モデル:下田奈奈 元「ZIP!」リポーター/明治ガールズコレクション2012 グランプリ
僕が就活でアナウンサー試験を受けていた頃の話です。キー局のアナウンサーの先輩にOB訪問をしていたときに、「目標とするアナウンサーは誰?」と聞かれました。「久米宏さんです」と答えると、こんなリアクションが返ってきました。 「目標が大きすぎる」
久米さんはその時点で既にフリーになっていた大御所。ラジオではメディア批判なんかもしていて、既にアナウンサーの役割を越えた活躍をされていました。久米さんの活躍やその立ち位置は、ほかの人がしないような苦労を何十年と重ねられた上でのもの。それなのに、新卒入社を目指す僕が目標として挙げるのは、その過去の経験を無視して今にしか目を向けていない感じがする、ということでした。
僕は、ただ「今、楽しそうな久米さん」に憧れている学生だったのです。 目標が大きいと言われた僕の愚かさは止まりません。「じゃあ……安住さんとかですかね?」と言うと、先輩はまた渋い顔。(というか、質問されてるのに、逆質問してる時点でアウトですね)
「好きでもいいけど、面接で挙げる名前としては適切じゃない。タレント志望と思われてしまうる可能性もあるしね。安住さんみたいなことができるのは安住さんだけだから。特殊なケースだと考えないと」
特殊なケースを目標として2つも挙げてしまったそのときの僕には、ネジ曲がったアナウンサー志望理由がありました。実は、「今は就活の時期が来ちゃったからアナウンサー試験受けてるけど、ホントはジャニーズになりたかった」のです。そんな本音が、僕が挙げた目標に透けて見えてしまってたのです。
でも、そのとき思いました。面接やエントリーシートでは「あなたの目標を自由に書いて下さい」とか「やりたいことを書いて下さい」なんて、散々煽っておいて、いざこっちが本当に自由に目標や夢を語ると、とたんに生意気扱いされてしまう!
これは俗にいう、ダブルバインド(二重拘束)というやつの罠ではないでしょうか。 しかし、それから数年が経ち、就活のアドバイスをするようになり、色々な就活生を見てきた結果、確かに若者に「根拠のない夢」を語られると「社会が見えていない」と大人が感じてしまうこともわかるようになってきました。概念的な”目標”も注意です。「人に◯◯を伝えたい」「人の生活に幸せを届けたい」など、抽象的な言葉を並べられてもイメージがわかず、質問もしにくいので、面接も盛り上がりません。
そこで、辿り着いた結論は、目標を語るときは、目先の目標と最終的な目標を分けて語るべき、ということです。目標とする人を挙げるにしても同じ。新入社員としてのどうがんばりたいのかという目標と、成長した後の目標と、2パターンの用意をしておかないといけないのです。
理由を説明しましょう。そもそも、新入社員を採用するという行為には「まずは愚直に働いてくれる若い人を採る」という意味と「将来幹部になる人を採る」という2つの意味が含まれていると思います。 最初は若手として、上のいうことを聞いて一生懸命、言い方は悪いですが、コマとして働いてもらう。その後、徐々に企業カラーに染まっていってもらい、最終的には幹部になるほどまでに、すなわちコマを動かせる脳を持った人間にまで育つ。もちろん全員がそうなるわけではありませんが、これがひとつの理想パターンです。
しかし面接でいきなり「幹部になりたい!」と言われても、それは「目標デカすぎ」ですし、かといって「ただただ言われた通りにマジメに働きます!」だけでも「お前の志はないのか! 夢を持て!」となってしまう。またまたダブルバインドです。 ではどうすればいいのでしょうか。ベストなのは、まず若手としての目標を語り、それを経て、最終的な目的にたどり着きたい、という順番で語る。必要なのは”愚直を覚悟した大志“なのです。これによって「ただ愚直なバカ」と捉えられる危険性も「ただ言ってることがでかいバカ」になってしまう危険性も、格段に減らせます。
例えば、最近、アナウンサー志望の女子に理想のアナウンサーを聞くと、ダントツに多いのは、加藤綾子さん。一方で、タレント志望のミーハーに見られないように考えた女子は、大江麻理子さん、安藤裕子さんといった目標を挙げます。しかし、その答えでも、大江さんの入社13年間や安藤さんのウン十年のご経験を無視して、いきなりメインキャスターになりたいという答えになってしまっているんですよね。 以前アナウンサーになったコは、「若い時期は、レポーターとして色々な現場を渡り歩いた後に、最終的に安藤優子さんのようなキャスターになりたいです」と言っていました。
これは非常にバランスのとれた答えだと思います。テレビ東京の大江さんを目標に挙げるなら、「バラエティでも何でも、ふっていただいたお仕事はやらせて頂きたいと思っていますが、10年以上のスパンで考えると、最終的にはWBSのキャスターの大江さんのようになるのが目標です」といったところでしょうか。こんな風に答えられると、ガツガツしたいやらしさが答えから消えますよね。 人の”今のポジション”にだけ目を向けて語るのは、”目標”ではなく”欲望”になってしまいます。そこに至るまでの過程にも目を向け、「この努力を経て、これを得たい」と語ったときに、初めてそれは目標になるのです。
POINT
“愚直を覚悟した大志”を語る。 POINT ”欲望”ではなく”目標”になるように、人生を階段のように捉えて話す。
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霜田明寛 (しもだ・あきひろ) 1985年生まれ、東京都出身。国立東京学芸大学附属高等学校を経て、早稲田大学商学部を卒業。2008年の大学在学中に、第四回出版甲子園準グランプリを受賞し、執筆活動を始める。雑誌記者・ライターとして活動する傍ら、『夢をかなえるゾウ』著者の水野敬也氏に師事し、『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』『マスコミ就活革命(レボリューション)~普通の僕らの負けない就活術~』の著書を出版。 その後、就活生相談や全国の大学からの講演依頼が殺到。アナウンサーをはじめ、テレビ局、出版社、広告代理店など、マスコミを中心に多くの就活生を送り出す。2013 年からはPR会社に勤務する傍ら、早稲田大学で就活講座を担当。主宰するセミナー『就活エッジ』も好評を博している。