経団連が定めた面接解禁日である8月1日から1カ月以上が経ち、僕のもとにも学生のみなさんから、返信しきれないくらい内定報告が届くようになりました。まとめて、皆さん、おめでとうございます!
僕は、早稲田大学や、自分が主宰する「就活エッジ」などで就活アドバイザーとして活動しており、多くの学生を指導しています。その経験から実感するのは、今回の16年度卒の「採用後ろ倒し」は、かなりの影響が学生や企業に対してあった、ということです。
経団連の「採用選考に関する指針」によると、15年卒では採用広報の開始が3年生の12月、採用選考の開始(つまり面接解禁)が4年生の4月だったのに、16年卒では広報開始が3年生の3月、選考開始が4年生の8月になりました。
採用広報が開始になった直後の2015年3月の最初の土日に、東京ビッグサイトで大規模な合同企業説明会がおこなわれました。その2日間、僕は会場の前でひたすら就活生に話を聞く取材をしていました。
そのとき、たくさんの就活生に話を聞いてびっくりしたのは、「さあ今日から始まった。何をしようか」というスタンスの人があまりにも多かったということです。 確かに、採用広報が解禁された日ですから、就職活動が始まった日ととらえるのが普通かもしれません。
しかし、これはあくまで、経団連加盟企業にとっての解禁日です。実は、僕が指導している学生で、この日の時点ですでに経団連に加盟していない企業から内定(正確には内々定)をもらっている人がたくさんいました。また、経団連加盟企業からも内定を匂わされている人や、実質的な内定のようなものをもらっている人もいたのです。
つまり「この日がスタートです」と言われたのを信じて、就活を始めてみたら、すでにゴール近くにいる集団もいた、ということです。ただ、早くから活動を始めていた人たちが、楽に就活を終えられたかというと、そうではありません。内定を匂わされたまま8月まで放置されたり、8月に入ったとたんに、企業側の態度が急変して困惑したりする人も多くいました。
経団連加盟企業が正式な選考を開始するのは8月以降。しかし、それよりも前から、企業は学生との接触をはかっています。それも、「面接」という言葉を使わないので、学生はそれが何を意味するのかわかりません。「説明会」「インターン」「面談」「ジョブマッチング」「質問会」「OB訪問会」「リクルーターと会う」etc.
早いところでは3年生の夏休みからなので、場合によっては1年間も正式な内定を出さないまま、学生は宙ぶらりんの状態で過ごしていました。そして8月になると、企業側は一斉に内定を出し始めます。そして、「ほかの企業は断るように」などと脅しをかけてくるのです。これが、俗にいう“オワハラ”(就活終われハラスメント)です。
オワハラをしてくる企業はまるで、“デートDV彼氏”のよう。ほかの男と会わないことを約束させたり、その場でほかの男に別れの電話をさせたりするからです。 「俺と付き合ってんのに、ほかの男と会う必要ないよね?」 と拘束したがる様子は、企業と重なります (ちなみに「内定承諾書」というものを書かされることがありますが、これには法的な効力はないと言われています)。
僕が指導していたある女子学生は、ある経団連加盟企業でインターンした結果、内定をほのめかされていたのに、8月の面接で突然落とされてしまいました。「ほかの選考とかぶったら調整するから言ってね」「1回くらい面接を受けられなくても大丈夫だから」などと、甘い言葉をかけられていたにも関わらず、です。
彼女は「ほかの企業の選考はほぼ終わってしまったし、頼みの綱の大学院の試験も終わってしまったし……」と、途方に暮れていました。このように、本人でも意識しない間に、急激に選択肢が狭まったりしてしまったりするのです。
ですから、防衛策としては、複数の企業から内定をもらえるよう活動し、「ほかは断るように」と言われても、急いで絞らないようにすること、です。誰かに一途になりすぎずに、複数のキープの相手をもっておく方が精神的な余裕も出ますし、このようなリスクを回避することができます。
採用の後ろ倒しは、学生や企業側からとにかく不評なため、次の17年卒に向けて、早くも見直しする機運が高まってきました。ただ、もしスケジュールが変更になったとしても、この複数の相手をキープする“デートDV彼氏対策”のスタンスは保っておいて損はないでしょう。
なお、僕が執筆した本が今月、発売になります。多くの就活生に直接向き合ってきて、感じた、伝え方の悩みに応えるために書いた本です。面接が苦手だと思っている人やテレビ局やマスコミなど難関に挑戦したい人、学生を指導する立場にある方はもちろん、すべての「自分をどう伝えればいいのか悩んでいる人たち」に届いたらうれしいな、と思っています。 『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』 霜田明寛著