2016年度から開始された推薦入試。毎年さまざまな分野で活躍する多彩な推薦生が入学し、弊紙でも連載『推薦の素顔』で紹介している。では、東大の推薦入試に合格するためにはどのような対策をすれば良いのか。この企画では、推薦入試で入学した3人の学生と、予備校で進路情報を扱う担当者に話を聞いた。
(取材・撮影 小田泰成、山中亮人)
対策は千差万別
学部によって、求める学生像や推薦要件は異なる。合格者の高校時代の探究活動も人それぞれだ。
東京都出身の越田勇気さん(理Ⅰ・2年→理)は、国際地学オリンピックで銀メダルを獲得し、国際物理オリンピックの日本代表候補でもあったため「自然科学において卓越した能力」の実績の例示に合致していた。所属していた地学部の活動では、観測や考察で自然科学への興味や関心を深めた。
宮城県出身の樋野菜々子さん(文Ⅲ・2年→文)は、高校3年間、文芸作品の創作に取り組み続け、各種コンクールでの受賞歴もあった。文芸部での日頃の活動をレポートにまとめ「自主的な研究活動の具体的内容や成果」を示した。
千葉県出身の安保友里加さん(文Ⅲ・2年→育)は、旧満州(現在の中国東北部)へ渡った開拓移民が語る戦争体験の継承についての問題意識を基に、探究活動に取り組んでいた。コンクールで受賞した論文だけでなく、戦争体験の継承に携わる人々への聞き取り調査や実習の記録を提出し、教育学部の求める「卓越した探究心」の根拠とした。
3人が異口同音に「手こずった」と述べたのは、各学部の書式に合わせた志願理由書などの出願書類。3人とも、学校の先生に添削を依頼し、客観的に主張が伝わるか何度も相談することで対処した。越田さんは「夏休み明けから、一般入試の勉強と並行して取り組みました。自分の考えてきたことや、実績、大学で学びたいことを論理立てて書くのに苦労しました」と語る。
第1次選考合格者は面接を中心にプレゼンテーション、口頭試問などが課される。形式は学部によりけりだ。「面接では志望理由書や提出した書類について、どんなことも自分の言葉で説明できるまで考え続けることが一番です」と3人は口をそろえた。
「情報収集も戦略の一つ」と話すのは越田さん。理学部に推薦入試で合格した学校の先輩や、通っていた一般入試対策の塾から、過去の面接などの情報を入手した。面接で聞かれる質問事項や、難易度の高い課題の遂行能力を試す口頭試問があることを知って、対策に役立てたという。塾の大学生チューターと相談しながら、難易度の高い問題を想定し、勉強した。
一方で、樋野さんは、そもそも過去の試験の実施回数が少ないからか、インターネット上にも詳細な情報はほとんどない状態だったと振り返る。「地方では通える塾や予備校にも限りがあり、首都圏に比べると情報格差があると思います」と、情報収集の難しさを懸念する。
安保さんは「情報収集も戦略の一つとして大事だが、その人の特性に合わせて対策を考える必要がある」と言う。書類の提出後、プレゼンテーションでの質疑応答を想定し、学校の先生と練習を繰り返した。「学校の先生など、自分の志望動機や探求活動を評価してくれる人と試験形態に合わせた対策をすることが役立ちました」
推薦生として入学してから1年以上経過した今、安保さんは、推薦入試を「自分の考えや学びの動機、将来像について直接評価をしてもらえる貴重な機会」と捉える。樋野さんは、推薦入試に対して「自分がなぜ文学部で学びたいのか、これまでの創作活動を見直しながら深く考える絶好の機会でした」と振り返る。
推薦入試ではどのような力が求められているのか。「とがった人材でありながら、一芸に秀でるだけではなく、多角的な見方を備えて考え続ける力」が求められると3人は推測する。受験生には「貪欲な姿勢で挑んでほしいです」と締めくくった。
自分の熱意を伝える
推薦入試合格者の共通点について、駿台教育研究所の石原賢一進学情報事業部長は「高い学力を前提に、思い入れの強いものを持っている人」と分析する。そのため合格者が生まれる高校には、スーパーサイエンススクールなど、学校の授業の枠組みを超えた取り組みを支援している高校が多いという。
一方で「やりたいことが明確な人材を集める」目的で実施される推薦入試で、科学オリンピック出場経験などの学力が重視されると誤解されがちなことに石原部長は疑問を抱く。「重要なことは具体的な成果よりも、自分が高校3年間何をしてきたかを示すこと。各学部が求める学生像はあくまでも例であり、ハードルの高さは気にしなくても良い」と説明する。
では、推薦入試で求められる能力とはなんだろうか。石原部長は、面接、プレゼンテーション、小論文を通して必要になるコミュニケーション能力と文章作成能力を挙げる。「口頭でも文章でも、自分のやりたいことを丁寧に伝えられるように練習しましょう」
石原部長が所属する駿台予備学校では現在、東大の推薦入試に向けた対策は、希望する生徒に文章添削を行う程度で本格的には実施していない。客観性が求められる一般入試とは違い、東大の教員が主観的に学生を選ぶ推薦入試に「必勝法」はないという。そのため、過去問演習などのパターン学習では対策し切れない。「もし不合格だったとしても『運が悪かった』と切り替えられるだけの余裕も必要かもしれません」
この記事は2019年9月10日号(受験生特集号)から転載したものです。本紙では他にもオリジナル記事を公開しています。
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