公務員試験、簿記、宅建…、仕事を始めるにも、キャリアアップを目指すにも、「資格」が求められることは多い。そうした資格対策の授業を、オンラインで低価格で受けることができるサービスが、「資格スクエア」です。同サービスを立ち上げたのは、東京大学法学部を卒業し、弁護士、産業革新機構を経て、起業した鬼頭政人社長。「資格スクエア」を始められた意図、近著『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』の内容について、お話を伺いました。
——鬼頭さんは、どのような学生生活を過ごしていらっしゃったのでしょうか?
法学部に所属していたのですが、4年生の8月になるまでは、体育会ボート部に所属していました。練習は、かなりハードでしたね。引退後、せっかく法学部に入ったのだから法律を勉強しようと思い、9月から本格的に司法試験の勉強を目指しました。ちょうどロースクールが始まったので、ロースクールに入学し、弁護士を目指しました。そして、ロー在学中に、旧司法試験に合格しました。
勉強は結構しんどかったです。最低でも12時間、14〜15時間くらいは勉強したと思います。ボート部時代のハードな練習を積んできた経験が活きていると思います。
——その後、弁護士になるまで、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか?
司法修習で福岡に行きました。司法を学ぶと同時に、会社の経営を横からみることができ、ビジネスって面白いなっていう気持ちも生まれました。
その後3年間は、石井法律事務所という20人程度の事務所に勤務しました。「ろくろを回す」ような職人気質の先生が多く、尊敬できる先生ばかりでした。この3年間は、厳しくもあり、大変勉強になった期間でもありました。
——その後、産業革新機構に転職される背景には何があったのでしょうか?
司法修習で同じクラスだった友人が、私が転職する1年前に産業革新機構に転職していました。仲が良かったこともあり、ずっと産業革新機構の仕事の話を聞いていて、刺激的で面白そうだと思っていました。そうした折、ちょうど採用活動をやっているという話を聞いて、受かったら転職しようと思い面接を受けてみました。結果、運良く採用されたので、転職を決断しました。
——産業革新機構では、どのようなお仕事をされたのでしょうか?
産業革新機構には3年ほどいましたが、前半は大型の企業再編案件、後半は中小企業、ベンチャー企業への投資案件を担当していました。どちらも自分にとって大きな成長の糧になったのですが、自分にとってよりエキサイティングだったのは、後者のような、ベンチャー企業を支援する取り組みでした。ただ、ベンチャー企業支援を続けているうちに、自分で企業経営をやりたいという思いも強くなり、起業という選択肢が、昨年2013年のはじめごろに芽生えました。
——弁護士と産業革新機構の時の働き方では、どのような違いがあったのでしょうか?
今もそうかもしれませんが、弁護士を目指す人って、サラリーマンやりたくない人、ある種の反骨精神を持っている人が多いように思います。みんな、個々の力でやっていくぞという意識がすごく強い。組織の中でプロフェッショナルを実践している方もいらっしゃると思いますが、どうしても組織の力学は働いてしまいますよね。弁護士の世界だと、年次は関係なく、仕事が進みます。誰が言ったかではなく何を言っているかで判断される世界なのですね。
——資格試験対策というアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
漠然とではあるのですが、社会に役立つことをしたいと思っていました。そんなとき、弁護士時代のことを思い返すと、プロフェッショナルとしての意識は、産業革新機構のときよりも強かったと感じました。その差ってなんなのだろうと思った時、ひとつ資格があるのではないかと。資格があることで、人はプロフェッショナルとして働けるのではないかと思い至りました。
一方で、資格試験対策をサービスとして提供しているLECさんやTACさんをみると、かなり授業料が高い。ここをオンライン化して効率化することで、誰でも資格に挑戦できるインフラを作ることができると思いました。この事業なら、人にとって、社会にとって感謝される事業になると感じました。
——オンライン授業に着目されたことには、どのような背景があったのでしょうか?
LECさんTACさんは、基本的には、「通学に繋げたい」ビジネスモデルなのですね。なので、オンライン版も通学版と同じような値段設定にせざるをえず、本来もっと安くできるのに、イノベーションのジレンマがおきている。一方で、受験産業に目を向ければ、manaveeや受験サプリなど、「オンラインで安く」という流れが来ていると思いました。通信環境も整備され始め、近い将来、動画がインフラになると感じました。ここなら勝てると思い、将来を賭けることにしました。
——起業をする際に、ためらいはなかったのでしょうか?
