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2020年10月10日

五神総長「政府は真摯な対応を」 日本学術会議任命拒否問題で

 10月1日、日本学術会議の新会員候補の6人が菅義偉首相から任命されなかったことが判明した。6人には宇野重規教授(東大社会科学研究所)と加藤陽子教授(東大人文社会系研究科、東京大学新聞社評議員)が含まれる。9日には五神真・東大総長が、政府に真摯な対応を望むとする声明を出すなど、波紋が広がっている。問題の経緯や関係者の声をまとめた。

 

 

 日本学術会議は3日、任命拒否の理由説明と即時任命を求める要望書を菅首相に提出した。各種報道によれば、現時点まで菅首相は任命拒否の明確な理由説明をせず、任命拒否を撤回しない方針を示している。

 

 五神総長は9日、メッセージを発表した。任命拒否が招いた混迷と相互不信は、学術の本来の力を大きく削ぐと指摘。3日に日本学術会議が提出した要望書の通り、政府に真摯な対応を望むとした。同時に、学術の価値が浸透した環境の創造に、東大として取り組む意欲を示した。

 

任命拒否された東大教員の所属部局も声明

 

 宇野教授が所属する社会科学研究所(社研)は5日、佐藤岩夫所長(同教授)名義でメッセージを発表。宇野教授が日本学術会議法に基づいて正式に会員に推薦されたと指摘した上で、任命拒否とその理由が不明なことを「誠に遺憾といわざるをえません」とした。さらに、日本学術会議が3日に提出した要望書の通り、宇野教授の速やかな任命を期待するとした。

 

 宇野教授は東京大学新聞社を含む報道各社にコメントを寄せ、任命拒否について「特に申し上げることはありません」と述べた。一方で「民主的社会を支える基盤は多様な言論活動」だと指摘し、日本の民主主義の可能性を今後も信じ続けると表明した。

 

 加藤教授が所属する人文社会系研究科は6日、大西克也研究科長(同教授)名義で声明を発表。内閣府の公文書管理に関する委員会委員を長く務めた加藤教授が、正式な手続きを経たにもかかわらず十分な理由説明なく任命されなかったことを「大変残念」とした。今後は6人の任命拒否の理由説明と即時任命が早期に実現することを望むとした他、日本学術会議が十分に活動できるよう協力する姿勢を示した。

 

 任命拒否をめぐっては、さまざまな大学・学会などが声明を出しており、多くは拒否された6人の即時任命や拒否の理由説明を求めている。菅首相の出身大学である法政大学の田中優子総長も5日、任命拒否を批判する声明を発表した。

 

抗議署名を呼び掛けた鈴木教授「偏りない人選を」

 

 3日には古川隆久教授(日本大学)と鈴木淳教授(人文社会系研究科)をはじめとする有志が、任命拒否の撤回を求める署名運動を始めた。署名数は2日間で10万筆を超えた。12日正午までに集まった署名は、13日に内閣府に提出する予定となっている。

 

 鈴木教授は東京大学新聞社の取材に対し「日本学術会議の存在意義は、政府から独立して政策などに関する提言をすること。政府の意見に沿う結論しか出ないような偏った人選では、何が専門家の責任で、何が政治の責任か不明瞭になる」と主張した。任命拒否の対象が、学問的中立を保ってきた研究者にまで及んでいたことから、危機感を抱き署名運動に加わったという。学問の自由が重要であることは議論の前提であり、今回の問題の主要な論点ではないとも述べた。

 

 

 日本学術会議は科学の向上・発達を図り、行政、産業、国民生活に科学を反映・浸透させるため、1949年に設立された。内閣総理大臣の所轄の下で政府から独立して活動する機関であり、科学に関する重要事項の審議と実現などを職務とする。日本の約87万人の科学者を代表する機関とされており、会員は210人、連携会員は約2000人。会員の任期は6年で、3年ごとに半数が交代する。会長は1日付で山極壽一氏(前京都大学総長)から梶田隆章教授(東大宇宙線研究所長)に交代した。

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