インタビュー

2024年2月20日

「留学に行きたい」が7割を超えた東大─手続きの分かりづらさをどう乗り越えるか

留学制度サムネ

 

 23 年度の新入生アンケート(東大新聞調べ)では「東大在学中に留学したい・ややしたい」が合計で7割を超えた。東大生の留学への関心は高まる一方だ。東大も豊富な留学制度を提供しているが、学生からは「サイトを見ても留学情報が分かりづらい」という声もあるようだ。それぞれの留学制度の長所と短所を紹介するとともに、実際に留学し、留学支援団体「東大留学 GoGo」を立ち上げた高橋誠さん(工・3年)と東大国際教育推進課への取材を通して「分かりづらさ」の要因を探る。 (取材・宮川理芳)

 

東大新聞_留学制度一覧

 

 高橋誠さんは全学交換留学を利用し、カナダ最古の大学で、世界ランキング49位(カナダ国内3位)のマギル大学に1年間留学。留学期間中に学生同士で留学を支援する団体「東大留学GoGo」を創設した。留学に際してどのようなスケジュールで情報収集や準備を進めたのか。留学先での意外な発見や心掛けたこと、「東大留学GoGo」を設立した動機などとともにインタビューした。

 

──数ある制度の中で全学交換留学を選んだのはなぜですか

 

 第一に、留学期間の長さがあります。工学部の提供する部局間交換留学も一流大学ばかりで悩みましたが、留学目的が人脈を作ることだったので1年間行ける全学交換留学にしました。というのも私は将来起業したいと考えていて、世界中に味方を作りたい、世界の大学生のレベルを知りたい、他の国の文化でも自分が通用するのか知りたいという思いがありました。また、春夏秋冬全ての季節を知って初めてその国に「住んだ」と言えるのではないかという思いもありました。

 

──留学情報はどう集めましたか

 

 グローバル教育センターが運営する海外留学・国際交流情報ウェブサイトと、グローバリゼーションオフィスに相談することで集めました。何度も相談しに行きましたが、毎回「ウェブサイトに載っています」と言われ、教えられた方法で検索して自分の欲しい情報を見つける、というのを繰り返しました。必要な情報が散在していて分かりにくいんですよね。知り合いの講師の先生に「手続きは面倒だけど行かないのは損だよ」と言われて納得したのを覚えています。「全学交換留学」に絞って情報を探すことですべきことが明確になりました。

 

──具体的なスケジュール感について教えてください

 

 3年次の秋で留学する場合、2年次の夏までに英語能力試験(TOEFLかIELTS)の点数を上げ、9〜10 月に応募します。ただし今年から語学の成績証明は応募後でも可能になりましたので、最新の情報はホームページなどを確認してください。翌年の初めに合格通知が届き、半年かけて準備して秋に留学という流れです。英語能力試験の結果や大学の成績、教員の推薦状の他に、留学後の進路や留学計画、希望する理由など複数のエッセイが必要です。私は、このエッセイを知り合い20人くらいに読んでもらって推敲(すいこう)しました。

 

──留学先の大学はどう決めましたか

 

 高校時代にカナダに1カ月間留学したことがあって、その際にカナダの人種的多様性や自由な空気に引かれました。第一次募集では有名なトロント大学やブリティッシュ・コロンビア大学、北欧の大学に出しましたが、人気が高く落ちてしまいました。周りの人を見ていると、英語能力試験やエッセイよりも東大での成績がより重視されていると感じます。私は平均で70点くらいだったので難しかったのでしょう。翌年の2月にある追加募集の中にあったマギル大学を調べてみて、日本では知名度がなくてもカナダではトップ大学の一つだと分かり、ここに決めました。日本では知名度がない世界のトップ大学は狙い目ですね。

 

──マギル大学での学びについて教えてください

 

