インタビュー

2021年4月3日

ゼミで得たキャリアに生きる方法論 瀧本ゼミ企業パート卒業生インタビュー②

 入学・新学期を迎えた学生にとって最大の関心事の一つが所属するサークル・団体選びでしょう。スポーツや音楽、学術、娯楽など多様な活動を行うサークル・団体が存在する中、ゼミに所属するという選択肢を考えてみてはいかがでしょうか? 本企画では東大の名物ゼミ「瀧本ゼミ」企業分析パートの卒業生インタビューを3回にわたってお届けします。

(寄稿=瀧本ゼミ企業分析パート)

 

「コモディティになってはいけない」「自分の頭で考え続けなくてはいけない」ーー若者に奮起を迫る言葉で、投資家の経験で培った哲学を伝え続けた瀧本哲史先生。

 

 先生は、2019年わずか47歳で逝去されましたが、現在も瀧本ゼミは活動を継続しております。少しでも多くの新入生の方に、瀧本ゼミの活動を知っていただきたいと思い、卒業生の瀧本ゼミへの思いをインタビュー形式でお伝えしています。第2回の今回は、東大、米コロンビア大学を経て現在はアメリカでソフトウェアエンジニアとして活躍する田中康隆様に話を伺いました。

 

 瀧本ゼミ 企業分析パートとは……4000近い上場企業の中から伸びる企業を選び出し、投資判断を下すことが主な活動。様々な投資判断・ゼミ生間の議論を通して卓越した意思決定能力が育まれる。世の中に大きなインパクトを与える人材を継続的に輩出することを目指す。

 

 新歓情報はこちらから。

 

衝撃的な出会いから始まったゼミ活動

 

ーー瀧本ゼミに入る前の経歴を教えて下さい

 

 緑豊かな本州の小さな町に生まれ、地元の「2年に1人、東大合格者が出るか」ぐらいの進学校に通いました。東大入学時は文Ⅲで、英語が好きな文学部志望でした。大学2年のときに理転し、現在はアメリカのシリコンバレーで、ソフトウェアエンジニアとして働いています。

 

ーー瀧本ゼミを知り、入るに至った経緯について教えて下さい

 

 大学2年のときに当時のゼミ代表とたまたま知り合い、駒場キャンパスのカフェで勧誘されました。瀧本ゼミは企業の業績分析や株式投資を行う団体と聞いていましたが、当時は経済にまるで興味がなかったので断るつもりでした。

 

 ところが代表の彼はその場で、僕が人生で考察したことのなかった「カフェオレが入っていたプラスチック容器」について語り始めました。カップの深さは、何センチだと持ちやすいのか。飲み物の色に関わらず読みやすい外装は作れるか。カップ一つ例にとっても、数々の意思決定を経て私達の元に届くのだと説明し、「投資判断を通じて、意思決定の仕方を学びませんか」と誘ってくれました。

 

 その考察は僕にとって衝撃的でした。当時の僕は、進学先をほぼ直観でコンピューターサイエンス(計算機科学)に決めたばかりでした。綿密な検討を経て投資されるプラスチックカップと比べ、自分の意思決定は本当に合理的だったか? と疑問を持ち始めました。大学を決めるときも「雰囲気が良かったから」程度にしか考えていなかったのです。当時の僕は、ものごとを深く考えるための明示的な手段をほとんど持っていませんでした。

 

 東大の授業は最先端の知識を教えますが、ただ一つの行動を選ぶ日常的な場面での立ち居振る舞いは教えてくれません。でも研究者にならず社会に出れば、最先端の知識よりも、常に「時間制限と高い曖昧性の中で、それでも合理的な選択ができるか」が期待されます。それは基礎教養で習った経済学の効用の議論とは全く異質でした。将棋を指す人工知能のほうが近いと感じたぐらいです。

 

ーー瀧本ゼミでの活動について教えてください

 

 瀧本ゼミはインカレなので、他大の医学部生や、国体出場経験のあるスポーツ系専攻の学生など、多様な学生との印象的な出会いがありました。「合理的な意思決定」に関心を持つ集まりなので、話題も多様でした。今でも日本に帰国すると近況を話し合います。

 

 他にも、京都大学の学生を中心とした「京都瀧本ゼミ」と投資判断を競う「東西戦」というイベントが毎年開催されます。学生時代は京都瀧本ゼミ生の家に泊まらせてもらったり、一緒に観光をしたりと良い思い出ができました。

 

ーーどういう人が瀧本ゼミに向いていると思いますか

 

 多くの人が「Aだ」と言っていても、証拠を見つけて「Aじゃない」と言える人が向いていると思います。または、そういう存在になりたい人。専攻や学年や、通っている大学は、それほど関係がありません。こういう活動を面白いと思うか、そのような人物像に憧れるかは個人の好みです。合わない人は全く合わないでしょう。

 

前提条件は頻繁に崩れ去る

 

ーー瀧本ゼミの活動で学んだことを教えて下さい

 

 みなさんは、東大より優れた大学をいくつ挙げられますか?

 

 大学1年のときの僕はひとつも挙げられませんでした。日本の偏差値表では東大は1位かもしれませんが、アメリカの大学と比べたらどうでしょうか。修士の学位を取るためにニューヨークの大学院に留学して、アメリカの大学の層の厚さを思い知りました。海外に目を向けなくても、素晴らしい研究をしている国内の大学はたくさん存在します。

 

 僕が瀧本ゼミの活動で学んだのは、「一番や勝ち組は存在しない」ということです。現実の前提条件は頻繁に崩れますし、前提が崩れれば最善解も変わります。「それだけ変化の激しい世界で主張された一番は、不安が作り出した幻想だ」と思うようになりました。だから意思決定の際は、前提がいつどう崩れるか、AがAでなくなる瞬間はいつなのかを考える癖が付きました。丸暗記で成績を伸ばす練習ばかりしていた高校時代と比べると、「正解のない世界において考える力」を訓練できた、と感じます。

 

留学先にて

 

ーー今後のキャリアのビジョンを教えて下さい

 

 疫病で大変動が起きた今は、とにかく現状を調べることが大事だと思っています。リモートワークの加速化で、プログラマは世界のどの地域で働くのが「正解」なのか、ますます不明瞭になりました。自分のチームはいま全員自宅勤務です。数名はアメリカの他州に、別の数名はカナダに居ます。元々は全員シリコンバレーの同じ建物に居たのにです。コロナ後に入った現在のマネージャーとは、対面しないまま8ヶ月一緒に働いていますが、特に問題はありません。本当に対面での業務が良いのでしょうか。その前提条件は何でしょう。 「東大より優れた大学を挙げること」と「リモートが対面業務に勝る点を挙げること」は異なる問題でしょうか。

 

 大学1年のころ、まさか自分が数年後に海外で暮らし、世界から集まった同僚と英語でソフトウェアを議論しているなど考えもしませんでした。今後10年の自分のキャリアも同様に予想外でしょう。地域も職種も不確実ですが、瀧本ゼミ時代と同じ方法論で決め続けていこうと思っています。

 

【経歴】

田中康隆(たなか・やすたか)様

 文Ⅲに入学後、理転し教養学部卒。在学中は瀧本ゼミに所属。東大卒業後は米コロンビア大学のEngineering Schoolへ進学。Computer Scienceの修士号取得後、現在はシリコンバレーのテック系企業で働く。

 

第1回の記事はこちらから。

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