自分自身の迷いはあまりなかったですね。起業と結婚は同じだと思います。「この人と結婚しよう」という決断がないと、起業もできないと思います。ダメな理由を探すのではなく、「ここで行こう」という決断を下せるかどうかが重要だと思います。
——「資格スクエア」のサービスについて教えてください。
コンセプトとしては、仕事につながる資格をとりあげています。現在では、簿記2級・3級、行政書士、弁理士、司法書士、中小企業診断士、公務員試験、宅建などを扱っています。各種検定講座もこれから取り組んでいく予定です。
資格のモチベーションは、①仕事を変えたい、②キャリアアップしたい、③趣味を極めたい、の3つがあると思います。弊社では、前者2つをターゲットにしています。
——昨年12月の中旬にサービスをリリースしました。その後の反響はいかがでしょうか?
予想通りのことと、予想外のこととがありました。予想通りのことは、やはりこの分野の需要はあるということです。「資格スクエア」のようなサービスが待ち望まれていると感じる場面が何度もありました。アーリーアダプターの方に直接お話しを伺って、どういう機能・サービス改善が必要か研究しました。それ以外のほとんどのことは予想外ですね(笑)。ベンチャーの経営は、あらゆることが予想外だと思います。
——今後の目標を教えていただけますか?
資格試験のためのインフラになることですね。あまり、Exit戦略は考えていません。何よりも、事業を続けていくこと、結果としてインフラにすることを目標にしたいと思っています。
——東大生へのメッセージをいただけますか?
社会の大きな流れをいうと、クラウドソーシングが進んでいくことは不可避です。この流れは、士業にも及ぶと考えています。そうすると、誰でも、今よりも多くの人に仕事を依頼できるようになります。この時に、多くの人は顔が見えない。そこで、資格というものが重要になってきます。ある意味、「東大生」というのもひとつのブランドであり資格ですよね。そうした顔の見えない中で他と差別化する一つの要素として、資格の需要はますます大きくなってくると思っています。
もうひとつは、移民の増加です。日本人でない方が、日本の資格をとって、日本で仕事する時代がもう到来しつつ有ります。国籍に関係なく、資格を取ることが、仕事をする上で当たり前の時代がやってくると考えています。
資格というと少し堅苦しく聞こえてしまう部分もありますが、もう少し幅広い視野で資格について考えてみてもいいと思います。東大生はもともと頭がいいのですから、ひとつの指標、ひとつの目標として、資格勉強に取り組んでみたらどうでしょうか。
——7月2日に刊行される『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』には、どのようなメッセージを込められたのでしょうか?
結構キャッチーなタイトルなのですが、内容は、私の過去の勉強の経験をもとに、「どうやったら効率よく勉強ができるか」を丁寧に分析しました。東大生のように勉強ができる人は、試験勉強をする際、ある程度「ヤマを張る」ことをしていると思います。例えば、ここの先生たちは源氏物語の専門家が多いから、源氏物語を重点的に勉強しよう、といった感じです。試験員の先生の専門分野、最近出題されていない分野など、試験には必ず傾向があります。他にも、過去の問題文をパターン化するなど、効率的な勉強をするための「ヤマを張る技術」について分析しました。
この発想は、実は「資格スクエア」のコンセプトにも活きています。従来の資格試験対策の講座よりも、「資格スクエア」では講義時間を短めに設定することが多いです。これは、勉強において重要なことは、決して講義を受けることではなく、その後の復習で「わかった!」と理解できることだと考えるからです。「ヤマを張る技術」によって、効率よく勉強できる環境を整えていきたいと思っています。
鬼頭政人(きとう・まさと)
1981年生まれ。開成高校、東京大学法学部、慶応義塾大学法務研究科を経て、弁護士登録。石井法律事務所、株式会社産業革新機構を経て、株式会社サイトビジットを設立。2013年12月に、資格試験対策のオンライン講座「資格スクエア」をリリース。近著に、『頭のよさとは「ヤマを張る技術」のことである』がある。