新型コロナウイルスの感染により欠席した授業の補講が認められなかったことによる自身の単位不認定を主張している杉浦蒼大さん(理Ⅲ・2年)が8月9日、東京大学新聞社の取材に応じた。記者会見を開いたことについて自身の思いを明かすとともに、東大が自身に対してこれまで行ってきた対応や説明に対して納得できないと主張した。特に17点の成績修正について「無回答」され続け、学部の回答を信用できないとも話した。
杉浦さんは8月4日、文部科学省で記者会見を開き、新型コロナウイルスに感染して授業を欠席したところ授業の補講が認められず、留年を余儀なくされたと主張し、救済措置を求めた。この件について森山工教養学部長は、事実に基づかない一方的な主張を掲載したとして「東京新聞」の報道に対する抗議の文書を公表(18日に公開は停止)。「当該学生のこの自己認識と主張が誤ったものである」ことを本人に説明してきたにもかかわらず本人が一方的な措置に及んだこと、授業欠席に当たり所定の手続きを踏まなかったことが問題であること、単位の不認定は授業の欠席によるものでないことなどを主張し、両者の主張が対立する構図となった。
単位不認定は補講が認められなかったから
──記者会見を行う前にどんな対応を取りましたか
6月中旬にS1タームの成績が発表された際、必修科目である基礎生命科学実験の単位が不認定となり留年が決定したことを知り、新型コロナウイルスに感染に伴った欠席がその原因であると考えました。担当教員に診断書を提出し、新型コロナウイルス感染期間中の欠席について、改めて補講対応をお願いしましたが、日数の経過と成績の確定を理由に受け取ってもらえず。教養学部に対しては、成績評価の確認を電話で行い、その後補講を求め書類も提出しました。
──しかし学部は補講を認められないとし、その日の欠席を考慮しなくても当該科目の成績は不可であるという説明をしました。これに関してどう考えますか
成績が判明した後、同級生に出欠状況と課題提出状況を聞き、比較する文章を公表しています。もちろん課題の質という変数はありますが、科目全体の大体の点数配分などの情報も踏まえると、欠席日の講義や課題に補講が認められていたら単位は認められていたはずだと強く確信しています。大学側には、成績に関して詳細な説明をお願いしています。
1カ月半以上にもわたった無回答 もはや学部の回答は信用できない
──さらに成績評価の確認後に17点の減点が行われました。学部は他の学生の成績評価を取り違えるミスによるものと記者会見後に説明していますが、この件についてどのような印象を受けましたか
成績評価の確認により事後的な減点が行われたことに対しては疑念を抱き、教員と教務課に説明を求めましたが、「成績状況に関する詳細は答えられない」との旨の回答しか受け取れませんでした。自分が記者会見を行った後に教養学部はようやく減点の理由が成績の取り違えミスであることを外部に説明し始めたわけですが、減点から記者会見を行うまでの1カ月半の間、いくらでも自分に対し説明を行うチャンスはあったはずです。成績の取り違えだとしたらそれは完全に学部の過失ですし、そもそも大切な成績評価を取り違えるなどというミスはそう頻繁に起こるものでもありません。このように雑な仕打ちを受けては、自分に対し説明を行わなかった1カ月半の間に減点の言い訳を探しているようにしか思えず、学部には不信感を抱いています。学部からの説明も鵜呑み(うのみ)にはできないです。
覚悟の実名と顔出し 表沙汰にしないと説明は得られない
──記者会見を顔と実名を公表したうえで行いました。リスクもあったと思いますが、その決断理由を聞かせてください
もちろん、周囲からは「実名と顔は出さない方がいいのでは」という意見もありましたし、自分も最後まで悩みました。しかしここまで手を尽くしても学部からの説明が得られなかった以上、顔と実名を出して世間に訴えるしかないと悟り、このような決断をしました。また、東大にはコロナ感染が疑われる場合の定期試験の代替措置が廃止されたことにより、留年を余儀なくされてしまった人がいることも知っています。こうした問題に対し異議を唱えている自治会の方とも相談し「コロナに伴う欠席にもかかわらず補講が認められなかったこと」や「17点の事後的な減点」について訴える記者会見の実施を決めました。
学部の姿勢には愕然
──杉浦さんが記者会見を行った翌日、学部は東京新聞に対する抗議文を公表し杉浦さんの主張への反論も行いました。これを見た時の心情を教えてください
学部の抗議文を見たときは本当に愕然(がくぜん)としました。学部に対しての疑念が深まった原因である17点の減点について文中では一切触れられていません。また、自分に対する非難に近い文章で、まるで自分が詐病を使ったと言いたげな表現もありました。学部が発表した語気の強い抗議文を受け、自分に対する誹謗(ひぼう)中傷が行われていることは知っています。「虚偽の会見を開いた嘘つき少年」「こいつの医者としての人生は終わった」といった内容です。教養学部長の名前を出して、事実と異なる方向に世論を誘導するかのような内容の文章を出すのは、教育機関が取る姿勢として疑問に思わざるを得ません。
──学部は抗議文のなかで「欠席届」の提出が遅れていたため、補講が認められなかったことに触れていました。この点についての反論はありますか
欠席届の手続きの存在自体は知っていましたが、新型コロナウイルス感染によって重篤な症状があり、欠席連絡ができませんでした。抗議文の中では授業当日夕刻にITC-LMS(東大の学習管理システム)にログインしていたため、欠席届が提出できないほど重篤だったとは認め難いとも書かれていましたが、その日が期限の課題の提出をなんとか試みていたところですし、意識朦朧(もうろう)とするなか欠席のことまで頭が回りませんでした。8日間欠席届の提出が遅れたのも、一人暮らしのなか、高熱や呼吸困難といった重篤な症状が続いたためです。補講は丁重にお願いしました。
同じ教員が、欠席連絡が遅れてもコロナ感染によるものだった場合は補講を行っていたことも知っています。私自身も、翌週の欠席届は提出期限を過ぎたにもかかわらず受理されました。こうした一貫性のない対応にも疑問を持っています。
──今後の予定について教えてください
自分は、今後も単位不認定の理由が「コロナ感染に伴う欠席であるにもかかわらず、補講が認められなかった点」にあることを一貫して主張します。補講対応が認められれば、単位は認定されると強く確信しています。成績に関する詳細な説明がない以上「単位の不認定は授業の欠席によるものでない」という大学側の主張は信用できませんし、17点の減点は補講による加点での単位認定を避けるものではないかという疑念もまだ晴れてはいません。
また、17点の減点理由が成績の取り違えだったという大学側の説明も、それはそれで問題です。学部の成績評価にミスがあったとするならば、被害に遭った方が過去にもいた可能性があります。進学選択(東大の、2年夏までの成績を基に3年次以降進学する学部学科を決定する制度)という制度を根幹にして成り立つ東大教養学部において、成績評価は本当に大切ですし、学部の成績評価が公正に行われているかを学生の方から確認する手段はあってしかるべきです。コロナの代替措置廃止の件もそうですが、東大がより自由で学生主体の開かれた場所になることを望んでいます。
※編集部注
教養学部は8月8日に東京大学新聞社が行った取材に対し、杉浦さんへの説明を行う準備をしていたが、先に記者会見が開かれたため、東大への疑念を払拭(ふっしょく)するためにメディアに対し成績取り違えの事実を公表したと回答している。
なお、この取材は8月9日に行われたものです。