9月に入り早くも10日が過ぎた。ほんの少し前まで、夏休み中遊びにふけっていた小中高生たちはたまった宿題に頭を悩ませ、必死に鉛筆を走らせていただろう。それにしても、宿題の有用性とは何なのか、疑問に思う人も多いのでは。そこで、教育現場に携わる研究者2人に取材し、その真相を語ってもらった。また、東大生たちがかつて宿題にどう取り組んでいたのかを探るべく、東大生のみを対象としたアンケート調査も実施した。(取材・村松光太朗)
知識が「問い」の質高める
一般に学習の形態は2種類ある。漢字・計算ドリルなどの覚える対象が明確な習得型と、自由研究などの学習者自身が「問い」を立てて解決する探究型だ。宿題に関しては、どちらのタイプにも問題点がある。
習得型の問題点は二つ。一つ目は、次期学習指導要領(下図)で求められている「深い学び」が達成されていないことだ。定理や知識を運用して問題が解けるだけで、その意味や背景的知識のような本質まで理解できていない子どもたちが多い。「公式を覚えていても、なぜその公式になるのかが理解できていない子どもは少なくありません」と、教育実践や学習支援を研究する植阪友理助教(教育学研究科)は語る。
現状の習得型の宿題は反復的な書き取りや計算が多く、子どもたちの多くは「結局この問題が解ければいいのか」と本質的な理解を得ることなく進んでしまう。「より『深い学び』につながる宿題が必要でしょう」と語るのは、宿題を研究する太田絵梨子さん(教育学研究科・博士3年)。「例えば漢字もへんやつくりを意識して学ばせる、数学の定理や公式も導出背景や応用法まで理解させる、など工夫ができます」
習得型の二つ目の問題点は、やった量ばかりに主眼が置かれること。確かに量をこなす力も大切だが、空欄を埋めるのが目的となったら本末転倒であり、繰り返した分だけ同じミスをするのもまた意味がない。
重要なのは、社会に出ても通用する「良い学び方」の習得。太田さんは例として「間違えたらどこでつまずいたのかをきちんと分析する姿勢」を挙げた。この分析で理解が深まり、「深い学び」にも直結する。
一方探究型の問題点は、具体的な方法論や何が期待されているかに関し教員からほとんど指導がないことだ。探究型学習の要点は、身近な物や興味のあることについて「問い」を立て検証すること。しかし現状の指導環境下では、子どもたちの多くは「問い」の立て方が分からない、あるいは「問い」を立てるという発想自体を持てないのだ。
「解決策の一つは、優れた探究型学習のモデルを子どもたちに見せることです」と植阪助教。良いモデルは子どもたちにとって探究の指針となるからだ。また単に見せるだけでなく、その作品のどこが良いのかという評価基準を明示することも重要だ。問いの着眼点や実験方法が良いなど具体的に示さないと、子どもたちは「字をきれいに書くと良い」など違うポイントを見てしまう恐れがある。
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教科学習の性質上、授業は習得型に偏りがちだ。ただし習得型がうまく機能すると、知識はより多く深くなり、授業の中で生まれる疑問、すなわち「問い」の水準は高くなる。そこで探究型学習を実践すれば、習得型の「深い学び」へとつながる好循環を生む。
このように、習得型と探究型は互いに不可欠だ。習得型の宿題で「深い学び」と「良い学び方」を推進し、探究型でも優れたモデルで指針を示す。こうすれば、大学以降の卒業論文や修士論文にも必要な高度な知識の習得と探究につながるだろう。
読書感想文に懐疑的?
東京大学新聞社は7月23日~8月3日にかけて、東大生を対象に小中高時代の普段の宿題と長期休暇の宿題に関するアンケートを実施し、100人から回答を得た。
●役に立ったかの判定方法
一般的な宿題を列挙し、それぞれについて「役に立った」「どちらともいえない」「役に立たなかった」の3段階で評価してもらった。各宿題について(役に立ったと答えた人数)-(役に立たなかったと答えた人数)を算出。この数値が正ならば値が大きいほど役に立った宿題、負ならば絶対値が大きいほど役に立たなかった宿題と考える。
●役に立った・立たなかった宿題
小学校で最も高かったのは「自由研究」で+25、次いで「漢字ドリル」の+20、「計算ドリル」の+14だった。中高については「学校指定の副教材・問題集」が最高の+39で、「先生自作のプリント」が+36と続いた(表1)。
一方、小学校で最も低かったのは「読書感想文」と「日記・絵日記」が同率で-23。中高でも「読書感想文」が-14で最低。読書感想文に対しては、「苦痛」「思ってもいないことを書くだけなので意味がないのでは」など否定的な意見が寄せられた。
なお役に立ったという宿題については、どのような点で役に立ったのかを挙げてもらった(複数回答可)。小学校は「自ら調べる能力の向上」が最多の36人、次いで「知的好奇心の向上」が35人、「受験に役立つ知識の定着」が30人。一方、中高では「受験に役立つ知識の定着」が70人で最多だった(表2)。小学校が探求寄りであるのに対し、中高では習得型に寄っている。
●宿題に対する取り組み方
小中高時代の宿題についての取り組み方を「真面目に取り組んでいた」、「少し手を抜いていた」、「かなり手を抜いていた」、「全くやっていなかった」の4段階で自己評価してもらったところ、「真面目に取り組んでいた」と答えたのは小中では共に59人、高校では48人となった。
「真面目に取り組んでいた」人にその理由を聞いたところ、「役に立つと思ったから」は小学校で11人、中高では36人と変化している。