10月15日に開催された「濱田総長と語る集い」の各話者論旨と、質疑応答をまとめた。 (当日のイベント全体の様子はこちら)
濱田純一総長(以下、濱田) 開会のあいさつとして、簡単に皆さんにお話をしたい。皆さんが属する東大は、日本を代表する大学。そして、世界の大学と競い合っていく大学だ。そういった状況で、東大は今後世界で活躍する人材を育てていく必要がある。時代によって世界で求められる能力は変わっていくが、これからの時代には知的な力が必要だと思う。
しかしそれだけではなく、プラスアルファで、タフさやグローバルさも身に付けなくてはならない。世界のいろいろな知識やものの見方を自分のものにして、活躍してほしい。
この考えを基に教育改革を進めてきて、来年度から4ターム制が始まる。ただし仕組みとしては作るが、制度だけでは人は変わらない。制度をどう利用していくかなどを考えることで人は変わる。4ターム制は教育改革の取っ掛かりに過ぎない。皆さんが新しい仕組みを使いこなすような人材になることを期待している。
永田敬副学長(以下、永田) 私からは総合的な改革について、ポイントを絞って説明する。総合的な改革は教育改革と学事暦の変更の二つからなる。教育改革の三本柱は「国際化」「実質化」「高度化」だ。新学事歴は、教育改革の理念を支える枠組みとなる。
授業時間で決まるタームの長さを最小限にすることで、夏と冬に長い休業期間ができた。この期間に、大学が用意したプログラムなどを利用し、学生が自分で設計した活動に取り組む事ができる。今日は「学ぶべきことややるべきことを自分で設定できるか」という話をしてほしい。「こういう制度ができます。さて君たち、どうしますか」という学生に対する問い掛けでもある。
藤井輝夫教授 東大には現在、私が担当する初年次休学制度「FLY Program」と体験活動プログラムなど、学生が自主的に活動できる多くのプログラムがある。4ターム制になると東大を離れて行う活動がより積極的にできるようなるが、それは海外に限った話ではない。国内でもボランティアなど、学生はさまざまなプログラムに参加し、活動の範囲を広げる機会にできるだろう。
矢口祐人教授(以下、矢口) 新学事暦の話題が学生の間でも広がっているらしく、今学期に入ってグローバリゼーションオフィスに留学相談をする人が増えていると聞く。とても望ましいことだ。
私が関わるPEAKの学生など、日本に来た留学生は口をそろえて「東大はどうしてこんなに男が多いのか」と言う。世界のトップ大学で東大ほど男性が多い大学はない。ただしずっと東大にいると、それが当たり前のように感じてしまう。だから積極的に東大から離れ、固定観念を取り払えるような活動をしてほしい。新学事暦は、そうした活動を促すものだと考えている。
DionneNgさん シンガポールから来た留学生の視点で率直な意見を話したい。東大は今でも多くのプログラムが用意されていると思うが、そうした情報を学生は十分に知らない。大学は情報発信をより強化するべきで、学生も情報への感度をもっと高めるべきだ。
学生の心持ちが問題だとも思う。学生が外国の人と交流する機会も少ないし、サークルの先輩に迷惑をかけるからと留学をためらっている人も知っている。
林香里教授 私は大学院で多くの留学生を教えている。大学院は既に学部よりも国際化が進んでおり、フランス・イスラエル・ブラジル・韓国・中国などの留学生がいる。こうした多国籍なゼミは、研究にも良い影響を与えていると思う。
海外に行くのが重要なのではなく、異文化という自分が慣れない場所で「対話」を重ねることが重要。学部時代に、こうした修行をするとよいと思う。そこで得たものは、その後どんな職業に就くにしても大切になっていく。
田村海さん 先生方が話してくださったことは理解できる。しかし制度が変わっても、もともとやる気が無い人は変わらないと思っている。制度を整えた上で、学生の意識を高めるような広報をすればよいと思う。
田中美帆さん 私も全学交換プログラムで実際に留学しているし、留学やインターンシップは旧学事歴でもできる。学生の活動を妨げている障壁は経済的事情ではないか。私が留学できたのも、援助があったからだ。外に出たいと思う学生への経済的支援をもっとしてほしい。
濱田 秋入学に取り組んだのは、留学しやすい環境を作るため。世界に追い付くのではなく、世界と同じ舞台に上がらなければならない。今の制度でも「頑張れば」留学できないことはない。ただ学生の心持ちを変えるきっかけとして、制度を変え、留学を奨励したい。
もちろん、留学は経済的負担も大きい。我々としても、外部からの支援を求めているし、卒業生の間でも、今の学生を支援しようと思う人が増えている。他にも学生自身が自力で支援を募ったり、アルバイトなどで稼いだりと、色々なやり方があるだろう。
以下は、質疑応答の時間に会場から寄せられた質問とその回答を抜粋した。
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――運動部などでは公式戦や合宿の日程で、文理の休みの違いが障壁になる。課外活動への配慮は
濱田 まだ制度の大枠が決まった段階。具体的な支障については、これから解決のために努力していく。
――学生全体の意識が変わるか。東大全体の意識改革のためには何をするか
濱田 部分が変わるだけでなく全体を巻き込んで変わって行かなくてはならない。一部の人たちが変われば、そうでない人も少しは変わると思う。
矢口 学事歴だけでなくカリキュラム全体を変える
――学生や教員の声が届いていないという不満が多い
濱田 学生の声は、アンケートやイベントで、職員の声は、学部・研究科の意見を学部長を通して聞いてきた。改革は始まったばかり、今後調整したい。
――大学の英語教育を楽しみにして入学したが、高校の授業と変わらない。実用的な英語教育にならないか
濱田 駒場の英語教育は、教養を身に付けるためで英語を学ぶためのものでないという意味合いも強い。
矢口 レベル別授業など、要望に合った授業提供に取り組んでいる。要望があれば何でも受け付けたい。
――4ターム制文理で長期休業の時期が違う理由は
濱田 夏季休業が長い方に統一したかったが、大学入学直後の6月から休みなのは学習意欲などの面で問題。入試の時期もずらせない。法学部など、国家試験があり1、2月を休みにしたくない学部もある。
――来年度総長が替わるが、一連の制度改革は続くのか
濱田 議論を重ねた末、組織として決定しているので、継続的に改革は続けていく。
――進学振分けにも改革は及ぶのか
永田 学生がより主体的に進学先を選ぶ新制度を検討中だ。新しい理念での具体的な改革は決まっていないが、まずは教員も学生も意識を変えるため名前を変えようと考えている。
――朝8時半から授業が開始するが、遠方から通う学生への配慮は
濱田 朝から頑張っていただく。90分から105分にする以上、やむを得ない。個別の事情については、相談してほしい
この記事は、2014年10月28日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。