モデル:てしがわらゆか 元bay Girls campus(bayFM)レポーター
この時期、就活生から内定の報告がたくさん届くようになりました。とても嬉しいのですが、そんな中にちょっと心配になるようなメールがけっこうあります。それが、「納得のいく会社に出会うことができました」というフレーズが含まれているメールです。 なぜ心配になるのかというと、 “強く志望していた職種や業界があったにも関わらず、そこには入ることのできなかった”人からこんなメールをもらうことが多いからです。
ひょっとして、「本当は納得していないのに、自分に言い聞かせているんじゃ?」と邪推してしまいます。 少し話がそれますが、僕の師匠である水野敬也の名著『LOVE理論』(文響社)の中で、「アリアリ理論」という衝撃の理論があります。これは、そんなつもりじゃなかったけど一夜を共にしてしまった男性のことを女性は好きになる、というものです。 「かなり不細工な男だったけど……でも優しいところもあったし。全然お金持ってないけど、でも面白い人だったし……アリかな。うん。アリかナシかで言ったら、アリ。あの男アリだわ。全然アリ」 こうやって自分を納得させ、そのうちに好きになっているのが「アリアリ理論」なのです。
僕は今、多くの就活生が「内定アリアリ理論」に陥っているのではないか、と危惧しているのです。 「最初は全く考えてなかった、かなり微妙な会社だったけど……。でも人事の人は優しかったし。やりたいことからはちょっと離れてるけど、福利厚生はちゃんとしてそうだし。内定者に面白い人いて仲良くできそうだし……アリかな。うん。アリかナシかで言ったら、アリ。あの会社アリだわ。全然アリ」
つまり「就活生は好きな会社に内定するのではない。内定した会社を好きになる」のです。 もちろん、そこには就活に疲れてしまって、一刻も早くラクになりたい、という気持ちもあるでしょう。 この時期、度重なる面接、そして受かりそうな期待をさせられては落とされることの連続に、疲れきっています。気温も湿度も上がってきて、スーツを着るのすらイヤになっているかもしれません。 そして、就活に疲れた学生について考えるたびに、僕は思い出すのです……。ユリコのことを。 ユリコは僕の同級生のマスコミ志望の女のコでした。
最初はアナウンサーをはじめとしたテレビ局の試験を受けていました。途中までは進むものの内定には至らず、だんだんとその難しさに疲れ、4月頃には一般企業を受けるように。4月のテレビ局就活戦線は地方局がメインになっており、ユリコは「もう疲れた。地方行きたくないし」といって受けるのをやめていました。 マスコミ受験者には、スタートが早いがゆえに、4月にはもう面接に慣れている、という傾向があります。採用人数の多さもあり、一般企業を受けると、今までマスコミに落ち続けた日々が嘘のように、ポンっと内定が出てしまうこともあるのです。 ユリコも4月中にメガバンクの内定を得て、ゴールデンウィーク後には「就活終わったー!」と宣言していました。
結局、ユリコは残りの大学生活を楽しんで、卒業していきました。 あれから7年。先日、大学の同窓会で、ユリコに再会しました。「銀行つまんないんだよね。まんま半沢直樹だよー、アハハ」と少し寂しそうに笑っていました。 学生の「内定アリアリ理論」は、仕方のない面もあります。就活に疲れ、内定をもらった会社が良く思えてくるのも自然なことでしょう。実際、その会社に入ってみたら、仕事が面白く、自分に合っていた、ということも十分ありえます。
ただ、「納得する会社に出会えました」という学生に、ちょっと考えてもらいたいことがあります。まだ就職するまで1年近くもあるこのタイミングで、”正解らしきもの”を見つけて、無理矢理自分を納得させる必要はないのではないかと思うのです。 今すぐ就職留年を決めろ、というのではありません。就職について考えるのを、やめないで欲しいのです。今この時点で、安易に就活のことを考えるのをやめることは、自分の人生について考えるのをやめることと同じです。 周囲はもう就活を終えていますから、孤独にも耐えなければなりません。周りが夏の旅行の計画を立てている中で「この日、もしかして選考入るかも」とか考えていたら、やっぱりつらいでしょう。
それでも、心のどこかにわだかまりがあるのなら、夏採用でもなんでも、受けてみればいいのです。3月、4月のように毎日面接を受けるのではなく、ペースダウンをしながらゆっくりと続けるのはアリでしょう。そうやって秋以降にかけて、ゆったりと内定の数を増やしていく人は、意外にたくさんいます。これからまだ何ヶ月も戦いが続くのかと思うと、気が滅入るかもしれませんが、長い人生から考えると、ほんのちょっとです。ロスタイムくらいの感覚です。 僕の同級生の中にも、4年生の9月や1月に内定をもらったところに勤めている人は、たくさんいます。卒業式が終わった後、なんと3月30日まで面接を受け続けていた友人もいました。
その人は、結局、前年の5月に内定をもらったところに就職したのですが、「何もしないよりもスッキリした」と言っていました。 「せっかく内定をもらったのに、他のところの面接を受けるなんて、浮気じゃないか、そんなのイヤ!」と思う人もいるかもしれません。せっかく自分なんかに内定をくれたのに、そんな優しい人達を裏切るのは悪い、と。そんなふうに、謙虚になる気持ちはもちろん大事です。でも、自分の人生です。自分で納得できる場所を探すために活動を続けるのは、悪いことではありません。 考えることをやめないこと。それが、人生を後悔しないたったひとつの方法なのだと、僕は思っています。
POINT 就活生は好きな会社に内定するのではない。内定した会社を好きになる
POINT 思考停止のスイッチは自分でも気づかないうちに押されてしまっている
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霜田明寛 (しもだ・あきひろ) 1985年生まれ、東京都出身。国立東京学芸大学附属高等学校を経て、早稲田大学商学部を卒業。2008年の大学在学中に、第四回出版甲子園準グランプリを受賞し、執筆活動を始める。雑誌記者・ライターとして活動する傍ら、『夢をかなえるゾウ』著者の水野敬也氏に師事し、『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』『マスコミ就活革命(レボリューション)~普通の僕らの負けない就活術~』の著書を出版。 その後、就活生相談や全国の大学からの講演依頼が殺到。アナウンサーをはじめ、テレビ局、出版社、広告代理店など、マスコミを中心に多くの就活生を送り出す。2013 年からはPR会社に勤務する傍ら、早稲田大学で就活講座を担当。主宰するセミナー『就活エッジ』も好評を博している。