講堂・工学部2号館

料金:一般チケット:5,000円 大学(院)生チケット:2,500円 高校生:1,000円

(大学院生以下の方は二枚組で購入の場合500円引き)

 

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