インタビュー

2014年8月24日

AED問題を、社会問題として解決するには?

学生団体の活動で、社会を動かすにはどうすればよいのか?数々の法案を議員立法で通し、現在は東京大学公共政策大学院の教授を務める、鈴木寛先生に 話を聞きました。AED問題の解決に取り組む、シンクタンク瀧本ゼミAED推進パートとの合同インタビューの内容を、2回にわたってお届けします。

後半となる今回は、瀧本ゼミの取り組みとして、AED問題を社会問題として解決する方法について、まとめました。

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左: 鈴木寛先生(東京大学公共政策大学院教授・慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授)

右: 石橋由基さん(慶應義塾大学医学部4年、シンクタンク瀧本ゼミAED推進パート代表)

石橋:AEDに関して議連を作る必要があるでは、という声が専門家からも上がっているとお聞きしています。議連を作るのに必要な事、大事な事はなんですか?

鈴木:まず、本当に成立させる法案を作りたいのであるならば、議員連盟の事務局長と会長が全て。ここに誰を選ぶかで勝負が決まります。議連を作る事まではできるが、法改正ができるかどうかは人選次第です。それができる会長事務局長コンビはほとんどいないです。で、逆にできる人がいないから自分に依頼が殺到してくる(笑)自分の法案通過率は圧倒的に高かったと思います。

石橋:なるほど(笑) どんな事例がありましたか?

鈴木:自民党の伊吹文明さんから古典の日という法律で依頼を受けた事があって、「自民党で幹事長をする人がいないのだよね。やってくれないか。」と頼まれました。再生医療法案も超党派で自分がとりまとめを行いました。

石橋:それは、誰をどういう順番で説得するかを心得ている人がいないという事ですか。

鈴木:政治の動きと行政の動きのディテールを理解して行動できる人が少ないのだと思っています。何かを動かす事はボタンのスイッチを押していく事だと思っているのですが、どのボタンをどういう風にどんな順番で押すのか理解している人は多くないです。

石橋:なるほど。それは具体的にはどんな事なのでしょうか。

鈴木:暗黙知ですね。だから、議員立法で、法案を作るのは難しいのだと思います。

石橋:AEDに関して、これから進めて行く上でアドバイスなどありますか?

鈴木:例えば、役人の人に聞くと、中々変えるのが難しいと答える事が多いと思いますが、そこには理由があって、裏にはややこしい問題がある事が多いからです。

今、あなた達が進めている、サマリア人の法に関しても、私も良い事だと思いますが、医療者が賛成していても簡単に役所が動かないのは、後ろで刑法学者が反対しているという事情があります。だから役人が嫌がる事をやろうと思ったら、自分たちがそれを先回りする必要があって、その人達を説き伏せてきました、合意を取ってきましたって形にしていかないと進まないと思います。

石橋:厚生労働省の担当技官の方に善きサマリア人法をぶつけたら、凄く渋い顔をされました(笑)

鈴木:役人の方の弁護をしておくと、役所が何かに反対する場合、確固たる価値観でこれはダメって言ってくる事はほとんどなくて、関係団体との関係性から反対している。それを動かすと反対する人がいて、それを抑える自信がないから反対しているのです。

結局サマリア人の法に関して言えば、医療界と刑法学との問題なわけで、ここがちゃんと議論をしないと話が進まない。刑法学者の話を聞きにいくという意味では、官僚に対しては東大か慶應の先生が影響力を持っていますから、そこの話を聞きに行く事は学生の方がしやすいはずで、学生だからこそできる事があると思います。

だからサマリア人の法を推進している人達は医療者だけではなくて、刑法の院生や先生を入れて、落とし所を詰めていく必要があると思います。そうしないと、刑法学者で政策決定に携わっている人に対峙できない。そこを説得できたら役人の対応もまた変わってくると思います。

石橋:では、AEDの設置基準という所はどうでしょうか。

鈴木:地方で条例を作るという話であれば、医師会というのは大きくて、医師会がこういう施策を入れて下さいと言えば、首長の政策に入る事は多い。

石橋:AEDは市民が早く除細動をする事で病院での治療も軽くなりますから、地域医療にも貢献すると思いますが…

鈴木:勿論さっきも述べた通り、内容に共感する人もいれば、リレーションに共感する人がいます。リレーションに共感する人を説得するには、そういう通達や方針が組織にとって信頼に足る所から出ていると良くて、一番いいのは日本外科学会・日本医師会・日本救急医学会というような大きな所が賛成してくれる事だと思います。後は慶應の医学生なら慶應出身の医師会の人の話を聞きにいくとか、中身を詰めた上で色んなリレーションを使って広げていく事がいいのではないでしょうか。

石橋:現状、例えば学会としてこの運動を広めるという形にはなっていないので、難しいかも知れませんが、そのような形になれば良いのでは、と思います。

鈴木:そういう意味でもこの推進の流れをオーソライズする場所が大事で、専門家集団である日本医師会や日本救急医学会がオーソライズすると、様々な人が協力しやすくなるのではないかと思います。

石橋:本日はアドバイスを頂きましてありがとうございました。

(取材:オンライン編集部 荒川拓・慶應大学医学部4年 石橋由基、文:石橋由基)

鈴木寛さん(すずき・かん)

経歴:東京大学公共政策大学院教授, 慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授 社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事、元文部科学副大臣

医療・科学技術・教育分野などで多くの政策を立案・実行に移す。

http://suzukan.net/

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