複数の学部・学科などで似た領域の学問を扱っている場合、自分に合った進学先はどこか分からないという悩みを持つ学生も多いのではないだろうか。そのような悩みを解決するため、本企画では一見似たような学問を扱う進学先を徹底比較する。今回のテーマは「社会学」。文学部人文学科社会学専修(社学)・教養学部教養学科総合社会科学分科相関社会科学コース(相関)・教育学部総合教育科学科教育社会科学専修比較教育社会学コース(比教社)の三つの進学先を特集する。
(取材・川田真弘)
(注:社会学を学べる進学先がこの3専修/コースに限定されるという意味ではありません。教育学部の他コースや工学部、医学部の一部などでも社会学の内容が扱われています。今回取り上げる三つの進学先についてはあくまで主要なものとしてお考え下さい)
参加者
岡田和志さん(文Ⅰ→文学部人文学科社会学専修4年)
田尻夏希さん(文Ⅲ→教養学部教養学科総合社会科学分科相関社会科学コース4年)
山口ゆり乃さん(文Ⅲ→教育学部総合教育科学科教育社会科学専修比較教育社会学コース4年)
(以下敬称略)
社会学の社学、社会科学の相関、教育の比教社
──自身の進学先で学べる内容について教えてください
岡田(社学) 社学では、社会学全般を広く学ぶことができます。2Aセメスターに開講される「社会学概論」では、社会学の多様な分野をざっと見ることができます。また3Sセメスターでは「社会学史概説」という授業で、コントからルーマンに至るまでの社会学の系譜をたどることができます。ただ、カリキュラムの体系性はあまり強くありません。
田尻(相関) 相関では、社会学に特化しているというよりは法・社会思想・統計を含め、社会科学全般を学びます。選択必修の授業が多く、さまざまな分野に触れることができる点が特徴的です。逆に社会学だけを学んで卒業することはできないので注意が必要です。
山口(比教社) 比教社では、比較教育学、教育社会学、高等教育論の3分野を学ぶことができます。いずれにおいても主に社会学を使って教育を分析しています。教育以外のテーマを扱わないわけではありませんが、社学・相関と違って軸足はあくまで教育にあります。また調査実習などの授業を通じて、計量的・定性的な調査方法を学び、実践することができます。
──講義や演習はどのように行われていますか
岡田(社学) 演習としては、3年Sセメスターから4年Aセメスターにかけて、一つ〜二つのゼミに所属します。その他は原則全て講義形式の授業で「社会学特殊講義」という名前で開講されています。
田尻(相関) 授業は基本的にゼミ形式で開講されます。相関のゼミは各ゼミに学生が割り振られてそこに所属するといったものではなく、セメスターごとに受講生がそれぞれ集まって演習を行うタイプの授業です。講義という名前であっても事実上のゼミとして開講されることや、逆に演習という名前でもひたすら先生が前で話すだけの授業もあります。
山口(比教社) ゼミはありますが、卒論・修論・投稿論文など個人の研究の進捗報告や相談が中心であるため、何かを集団で教わる場ではありません。一方で、講義であっても人数が少ない場合は、演習のような形で授業が行われることがあります。
──有名な授業や教員を教えてください
岡田(社学) 赤川学先生のゼミは人気ですね。赤川先生はセクシュアリティーの社会学の他、猫の社会学といった研究もされています。他には、理論社会学が専門の出口剛司先生のゼミも人気です。
田尻(相関) 教員は、前期教養課程の社会科学の担当教員を想定してもらいたいです。例えば、瀬地山角先生は後期課程ではジェンダー論のゼミを開講されています。
山口(比教社) 本田由紀先生の「日本社会の変容と課題」という授業(注:教育実践・政策学コースとの共通科目)が有名です。毎週1本論文を読んだ上で講読票を提出し、それを基にディスカッションをするというハードな授業ですが、教育社会学の全体的な議論が把握できる授業で、比教社の多くの学生が受講します。
──学生同士の交流や学生と教員の間のコミュニケーションは、どの程度ありますか
岡田(社学) 1学年あたり約50人と人数が多く、オンライン化してからあまり交流は活発ではありません。対面だと授業後に教室で議論が生まれていたかもしれませんが、そういうものがないのは残念ですね。コロナ禍以前はゼミ合宿なども行われていたようです。
