埼玉県川口市の芝園団地は住民約5000人の半分近くを中国人が占め、国際化や高齢化による問題を抱える埼玉県川口市の芝園団地だ。東大とは縁もゆかりもない場所のようだが、「将来の日本の縮図」とも言えるこの地で地域問題の解決に取り組む学生たちがいる。住民が暮らしやすい団地を目指し、学生視点で支援に取り組む「芝園かけはしプロジェクト」代表の寺澤峻之さん(経済学部・4年)に、活動への思いを聞いた。
イベントの手伝いから、学生団体立ち上げへ
――芝園団地で活動を始めたきっかけは。
プロジェクトのメンバーには、芝園団地に地縁がある人は一人もいないんです。たまたま団地の役員と知り合いで、団地で開催される日中交流イベントを手伝わないかと誘われたのがきっかけでした。以前「ほうべん」(東京大学法律勉強会、現東京大学訪問勉強会)という団体で移民政策について研究していたこともあり、多文化共生に興味があったので参加しました。
その後も団地に通っているうちに、住民が生活に関して不安を抱えていることを知りました。中国人が住民の半分を占める団地では日中の文化・習慣の違いから問題が起きており、その上両者の間に全く交流がなく、互いが互いに不安を持っていて災害時の助け合いへの懸念の声も少なくありませんでした。しかし住民による自治会の役員は8人しかおらず、ルーティンを回すだけで精一杯で「住民が困っているのは知っていても新しい取り組みができない」という状態だったんです。
そこで学生なりに問題解決に取り組もうと、友人と2人で団地の今後の方針をまとめ、地元の商店会やUR(都市再生機構)、自治会などの前でプレゼンを重ねました。地元の理解を得て、2015年2月に正式な学生団体として「芝園かけはしプロジェクト」を立ち上げました。団地の餅つきイベントや飲み会にも参加していろんな人の声を聞くようにしていたので、だんだんと信頼を得られたのかなと思っています。
――最初は2人だったんですね。どうやってメンバーを集めたのでしょうか。
自治会の役員の方が、大学のゼミなどに足を運び人を集めてくれました。あとは口コミですね。友人にも声をかけ、今では7大学から集まった20人で活動しています。
メンバーの興味はばらばらで、社会学や法学、都市工学を専攻する人、保育士を目指す人もいます。それぞれ得意な分野を生かすことで活動の幅が広がっていますね。
私は経済学部なのですが、もともと人の役に立つ仕事がしたいという思いがあって。経済の理論を学ぶのは面白かったのですが、ふと「これって一人一人の幸せにつながるのかな」と感じ、もっと現場で活動したいと思ったんです。その時にちょうど芝園団地と関わる機会があり、このような団体を立ち上げることになりました。
住民との対話を大切に
――地域の問題を解決するために、交流会などさまざまなイベントを開催しています。
イベントは基本的に住民との対話をベースにして作っていて、活動の軸は「芝園団地の国際化、高齢化という課題の解決を前進させる取り組みを行う」ということです。
例えば継続して開催している「芝園サロン」は、高齢者が気軽に集まれるお茶会のような場を欲しがっていたことから企画しました。回によって内容は異なり、健康体操や簡単なゲームなどを行っています。またヒアリングをする中で中国人に教育意識が高い人が多いことが分かり、日本の教育制度を説明する教育相談会も開催しました。住民のニーズを捉えることを大切にしています。
――今までで一番手応えのあったイベントは。
2016年2月に、学生と住民が一緒に交流イベントを企画する「多文化交流クラブ」という活動を始めました。住民と一緒に企画することでよりニーズを捉えられるだけでなく、その企画の場から住民同士の交流が生まれるという利点があります。私たちはこれを「プロセスからの交流」と呼んでいます。多文化交流クラブ主催の日中交流ランチ会に参加した日本人からは「こんなに中国の人と話したのは初めてだったが良い人が多かった」、中国人からは「日本語が使えて楽しい。普通に話せば分かり合えると思った」といった声が聞かれ、アンケートでは96%の方に「満足できた」と回答いただきました。日中の相互理解の促進という目的が達成できているんじゃないかなと思っています。
――やりがいは何でしょうか。
一つは住民の方の笑顔ですね。団地が変わった気がする、一緒にやることが楽しいと言ってくださる方もいて、やってよかったなと思います。
もう一つは、プロジェクトの活動が新聞やテレビに取り上げられるなど、外部からも評価をいただいていること。2015年には、共に活動する芝園団地自治会が、地域づくりの取り組みを評価する「あしたのまち・くらしづくり活動賞」で全国3位に相当する総務大臣賞を受賞しました。
また先日、中央労働金庫の地域づくりに関する助成金プロジェクトに応募し、助成を受けられることになりました。実は結構倍率が高かったらしく、審査を通過したことが自信にもなりましたね。
「よそ者、若者、ばか者」が地域を変える
――住民による自治会もある中で、地域に関わりのなかった学生が地域問題の解決に携わっていく意義は何でしょうか。
コミュニティーの活性化に必要なものは、「よそ者、若者、ばか者」だと言われています。「よそ者」は内部のしがらみにとらわれない自由な発想ができる人、「若者」は若くて行動力がある人、「ばか者」はリスクをとって新しい挑戦ができる人です。芝園団地にとって私たち学生はこの全てをそろえているので、団地の課題解決能力を高めていけるんじゃないかなと思っています。
それから、学生には「色」がありません。社会人になると肩書きがあるせいで、信用や協力を得るときに苦労することもあるそうです。例えば、何か呼び掛けても「会社の商品を売りつけようとしているんじゃないか」「利益を求めているんじゃないか」というように。まだ「色」のない私たちが、日本人と中国人、いろんな組織同士の「かけはし」になりたいと思っています。
こうした取り組みは最終的に地域の人が担っていくのがベストですが、今のところ8〜9割は学生です。今は芝園サロンのあとに座談会を開くなど住民の主体性を引き出す取り組みをしていて、次第に主導権を住民に移したいと考えています。
――最後に、東大生に伝えたいことは。
国際化・高齢化は今後日本で深刻化していく課題です。私たちはこれらの課題に対して、実際に外国人・高齢者の方々の声を聞きながら取り組み、先進モデルを創っていきます。芝園かけはしプロジェクトが目指す「現場に根付いた本気の地域づくり」に興味がある方は、ぜひ一度団地に足を運んでください!
芝園かけはしプロジェクトの連絡先はこちら
2016年9月16日 13:00 【記事修正】 メールアドレスを「shibazonogakusei@yahoo.co.jp」に修正しました
(取材 石沢成美)