東大には毎年、全国各地から文理合わせて約3000人が入学する。東京大学新聞社が学部入学者向けに毎年実施しているアンケートによると、入学者の出身地は東京都の約1000人をはじめ、大きな割合を首都圏が占めていることが分かる。首都圏と地方では、東大受験に関してどのような認識の違いがあるのだろうか。首都圏の進学校・通信教育業界の関係者の話から迫った。
首都圏の東大受験とは
特別でない「東大受験」
地方から東大受験を目指す高校生にとって、首都圏のライバルのことは気になるだろう。首都圏の彼らはどのような学校生活を送って受験を迎えるのか。2017年には78人の合格者を輩出するなど、開校から30年にもかかわらず活躍が目覚ましい私立渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(以下「渋幕」)の進路部長・井上一紀教諭に聞いた。
――渋幕のカリキュラムについて教えてください
多くの教科では3年生になる前に高校範囲を終えています。3年生では、英数国は演習を中心に据えたり、歴史系は近現代史を2学期までじっくり復習したり、理科は3年でも実験をしたりと教科によって異なる部分もあります。長所は中高6年間をうまく生かしたカリキュラムですね。中学校の時から高校レベルの内容を教えてカリキュラム上の重複を解消するなど、無駄をなくすことができます。
――高校3年次の受験指導はどのような取り組みをしていますか
教科によってさまざまですが、特に地歴は3年1学期から授業の枠外で論述のセミナーを開いています。他の教科は授業の枠内で行うものが多いです。それ以上の指導を望む生徒は、個人的に添削指導を行うなどして対応しています。
――東大への進学者が多い要因は何でしょう
距離的な近さと心理的な近さの両方があると思います。距離的に近いことで、実際に大学を訪問するプログラムも組みやすいですし、1人暮らしの必要がないなど、「覚悟」を決めることなく東大を受験することができます。
心理的な近さは、卒業生の影響でしょうね。学校側が東大を推そうとしているわけではないんですよ。生徒が自ら志望するというか。実際に進学した先輩たちとの交流を通じて「自分も挑戦してみよう」と思うんでしょうね。
近年の合格者数増加は、こうして東大を目指すことが特別ではなくなってきたことを反映していると言えます。逆に卒業生が少ない地方の高校だと、交流は難しいですよね。
受験対策のプロは語る
冷静な情報分析・対策を
では、東大を目指す地方高校生はどのように地域格差を乗り越えるべきか。通信教育で有名なZ会・中高事業部長の宮原渉さんに聞いた。
――そもそも東大受験について、地方と首都圏ではどんな差を感じますか
情報の絶対量ですね。首都圏では学校や塾など情報を得る機会が多いですが、地方では在学校に蓄積されたデータや情報源が限定されてしまいます。
学校も過去の合格者の成功体験に依る指導になりやすく、個々人に最適な指導と言い切れないケースが見受けられます。例えば東大模試でA判定を取れていても、センター試験で想定より低い点数だった際に、志望校変更を指導されるケースもあるようです。
地方では地元国公立大学への合格に注力しているケースが多く、東大受験には不利な環境ではあると思います。Z会では「情報格差をなくしたい」という想いから、東大・京大に特化した進路指導サービスも展開しています。
――では、予備校を忌避する傾向のある地方でも、東大受験生は塾や予備校に通うべきなのでしょうか
高校までの履修範囲の理解・定着がしっかりできているならば予備校は必ずしも必要ないと私は思います。
普段の学校の授業を大事にして、定期テストもきっちり対応する。それに加えて東大模試などのハイレベル記述模試や過去問、添削指導を通じてアウトプットの練習を積んでいけば十分合格圏内に入ってこれると思います。
――地方の東大受験生が気を付けるべき点を教えてください
まずはスタートで出遅れないことです。高3の1年間は、東大を意識した問題演習や履修が遅れがちな地歴理科に費やせるよう、高2までに英数国の基礎を固めておきたいです。
加えて情報の正確な読み取りですね。例えば東大模試でC判定をとると、地方の生徒は動揺しますが、超進学校の生徒は全く揺らがない。C判定から受かった先輩を知っているからです。
地方にはポテンシャルがある生徒が多くいます。周囲に惑わされず、冷静に分析・判断してほしいですね。
***
この記事は、2017年8月に東京大学新聞社が発行した書籍『東大2018 たたかう東大』からの転載です。
『東大2018 たたかう東大』は現役東大生による、受験必勝法から合格体験記、入学後の学生生活のアドバイス、後期学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで解説したガイドブック。東大受験を考えている高校生や中学生の皆さんにお薦めです。大河ドラマ『おんな城主 直虎』脚本家・森下佳子さんへのインタビューなど、読み物記事も充実しています。
【東大2018】