伊藤真利子特任講師、本間裕大准教授(共に東大生産技術研究所)らの研究グループは、株式市場の取引時刻のデータから外生的要因(ニュースなどの市場外部の要因)と内生的要因(取引などの市場内部の要因)の強さを、両者の相互依存性も考慮して推定するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは特に、市場が不安定な時期の取引データを分析することができる。成果は国際誌『PLOS ONE』に4月18日付(日本時間)で掲載された。
金融市場における株式取引は電子化により売買が容易になっており、さまざまな参加者が同時に行うため、価格の急激な変動がよく起こる。このような動きのメカニズムを解明し、市場の安定性・不安定性を理解することが求められていた。近年、情報技術の発展により取引時刻のデータを細かく精密に記録・分析できるようになったが、従来のアルゴリズムでは分析の計算コストが大きく、分析できる対象は限られていた。
今回開発されたアルゴリズムは、市場の取引データを網羅的に分析できるよう計算コストを抑えている。これを用いて新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年3月の全平日のデータを分析した結果、日本銀行の金融緩和の発表と、米国の新型コロナウイルス対策経済パッケージの与野党合意が外生的要因となって取引が増加し、取引が取引を呼ぶ内生的要因を増強したと判明した。時価総額が高い企業の銘柄は外生的要因によく反応し、内生的要因による取引促進の効果は比較的弱いことも判明した。
研究グループはアルゴリズムの適用性を検証するため、昨年5月に金融庁と東大が結んだ連携協力に関する基本協定に基づき金融庁と連携し、より詳細な研究用データを用いた分析を進めている。市場の安定性・不安定性のメカニズム解明と変動予測の精度向上への貢献が期待される。