ミス&ミスター東大コンテスト2020運営団体の東京大学広告研究会がセクハラで告発された問題を受け、東京大学新聞社では学生同士が被害者・加害者となるセクハラについてアンケートを実施した。複数の体験談が寄せられ、少なくない数の学生がセクハラを受けている実態が見えてきた。学生同士のセクハラの現状と防止策について取材した。
(取材・武井風花)
10月中旬、ミス&ミスター東大コンテスト2020出場者の学生が、運営団体の東京大学広告研究会の構成員に「生々しい性的な質問を複数される」などのセクハラ被害を受けたと告発し、学生支援課が状況把握に乗り出す事態となった。
この問題を受け東京大学新聞社は東大生を対象にアンケートを行った。複数選択式・記述式の回答を併用して先輩や同期、後輩などの学生から少しでも不快な性的言動を受けたり、見聞きしたりした経験があるかなどの設問に回答してもらい、10月28日までに58件の回答を得た。その結果、女性19人、男性10人、性別無回答2人の計31人が不快な言動・行動を経験したことがあると回答した。
事例別で最も多かったのは「ゲイの人たちを見下す発言をしていて反応に困った」(文・3年)など性的少数者に対する差別的発言を見聞きしたという回答で18件。続いて「飲み会の席で胸の大きさや体型に言及された」(文・4年)、「同期や後輩からしばしば『ばばあ』『でぶ』などと揶揄される。(中略)イジられることでむしろ男子部員との壁を小さくできると思っているため特段嫌だとは思っていない。しかしごくまれに体重など具体的な数値を聞かれたりするとかなり抵抗感を覚える」(文・4年)など、容姿や体型をからかわれたという回答が10件。続いて「男子学生にストーカーされた上に、彼のクラスの飲み会で酔っ払ったクラスメイトの男子たちが彼のスマホを奪って私に大量の侮辱的な下ネタをLINEで送ってきた」(経・4年)など、一方的な思い込みで頻繁にメールが来たり、SNSに書き込まれたりするという回答が9件あった。他には「事実とは異なる脚色された性的なうわさを流される」(学部・学年不明)、「自分の了承がないのに、写真を不特定多数の人に送られる、共有される」(法・3年)などの回答が寄せられた。
調査の結果からは、少なくない数の学生が大学生活を送る中で学生による何らかのセクハラを経験しているという実態が浮かび上がった。
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大学でのハラスメントに詳しい北仲千里准教授(広島大学)によると、学生同士のセクハラが起こりやすい環境は主に二つある。一つ目は運動系のサークル・部活など、上下関係の強い環境だ。先輩から性的言動を受けて嫌だと思っても言いづらく、結果として発言を許容する雰囲気が形成されるためだという。二つ目は極端に女性が少ない環境だ。少数派の女性に配慮せず、多数派の男性同士が性的な話で盛り上がったり、女性が男女関係なく接しているつもりでも、男性が同意なく性的行動を起こしたりする例があったという。東大は全学生のうち女性の割合が約2割と少なく、特に注意が必要だ。
学生同士のセクハラを防止するためにはどうすれば良いのか。「大学側ができる有効な対策はセクハラについての正しい情報発信です」と北仲准教授。広島大学では2年前から、学部1年次の学生全員が「大学教育入門」という必修の講義を受け、ハラスメントについて学ぶ試みを始めた。「性的同意のない言動は全てセクハラだと話しています」。学部3年次や大学院に進学する際、再度研修を行う学部もあると言う。
東大も対策に乗り出している。東京大学ハラスメント相談所の担当者によると、ハラスメント相談所は2019年度にハラスメント防止のための学生・教職員向けの研修会やガイダンスを計79回実施した他、教育学部や教養学部の講義でハラスメント防止について発信している。「相手との関係性を考える視点を持つことや、同意を得ることの大切さなどをお伝えしています」。東大関係者にセクハラを受けた場合は、まずハラスメント相談所に連絡してほしいという。「心のケアとともに、起こったことへの対応について具体的な対策を相談者と一緒に考えます」
加害行為について事実認定がなされた場合、加害者には退学・停学などの懲戒処分が科される可能性もある。東大には学生を懲戒処分にする手続きなどを定めた「学生懲戒処分規程」という規則があり、その中でセクハラも退学および停学といった懲戒処分の対象になりうる行為に挙げられている。ハラスメント相談所は事実認定や処分決定をする機関ではないが、相談があった場合には相談者の意向に添って、加害者の所属する学部・研究科に対して事実認定や注意勧告などの対応を依頼する取次ぎをしている。また東京大学ハラスメント防止委員会への苦情申立をする場合の窓口でもあるため、相手の学生への懲戒を希望する場合には申立手続きのサポートを行っているという。
一方でセクハラを受けた場合、相手との関係によっては加害者を告発するのが難しい場合もある。北仲准教授は、配慮のない性的言動を受けたら「その場で抗議するのが一番良い」としつつ、セクハラは立場の優位性を背景にして起こることが多いため実際には難しいこともあると話す。その場合は相手から距離を取りつつ、送られてきたSNSやメールの文面などの記録を残しておくと「事実関係を認定する際に有力な証拠になります」。
一人一人が当事者意識を持つことも重要だ。北仲准教授は、配慮のない性的言動を見聞きした時は自分に対しての言動でなくてもその場で抗議するべきだと言う。「例えば飲み会の席で、グループの数人が『その発言は不快だ』と意見表明すれば、性的言動を許容する雰囲気が収まるはずです。セクハラは傍観者がいるから成立するのです」
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