東京大学在学中に起業し、現在はアプリ情報サービスApplivを運営するヴォラーレ株式会社代表取締役社長の高橋飛翔氏。「東大生に好きな道に飛び込む選択肢を提案したい」と語る高橋氏に、起業した経緯、そして東大生へのメッセージを聞きました。
東大に入学しようと思った理由にもつながりますが、中学時代に決めた人生目標が根底にあります。「自分が死んだ後も、世の中に影響を与えられる人間になりたい」という目標です。そのための手段として、政治家になって世の中のためになることをしたいと思うようになりました。首相を最も輩出しているのが東大法学部だという話を聞いて、東大に入りました。
ただ、政治家や官僚の人たちから話を聞くうちに、彼らには派閥の問題、政党の問題、選挙の問題など、多くのしがらみがあるということを知りました。そういう場所で下積みを積んでいっても、自分の理想とする政治を行っていくのは難しいのではないかと考えたのですね。そこで、政治システムの外から政治を変えていくアプローチを取ることは出来ないかと考えるようになりました。
――政治ではなく、起業というアプローチを選んだということでしょうか?
すぐに政治の道に進むのは止めようと思っていた矢先に、東大のTNKという起業サークルの勉強会に参加する機会がありました。若くして起業するというのがそれまでの自分の選択肢には無かったので、とても新鮮さを覚えましたね。
当時、将来的に自分で政党を立ち上げることは出来ないかと考えていたのですね。よく聞くのが選挙にはお金がかかるということ。だったら自分で云百億という資金を作れるなら、政党を立ち上げる事も可能なのではと考えていました。だから、とりあえず40歳までに資産1000億円を作るというのを目標にしてすぐに起業してしまいましたね。それでそのお金を全て国政に突っ込んでやろうと考えてました(笑)
――学生時代に、既に就職ではなく起業という道を選んだのですね。
いや、実は就職活動は少しだけしました。「就職なんて意味ない」という学生起業家は多いのですが、それはそれでバランスが悪いなあと思い、ものは試しということで(笑)。就職する気はありませんでしたけれどね。
――起業してから、どのような事業を行ってきましたか?
ありがちなのですが、東大にいるということで、「東大生の家庭教師」事業を始めました。ただ、もちろんこれだと限界もあったので、ある程度売上があった時点でインターネットサービスに事業内容を転換しました。「楽スタ」という、受験生向けの教育サービスを立ち上げました。今こそ「受験サプリ」などが流行っていますが、当時2007年頃にやった時は、失敗してしまいました。
失敗の原因は、私たちにWebサービスを運用して成功させるノウハウが全くなかったということでした。開発も、デザインも、マーケティングもできない。こうしたサービス作りの肝となる部分は社内で内製しなければということで、法人向けに様々なWebマーケティングに関する商材の販売を行いつつマーケティングノウハウを社内に蓄積していこうと考えました。
ただ、これがそう簡単ではありませんでした。様々な商材を揃えているがゆえに、どれも中途半端な品質になってしまった。いわゆる、多角化の弊害ですね。2009年には、人が大量に辞めてしまうなど、精神的にしんどい時期もありましたね。「一手ミスしたら会社倒産するかもな」というくらいの所までは何度かいきました。
――そこから、どのように軌道修正を図ったのですか?
このままじゃダメだな、というのは分かっていました。ただ、会社が苦境にある時というのは何が本当の情報なのか非常に分かりづらくなるんですね。人によって課題意識が違うので、何が問題の根底なのか分かりづらい。より正確な情報を社内外から集めると共に、一つ一つ着実に決断していくことが大事だと思いますね。
2010年から、SEOサービスに商材を限定したことで収益は伸び始めました。2011年も順調に成長し、2012年に新規事業としてApplivを立ち上げました。
――現在はApplivが事業の中心でしょうか?
今はまだ売上比率は既存事業の方が上ですが、遠からず逆転すると考えています。事業としてもAppliv事業に積極的投資を行っていますね。
Applivは、ユーザー参加型のアプリ情報サイトです。アプリを扱っている食べログのようなものだと捉えてもらえれば分かりやすいかもしれません。アプリのレビュー情報以外にも、ゲームの攻略情報やチャットコミュニティなどが機能として用意されています。
――アプリ市場というのは、今後期待ができる分野でしょうか?
アプリ広告の市場規模は右肩上がりで伸びています。向こう5年くらいは急成長を続ける市場だと思いますね。
また、AppStore、GooglePlay共に120万個以上のアプリが存在しており、どのアプリが良いのかユーザーに分かりにくい状態にあります。そこでより詳細なアプリレビューや他のユーザーのおすすめアプリを知りたいというニーズが生まれているのだと思います。当社としては、どのアプリをダウンロードするかを決めるのに役立つレビュー媒体をしっかりと作っていくとともに、アプリをダウンロードした後に、同じアプリを持つユーザーとコミュニケーションを楽しめるコミュニティ的な要素も担っていき「アプリでつながるSNS」としてApplivを成長させていきたいと思っています。
――今の東大生にどういった印象を持っていますか?
