6月1日に三重県多気郡明和町で第41回斎王まつりが開催された。斎王とは皇族の未婚の女性が占いで選ばれる斎宮で国家の安寧を祈る役職であり、斎宮跡が明和町で発掘されたことをきっかけに、遺跡の保存や街おこしなどの意味も込めて斎王まつりが実施されている。本記事では斎王役の三田空来さん(文Ⅱ・2年)の活躍や斎王まつり、また開催地である明和町の雰囲気をレポートする。
(取材・松本雄大、撮影・葉いずみ)
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よく晴れた日の下で13時から出発式・禊の儀が斎王の森で開催された。皇學館大学の雅楽部が演奏する雅な音楽と共にスタートとした斎王まつりは有志の実行委員により運営され、斎王のほか、斎宮の雑事を取り仕切る斎宮十二司官人役など総勢50人を超える配役を務める人たちがまつりを盛り上げる。それぞれの配役が紹介された後、第38代斎王役から第39代に檜扇が引き継がれた。
禊(みそぎ)の儀と呼ばれる、斎王が都から斎宮へ向かう前に桂川で身を清める儀式を再現し、水をすくう所作で身を清めると、当時大極殿で行っていたとされる発遣の儀に移った。この儀式は「別れのお櫛」と平安文学でいわれる言葉を読み、住み慣れた都を離れ斎宮へむかう斎王の心情が表現されたものであり、まつりに来た聴衆は静かに斎王役の言葉に耳を傾けた。
儀式を終えると葱花輦(そうかれん)と呼ばれるみこしに乗り、別会場のさいくう平安の社に向けて出発する斎王群行が始まる。多くの観客に囲まれ、斎王役を中心に隊列を組み練り歩くその様は圧巻だった。
14時を過ぎ、禊の儀と群行の取材を終えると斎王の森会場内にある茶屋の伊勢うどんを食べて小休憩。極太のやわらかい麺にタレがよく絡まり、暑い中で失われた体力が回復した。
京都から来た斎王一行を斎宮にいる人たちが迎える社頭の儀を見るため、さいくう平安の社に向かう。道中、50軒近くの出店と遭遇。かき氷、シャーベット、ホットドック、カラフル綿あめなど祭り定番のものから、手作りされた木製の犬のキーホルダーを販売している店までさまざまで、活気があった。
社頭の儀では三重県知事の一見勝之さんが挨拶したほか、第41回斎王まつり実行委員会代表の東谷泰介さんが「まつりの担い手を若手に一新し、世代交代して伝統を引き継いでいきたい」とまつりへの思いを述べた。
社頭の儀直後に、斎王役の三田さんに話を聞いた。以前のインタビューでは、まつりの儀式の所作などを練習する時間があまり取れないと不安そうに言っていた三田さんだったが「緊張して練習したことをあまり意識できなかったのですが、なんとかなったかなと思います(笑)」と一つ山場を乗り越えホッとした様子だった。また視線を一身に集める斎王群行で葱花輦に乗っている際のことを聞くと「一瞬も気が抜けないなということで頭がいっぱいでした。今振り返ると顔が引き攣っていたような気がしていますね。地元の友人を何人か見つけることができて、みんなが見に来てくれたことがうれしかったです。自分のことを名前で呼んでくれる人には手を振ったりしていましたね」と振り返った。
斎宮の近くにあるいつきのみや歴史体験館にも足を運ぶ。中は木目調の建物となっており夕方ごろは光の入り方が綺麗だった。体験館では実際に葱花輦に乗ったり、小袿(こうちぎ)と呼ばれる宮殿での日常生活に使われる服を着ることができるほか、中庭では昔の貴族が遊んだ毬杖(ぎっちょう、フィールドホッケーに似た遊び)や蹴鞠(けまり)を体験できる。
まつりの最後を飾るのは夜の斎王群行。昼とは雰囲気が変わり出店の明かりが照らす夜道を群行は厳かに進んだ。
群行の終着点であるさいくう平安の社では幻想的な風景の中、全ての役がそろい、斎王まつりがフィナーレを迎えた。
地域の祭りは町おこしの側面やその地域独自の歴史的・文化的なものを伝えていく意義があると感じる。その中で斎王まつりでは歴史的な文化を伝える斎王群行に加え、フィナーレでは壮大な音楽に合わせて光を使い演出するなど現代的な要素も随所に取り入れており、1日を通して見応え十分だった。夏祭りとして楽しむもよし、地域に根付く伝統や文化を感じるもよし。ぜひ皆さんも来年の斎王まつりに足を運んでみては。
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