田尻(相関) 相関でのコミュニティーの他、総合社会科学分科のもう一つのコースである国際関係論の人も交えた分科でのコミュニティーがあります。学科部屋もあり、そこで交流を行うこともできます。ただ興味関心はかなり違っていて、自立的な人も多い印象です。教員に対しては、自分から積極的に話に行かないと、コミュニケーションを取るのは難しいかもしれません。
山口(比教社) 学年同士のつながりは強い方だと思います。オンラインになってもSlackでよく話していて、1セメスター期間で1万メッセージを超えたこともありました(笑)。控室もあり、そこで学年を超えて交流ができます。教員には自分から積極的にアプローチすると、比較的手厚い指導を受けることができます。
──他学部履修はどれくらいできますか
岡田(社学) 他学部履修はとてもしやすいです。卒論を除く必修・選択必修科目と同じ単位数を、文学部・他学部問わず社学以外の授業で埋めること、つまり半分以上社会学以外を学ぶことができるほどです。僕自身も今は教養学部や教育学部の授業によく出ています(注:時間割参照)。
田尻(相関) コースの特徴として扱う分野が広いため、他学部履修をしていない人はほとんどいないと思います。教養学部の現代思想コースをサブメジャー(注:所属コースとは別のコースの授業を副専攻として15単位程度履修するプログラム)として受講する学生もいます。法学部・経済学部の授業に出る学生も多い印象ですね。
山口(比教社) 他学部履修は自由にできます。コースの授業の選択の自由度がさほど高くないのに対して、他学部履修は自由に組むことができます。社学の授業に出る人は多いですね。
前期教養課程で自分の適性を見極めよう
──進学選択で他に進学を悩んだ学科や、その結果今の進学先を選んだ理由を教えてください
岡田(社学) 現代社会の分析に興味があり、相関と迷いました。しかし、本郷に行きたいとの思いから社学を選びました。実は工学部の都市工学や社会基盤とも迷いましたが、あくまでも社会の構造を解き明かす社会学をやりたいと思い、社学にしました。
田尻(相関) 比教社や教養学部の地域研究(アジア・日本)と迷いました。自分の関心である教育や格差というテーマを、①地域、②社会科学、③教育学のどれで切り取るか悩みましたが、テーマがはっきりと決まっていたからこそさまざまな手法を用いて一つのテーマを横断的に研究できる相関を選びました。
山口(比教社) 社学と悩みましたが軸は教育にあったので比教社にしました。教育心理とも迷いましたが、心理学の対象である個人よりも社会の構造に興味がありました。また社会全体を計量的に見るというマクロな視点を得たいと思っていたため、比教社の調査実習に引かれました。
──前期教養課程のうちにやっておくべきことは何でしょうか
岡田(社学) 準必修の社会Ⅰ・Ⅱを取ってみて、社会学の雰囲気を知るといいと思います。また「自分の生きづらさには社会的な背景がある」みたいな社会学的な考え方を知るためには、ジェンダー論の受講をお勧めします。
田尻(相関) 準必修の社会科学をいろいろと受けてみるといいと思います。相関ではその延長上の授業が展開されるので、自分の適性に合っているかを知ることができます。
山口(比教社) 比教社の先生は前期教養課程の授業にほとんど出ていないので関連する授業はあまりないかもしれませんが、社会科学系の授業はストックとして役立つと思うので取っておくといいと思います。統計学は2Aセメスターからしっかり学べるので、それほど心配しなくて大丈夫です。
──前期教養課程生にメッセージをお願いします
岡田(社学) 社学では社会学の勉強であれば何でもできますが、逆に何もやりたいことがない人は卒論で迷子になってしまうと思います。自分のやりたいことを持って社学に来てほしいと思います。
田尻(相関) 相関では社会科学の分野を横断的に学べる楽しさがあります。そういった勉強に魅力を感じる人はぜひ相関に来てください。
山口(比教社) 比教社の特徴は、先生を含めてアットホームなところです。そういうコミュニティーを求めている人はぜひ比教社に来てほしいと思います。
時間割
【記事修正】2021年9月30日午前11時45分 岡田さん・山口さんの時間割を修正しました。