昔も今も変わりませんが、新卒採用をしていて思うのは「東大生には無難な人が多いな」ということです。
日本は良くも悪くも学歴社会なので、東大生は東大に入学した時点でまず食いっぱぐれることもないし、エリートコースを歩んでいけば安定した人生が待っているんですよ。なので、わざわざリスクをとって他の人が進まないような道に進もうとする人が極めて少ない。これはとても残念なことです。
一方で、「他の人が進まないような道」の一つに起業という選択肢も含まれていると思うのですが、近年では東大でも在学中ないし卒業後に起業するという選択をする人が増えているのは喜ばしいことだと思っています。色々と理由はあると思うのですが、近年日本ではベンチャーキャピタルに潤沢な投資マネーが流れ込んでいて、学生ベンチャーであってもかなりの額の資金調達に成功する事例が増えてきているというのが大きい理由の一つだと思います。
身近な友人が数千万ないし数億円を調達したり、会社を売却して数億円を手にしたりということが増えていき「自分にも出来るかもしれない」と考え起業する人が増えるという図式が出来上がると、起業家の数の母数が増え業界がもっと盛り上がると思います。
海外、特にシリコンバレーに目を向けると起業に対する心理的な敷居がとても低いように感じます。これは何も西海岸特有の自由な空気とか国民性がそうさせているわけではなくて、身近な起業成功ストーリーが溢れているからだと思うんですね。「あいつの友達はベンチャーにジョインして3年で云億円を手にしたらしい」なんて会話が当たり前にある。そういう環境を日本でも作っていけたらいいですよね。
別に私は起業するのが一番だというつもりは毛頭ありませんが、東大生はポテンシャルの高い人が多いので、起業する人が増えて日本経済がもっと活気づくと素敵だなとは単純に思いますね。
——–そのためには社会はどうなる必要がありますか?
日本企業が海外で勝つ事例が、もっと必要だと思います。結局、アメリカのVCマネーが豊富なのは、スタートアップが「世界で勝つ」ことを前提にしているからです。最近日本のスタートアップでも数十億円調達するという事例が増えてきましたが、シリコンバレーの調達規模からしたらまだまだ普通の金額なんですね。
英語圏の人口は10億人以上います。アメリカで起業して成功したら、言語の壁なく一気に数十カ国に展開できてしまう。でも日本の場合は、国内で成功した後に海外展開をしていく事が極めて難しかった。言語の壁は勿論ですが、モバイルインターネットの会社にとってはガラパゴス携帯が普及している特殊なモバイル端末環境が海外進出を阻んでいたんですね。
ですが、このあたりの事情もスマートフォンの浸透によってだいぶ緩和されてきました。少なくてもスマートフォンアプリの領域においては、国内のビジネスの延長として海外市場を捉えられるようになってきています。この流れの中で世界で勝つ日本のベンチャーが増えていくと、必然的に国内に流通するベンチャーマネーが増え、今よりもっと起業にチャレンジしやすい環境が生まれると思いますよ。
――しかし東大新聞のデータを見ても、大企業志向はまだまだ強いです。
あれ見ると、やっぱり残念に思いますよね。大企業志向が強いのもそうだし、社員が数千人いて東大生が毎年何十人も入っている会社に入社して「ベンチャーに就職した」と言ってしまっていたりするのも、企業側の意図に踊らされているなぁという感じがしますね(笑)
昔から、東大生がチャレンジしないという状況は基本的には変わっていないと思います。東大生には、良い家庭に育って、小中高とエリート校に通って、塾で勉強に励むような、受験勉強漬けの人生を送ってきた人が多い。そうでなかったとしても東大に入った時点で得られる将来の地位や収入に満足してしまう人が余りにも多いんですね。そこから外れても特に良いことはないし、あったとしてもまた競争にさらされることになる。だったらこのまま安定した道を進めばいいか、となるんだと思います。
――かなり批判的ですね(笑)。
かなりdisってますね(笑)。私は東大生に好きな道に飛び込むという選択肢を提案したいんです。起業してみて思いましたが、世界には本当に色んな人がいる。起業家にしても様々なバックボーンを持っていますし、一般的なエリートコースを歩んでいなくても頭の良い人、クリエイティブな人、一芸に秀でた人はいくらでもいるんですね。そして、それぞれの分野で大活躍している。一般的なエリートコースを歩んできた人に比べて、そういう人たちは圧倒的に面白い。なんでだろうと考えたんですけど、好きなことやってるからなんじゃないかと思ったりするわけです。
将来の約束された年収は大切かもしれないけど、好きに生きるというのはそれ以上に刺激的だなと思っていて、将来が担保されてるがゆえに好きに生きられないというのはある意味不幸ですよね。だから、やりたいことがない人は別として、起業であれ何であれ「これがやりたい!」というのがあるのなら、飛び込んでみるべきだと私は思いますね。仮に失敗したとしても、それで人生が台無しになるほど日本社会は荒んでないとも思うので。
――どうすれば、東大生はそういった思考を変えることができるのでしょうか?
東大出身でモデルケースになる人がどんどん出てくるといいですよね。さっきのシリコンバレーの身近な成功者の話じゃないですけど、「東大から好きな道に飛び込んであんな格好良いことやってすごいな」と思われる人たちが増えるととても良いのかなと。エリートコースを歩んでいくという道に対して疑いを持つというか、それで本当に幸せになれるのかなと思わせる人たちが増えて欲しいと思っています。
私は大学在学中に起業した変わり種でもあるので、大企業に入って100を1,000にするよりも、ベンチャーで0から1とか1から100、1から1,000を作るほうがはるかに面白いということを自分の成功を通じて伝えたいなと思っています。なので、絶対に大成功しないといけないですね(笑)。頑張ります。
(取材・文 オンライン編集部 荒川拓)