田中純教授(東大総合文化研究科)ら6人の東大教員から成るグループは9月23日、総長選考会議の小宮山宏議長(第28代東大総長)に提出していた質問状と同質問状に対する小宮山議長の回答を特設ウェブサイト上で公開した。質問状では、総長候補者を12人程度の「第1次候補者」から3人以上5人以内の「第2次候補者」に絞り込む過程の透明性などが問われている。一方小宮山議長は「意向投票の投票有資格者は学内の教員のみあり、学外の意見などを取り入れる環境に対応することはない」などと回答している。
田中教授らは同日夜には、小宮山議長の回答に対する公開質問状を同サイトに掲載した。最初の質問状での提言について「総長選考会議の権限で、議長のご英断により、その提言をただちに現在進行している総長選考のプロセスに反映させていただけないでしょうか」などとしている。回答期限は9月28日正午とされた。
質問状は四つの質問から成り、各質問の要点は以下の通り(発表を基に東京大学新聞社が編集)。質問状は23日正午が回答期限で、小宮山議長からの回答があった場合は質問状と回答、回答がなかった場合は質問状のみが公開されることになっていた。
1. 第2次候補者は規則上3〜5人まで選出可能なのに、なぜ属性が偏った3人の人選を行う必要があったのか
2. 第1次候補者の氏名は東大教職員に周知すべきではないか。周知できないならその理由は何か
3. 第2次候補者の氏名について「取扱いにご留意願います」とするのは総長選考過程を隠匿するような要請に思われ、選考の透明性の観点から重大な問題があるのではないか。氏名に関してまでこのように箝口令を思わせる措置を取るのはなぜか
4. 「総長選考が適正に実施されなければならない」と宣言しているならば積極的な候補者の公表・公開をして社会からの要請に応じるべきではないか。また「透明性・公平性を高める観点から、所要の見直しを行った」というがどのような「所要の見直し」でどのように「透明性・公平性」が高まったのか
それに対する小宮山議長の回答の要旨は以下の通り。
1. 総⻑選考会議ではこのたびの第2次候補者の選考にあたり、候補者の属性を特別に意識することはせ ず、求められる総⻑像に照らして最良の候補者を選出するという方針で臨んだ。候補者を3名にすることに関しても、総⻑選考会議で十分に討議した上で合意したもの
2. 第1次候補者については、立候補制は採らず代議員会及び経営協議会からの推薦により選出されたものであり、第2次候補者に選出されなかった人の配慮から、過去の選考においてもその人数・氏名は公表していない。今回の第1次候補者にも、氏名は公表しないことを知らせた上で書面の作成と面接審査への協力を依頼した。こうした経緯を踏まえ、第1次候補者の氏名は公表しない扱いとした
3. 意向投票の投票有資格者は学内の教員のみで、学外の意見などを取り入れる環境に対応することはないと判断し、現時点での学外への公表を控えた。今回の総⻑選考の選考理由と選考過程は、10月2日に公表することとしており、第2次候補者の氏名はその時点で公表する予定
4. 今回の選考プロセスは、総⻑選考会議において、昨年度までに学内(各部局⻑等)の意見も確認しながら時間をかけて審議・決定し、4月28日に学内外に示した。意見については、より良き総⻑選考の在り方への提言と受け止め、今後の検討に生かす
小宮山議長は4月28日に発表した談話で「学内・学外から収集された情報をもとに、総長選考会議が主体となって進める選考の透明性・公平性を一層高めるために、選考プロセスの見直しを行う」と表明していた。また学内向けの通知では「社会からの期待に応えられるよう、東京大学の良識や伝統に即して、各構成員の真摯な行動により、総長選考が適正に実施されなければならない」とも主張。田中教授は東京大学新聞社の取材に対し「総長の選出を総長選考会議に丸投げしたつもりではない。学内民主主義こそが東大の良識と伝統だ」と回答している。質問状の公開後は学内外における議論を待つという。
現職の五神真・第30代東大総長が選出された2014年の総長選考時には第2次候補者の氏名と経歴が決定翌日に東大ウェブサイト上でも公開されていたが、今年の選考では教職員向けの発表のみ。小宮山議長の名義で出された学内向けの通知では第2次候補者の氏名やその他の資料に関して「取扱いにご留意願います」と要望していることも明らかになった。田中教授はこの対応を「暗黙の箝口(かんこう)令だ」と批判。教職員にも正式には明かされていない第1次候補者の開示も含め、透明な議論を求めている。東京大学新聞社も東大本部への問い合わせに対し「(10月2日の総長予定者発表まで)候補者に関する情報は、学外に公表いたしませんので、お取り扱いにご配慮くださいますよう、お願いいたします」との回答を得ている。
総長選考に際しては、教授会の構成員らから成る代議員会による投票と、学内外の委員から成る経営協議会による推薦で第1次候補者が12人程度選ばれる。その後、面接などの調査を実施し、9月8日に第2次候補者を告示。東京大学新聞社が行った複数の取材によると、東大工学系研究科・工学部長の染谷隆夫教授、自治医科大学学長で東大医学部附属病院元病院長の永井良三名誉教授、藤井輝夫理事・副学長(財務・社会連携・産学官協創担当)の3人が第2次候補者となっている。総長選考会議が示しているスケジュールによると、9月30日に教授会構成員による意向投票の結果も踏まえ、10月2日に総長予定者が選出される予定だ。
【関連記事】
新総長選考開始が公示 経営能力重視が明確に
【関連リンク】
東大ウェブサイト「総長選考会議」
東大ウェブサイト「次期総長予定者の第2次総長候補者の決定について」
【記事追記】
2020年9月23日午前11時27分 田中教授のコメントを追記しました。
2020年9月23日午後9時15分 田中教授らが公開質問状を発表した旨などを加筆しました。