学生団体の活動で、社会を動かすにはどうすればよいのか?数々の法案を議員立法で通し、現在は東京大学公共政策大学院の教授を務める、鈴木寛先生に話を聞きました。AED問題の解決に取り組む、シンクタンク瀧本ゼミAED推進パートとの合同インタビューの内容を、2回にわたってお届けします。
前半となる今回は、駒場で実施しているすずかんゼミの内容から、人を動かすための原理について、話をまとめました。
左: 鈴木寛先生(東京大学公共政策大学院教授・慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授)
右: 石橋由基さん(慶應義塾大学医学部4年、シンクタンク瀧本ゼミAED推進パート代表)
「何かを動かす為の方法としてのケース」
荒川:今回石橋さんと出会って、AEDに関する問題があるという事を知って、学生がロビイング活動に取り組んでいることを知りました。今回メディアとしてそういった活動を紹介していくという事で、この企画を立ち上げました。まず、学生がそのような行動をする上で、どのような方法が考えられるのか、鈴木先生のご意見をお教え下さい。
鈴木:私は駒場では「すずかんゼミ」というものを行っています。
例えば、すずかんゼミではコラボクリニックプロジェクトというがありました。東京の新宿の駅前に内科のクリニックを作ろうという試みで文一から理三、東京芸大から日本女子大まで多様な人達が参加して行いました。このクリニックを1年間行いました。
このクリニックは夜の6時から10時という開業時間でした。しかし、地域医師会はそんな時間の診療を認めていないからそこを乗り越える必要があるというのが問題として上がりました。また、極力、小さなスペースで診療所を作るというのを保健所に許可を貰うというのも、問題でした。それを何とか乗り越えて実現できました。
そして、これがモデルになって、立川、東中野、川崎駅でエキナカのクリニックが始まっている訳です。そして夜間開業クリニックもこれを機に増え始めています。日本は第一号を作ると第二号第三号を、マネする人間は沢山いるので、まずは第一号を作るという事が大事です。
石橋:それは自分の活動を行っていても良く感じます。例えば私たちは小中学校へのAEDの授業の導入を行っていますが、これは先行事例があるので、複数の自治体で実際に動いています。逆に今までやった事のないような、設置基準を作るというような事は中々やってくれない。第一号を作るというのに、重要な事はなんだと思いますか。
鈴木:違法じゃない事はやってよいという事なのです。だから、まずは動いてみる。その上で、「ダメ」と言われたら、それが法律違反なのか、政令違反なのか、通達違反なのか、条例違反なのかを確認する。
実はそれをせずに行動するのを諦めてしまう、全部役所のせいにしてしまう人が結構多い。政府が禁止しているからというのが口癖になっている。実は、政府は禁じていないのに、自治体の窓口や現場の長や担当者が政府のせいにしているケースが案外多い。諦める前に厚労省・文科省なんかが本当に言っているのかどうかを確認する事が大事な訳です。役所に問い合わせて、「ダメ」と言われたら、その法律や省令は本当にそういう事まで禁止していますか?と問い合わせれば良いのだけど、みんなそれをしない。
「その中でのメディアの役割」
荒川:なるほど。では何かを動かす、という時のメディアの役割はなんでしょうか。例えば、何でも報道して取り上げればいいという訳でもなくて、取り上げる事がマイナスに働く事もあると思いますが。
鈴木:そういう意味ではそのディシジョンメーカー(意思決定者)がどのようなメディアに接しているかというのは大事な事だと思います。例えば、年代が上の人は新聞やテレビしか見ない人もいるし、プレッシャーグループとしてのいわゆるマスコミは大きいと思います。
後はそこで叩かれるのが痛い人と痛くない人というのがいて、例えば政治家は叩かれると痛い、行政は叩かれても痛くないです。同じ政治家の中でも感受性の違いがあって、地域後援会が弱く、地盤が安定していない政治家はメディア感受性が高いです。誰を説得するかという事を意識する必要があります。
「人を動かすには」
石橋:ロビイングという形で、色んな方にお会いしているのですが、何となく誰が動いてくれるのか、誰が動いてくれないのか、というのはわかってきているのですが、人を動かす上で重要な事は何だと思いますか。人によって動く理由は本当に様々だと思いますが。
鈴木:政治家で言えば、利害で動く政治家が多いと思います。一番は再選です。でもその人なりの正義で動く人もいます。これも見極める必要がある。
後は、人は大まかにリレーション(関係性)で動く人と、サブスタンス(内容)で動く人がいます。前者は誰がこれを応援しているか、担いでいるかというのが大事で、誰に話を持っていくかというのはとても大事です。
一般論ですが、何か説得を行う時、相手の効用関数を正確に理解するという事がとても大事で、政治家以外にもビジネスマンだろうと、学生だろうとそうだと思います。相手が何を求めているのかを知る。そして、どういう話の持っていき方をしたら動いてくれるかという事を常に考える必要があると思います。
(取材:オンライン編集部 荒川拓・慶應大学医学部4年 石橋由基、文:石橋由基)
鈴木寛さん(すずき・かん)
経歴:東京大学公共政策大学院教授, 慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授 社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事、元文部科学副大臣
医療・科学技術・教育分野などで多くの政策を立案・実行に移す。