 大きいクラスでも教授が一方的に話すのではなく必ず議論の時間があり、知識の習得よりも参加を求められていると感じます。日本にいると海外の大学生はディスカッションがうまいのだろうと思いがちですが、実は英語さえある程度話せれば、東大生の考える力は海外でも十分通用するのだと分かりました。また、事前学習や宿題が多いのも特徴です。大学生に時間的余裕があり教養的側面の強い学問が多い日本と違い、カナダは大学で勉強させるため非常に忙しく、また学問も社会に出て働くことをより意識していると感じます。インターンも単位として認められ、面接や履歴書の書き方も授業で扱います。

 

マギル大学で知り合った友人たちと高橋さん
留学先のマギル大学で友人たちと(写真は高橋さん提供)

 

──議論でも不足しない英語力を身につけるためにどのようなことを意識して勉強しましたか

 

 まず1回英語試験を受けてみて、現状と取るべきスコアの差を知り作戦を立てました。自分はスピーキングとライティングに課題があると分かったので、スピーキングについては、ネイティブの友人で協力してくれそうな人を探し出し、週に1回4時間のスピーキング練習を2カ月やりました。留学のために英語試験を受けていることを考えると実際にコミュニケーションが取れるスピーキングを練習することは大切だと思います。このおかげで留学中もスピーキングはそこまで不安にならずに済みました。ライティングは友人に添削してもらいつつ、YouTubeにある指導動画を大量に見て勉強していました。自己流ではなくネイティブスピーカーが読みやすい型に従って書く練習をしたことは留学中に課題を書くときなども役に立ったように思います。

 

──留学を有意義なものにするには

 

 人によって留学の目的はさまざまだと思いますが、何かはっきりした目標を一つ、二つ持っておくのが秘訣(ひけつ)でしょう。私の場合は将来の起業に向けて人脈を作ろうとしていましたから、留学中に「友達1000人作ること」を目標に設定しました。馬鹿馬鹿しいと思うかもしれませんが、案外これは良い目標でした。1年弱で1000人友達を作るには毎日4、5人の人と知り合う必要があります。とりあえず何でも誘われたら積極的に参加して、パーティーでも全員に話しかけてみなければなりません。気後れしている暇はない、と半分自己暗示のように思えたのは良かったです。実際には500人ほどと知り合えました。

 

──「友達1000人」ですか。東大生同士でも使えるようなコミュニケーションのコツはありますか

 

 自分の強み、これなら語れる、というものをいくつか持った上で共通点を探すことです。私の場合はビリヤードとダーツ。いろいろ話しながら共通点を見つけていけば自然と会話は盛り上がります。なかなか見つからなくても自分の得意な話題に引き込んで、「今度ビリヤードしに行こうよ、やり方教えるよ」とか、逆に相手の得意なものを「教えて」と言ってみたり。もう一度会う機会を作るんです。

 

 留学先では、想像していたよりも「日本人」というのは受けが良かったですね。多くのカナダ人にとって自分が初めて知り合う日本人で、好きなアニメやゲーム、日本食について知っていることを話してくれました。会話のきっかけには困りませんでした。

 

──高橋さんが立ち上げた留学支援サークル「東大留学GoGo」について教えてください

 

 留学に興味があっても、ウェブサイトは見るべきところが分かりにくいし、経験者や同期を探す手段もないという状況を変えたくて作りました。元は後輩10人程度と私のグループだったのが、「留学に興味のある人誰でも歓迎」と伝えたところ口コミで広がっていきました。今は500人ほどが参加するコミュニティーになっています。交流会などを通じて同じ留学先の先輩や同期のつながりを作る活動をしています。その他に具体的には、失敗しない留学先の選び方や留学書類の書き方、奨学金情報の共有や細かな質問への対応を行っています。さらに相談したい人には個人的なDMや電話、対面での相談会なども開催しています。

 

