硬式野球部(東京六大学野球)は今年も多くの感動を届けてきた。特に秋季リーグ戦では7年ぶりの2勝を挙げ、思い出に残るシーズンとなった。そんな勝利を語るには欠かせない選手たちに、2024年の振り返りと今後の目標を聞いてみた。インタビュー2人目は、初の完投でチームを秋季リーグ戦初勝利に導いた鈴木太陽選手(経・4年)だ。
秋季リーグ戦、慶大2回戦。先発マウンドを託された。初回の相手の攻撃を3人で打ち取る上々の立ち上がりを見せると、うなる速球と鋭い変化球のコンビネーションで、六回まで1本のヒットも許さない。「全球種がストライクゾーン内でまとまったのが一番大きかった」とこの試合の好投を振り返る。一方の打線も、その好投に応えるかのように四回、五回と得点し、チーム2季ぶりの勝利への鼓動が高鳴っていく。六回の時点で3-0。「早く試合が終わってくれって。特に最後の3イニングくらいはものすごく長いなと」。無我夢中で投げた。九回2死走者一塁まで漕ぎつけて、相手5番・横地との勝負。ストライク先行でどんどん投げ込み、4球目を打った飛球は高々と上がってライトの橋元崚人(文・4年)ががっちりと捕球。待望の勝利に、選手たちがグラウンドに繰り出して喜びを爆発させる中、マウンド上で別の感情も去来していた。「各学年1勝はしてきた中で、自分も後輩にそのバトンをつなげて良かった」。最高学年の責任を果たした安心感だった。
今年の春季リーグは、投打両面でチームを引っ張ろうと決意固く臨んだ。投手として自身初のリーグ規定投球回に到達。野手としては、リーグ戦初安打を記録。外野手としても2試合に出場した。投手としての練習に加えて打撃や外野守備の練習をするなど、人一倍の鍛錬を積んできた「二刀流」としての出場は「よかった」と自己評価するが、投手としては課題も。140km/hを超える速球は大きな魅力だが、球速に頼っていては自身の目指すコースの投げ分けで打者を打ち取るスタイルにはたどり着かないと感じた。秋季リーグでは球速をある程度抑え、変化球の精度を上げて「打たせて捕る」ピッチングを目指したという。その成果が、明大2回戦で七回2失点、慶大2回戦の9回1失点という2戦連続の好投だった。実際、慶大2回戦では27個のアウトのうち23個のアウトをフライとゴロで奪った。感動の勝利の裏には、チームの勝利のための理想の投球を目指したひた向きな努力があった。
取材中何度も繰り返したのが「チームのために」という言葉を繰り返した鈴木選手。そんな献身的な姿で最後までチームに貢献し続けた。4年間を振り返って、勝ち点がかかった今秋のリーグ戦での降板など「悔しさ」はあるというが、「後悔」はない。楽しむことをモットーに、全力で向き合ってきたがゆえだ。来季以降もリーグ戦に出場する後輩たちには、勝ちにこだわり、仲間同士で切磋琢磨(せっさたくま)する様子に感心させられながらも、自身のように「楽しんでほしい」と熱く語る。自身が今年、勝利投手となって経験したような、楽しんでプレーした先にあるチームの栄光を、いつまでも見守り続ける。