学術ニュース

2019年10月19日

10倍の高効率で冷却 半導体デバイス 高密度高速化に対応

 平川一彦教授(生産技術研究所)らは、異種の半導体同士を接合して作る「半導体ヘテロ構造」で、従来の約10倍の効率でデバイスを冷やす方法を開発した。省エネルギーやデバイスの性能向上が期待される。成果は3日付の英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(電子版)に掲載された。

 

 デバイスの高密度集積化や高速化が進み、内部の熱が急増して動作や信頼性を損ねるようになった。デバイスを効率的に冷やす技術の開発が急がれている。

 

 従来、ほぼ唯一の実用的な固体冷却素子はペルチェ素子だった。種類が異なる二つの電気を通す物質に電圧を加えて電流を流すと、二つの接合点でそれぞれ発熱と冷却が起きる「ペルチェ現象」を応用したもの。しかしペルチェ素子内部では電子が散乱するため、冷却効率が低かった。

 

 今回は半導体へテロ構造で、特に高いエネルギーを持たない電子でも存在できる「量子井戸」という領域を作った。まず量子井戸内部の電子と同じエネルギーを持つ電子が、エネルギーが保存されたまま壁を通過する「共鳴トンネル効果」で内部に注入される。さまざまなエネルギーを持つ電子のうち、高いエネルギーの電子のみ量子井戸の外部に放たれる。電流を流すにつれて内部から高いエネルギーの電子が出ていき、温度が下がる仕組みだ。

 

 薄膜内の冷却効果を正確に検証するため、光を吸収した電子が不純物などと結合し発光する現象を用いて、光を波長に基づいて分類した「スペクトル」から温度を測定した。結果、半導体ヘテロ構造内では電圧を加えるとともにスペクトルの傾きが急になり、電子温度が約27度から約零下23度に下がることが分かった。


この記事は2019年10月15日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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