 東大の交換留学の枠は約500人分ありますが、現状では年200人ほどしか利用していません。単純に考えて「東大留学GoGo」に参加する学生のほぼ全員が行ける計算ですが、分からないことが多すぎて諦めてしまう人が多い。交換留学ですから、こちらが行けば向こうの大学からも学生が来て、結果的に東大の国際的なランキングも上昇し、世界をけん引する存在となることも可能でしょう。「面倒くさい」に打ち勝った先に得られるものは大きい。合格後の次の目標として「留学」を視野に入れてほしいと思います。

 

留学写真(gogo主催の会)
高橋さんが中心となって東大留学 GoGo が主催した留学経験者・内定者・希望者の交流会。参加者は総勢 100 名を超えた。(写真は高橋さん提供)

 

 高橋さんへの取材も踏まえ、東京大学新聞社ではGo Global Websiteを運営する東大国際教育推進課にも取材。今後の留学情報発信における方針や留学支援サークルが存在することへの受け止めなどを聞いた。

 

──東大の留学制度はさまざまな学部・部局がそれぞれに運営していますが、部局を横断し情報を一元化したウェブサイトなどを作る予定はありますか。難しい場合は理由も教えてください

 

 グローバル教育センターの留学プログラムや社会連携推進課の体験活動プログラムに加え、各学部・研究科やその中の各学科・専攻、あるいは研究室レベルでも、ボトムアップでさまざまな国際交流プログラムが行われています。大学全体に限らず、一つの学部・研究科内でもそれらをすべてダブりやモレなく、またタイムリーに一元化することは容易ではないというのが現状です。例えば体験活動プログラムには海外だけでなく国内のプログラムもあり、両者が併せて一覧になっていることも重要でしょう。海外のものだけを載せてしまうと、むしろプログラムの趣旨に反してしまいます。また、特定の学部・研究科の学生向けの情報は、学部・研究科のサイトに詳しく掲載されている方が便利です。

 

 しかしながら、学生の皆さんにより分かりやすく情報を提供することもまた、同様に重要です。2023年4月には全学の学生に対する国際化教育を展開し、学生の皆さんの国際化を徹底的にサポートする、グローバル教育センター、通称GlobEが設立され、さまざまな活動を開始しています。情報収集の難しさを改善することも、そうした活動の一つです。各部署間の連携強化を図りつつ学生の皆さんの意見も聞きながら、情報提供の在り方の最適解を探っています。

 

 現在進めている一元化の取り組みとしては、GlobEが発行する冊子体・PDFの『東京大学 留学・国際交流ガイドブック』があります。体験活動プログラムや各学部・研究科のプログラムも掲載しています。また例年5月ごろに開催される「GO GLOBAL 東大留学フェア」では、体験活動プログラムや各学部・研究科もブースを出展し、学生の皆さんへの説明を行っています。これらの取り組みを通じて、東京大学のプログラムの全体像は以前に比べ格段に把握しやすくなっているかと思います。その一方で、情報を充実させればさせるほど、ガイドブックの分量が増えて重厚なカタログのようになってしまい、手に取りにくいものになってしまうという懸念もあり、その点は今後の課題として、さらに工夫を重ねていきたいと考えます。

 

──「留学したいのに手続きが面倒で諦める東大生が多いのではないか」という思いから、留学支援を行う学生団体がここ数年で作られています。このような団体があることへの受け止めと、今後協同していく可能性について教えてください

 

 学生団体については、学生の自主的な活動ですので特にコメントは行いません。特定の学生団体のみと協力関係を深めることはありませんが、必要に応じて効果的に連携していければと考えています。

 

 まず前提として、留学には一定のリスクが伴うものであり、また人生に大きく影響を与えるイベントですので、さまざまな手続きが必要であることは全世界で共通しています。こうした手続き全般には、周囲の理解が必要なもの、必ずしも学生本人だけで完結しないものも含まれます。私たちは、このような手続きの過程に対応していくこと自体も留学の一部と考えています。もちろん、不必要なことを学生に強いていたずらに手続きを煩雑にすることは本意ではありません。本部国際教育推進課では、それが少しでも分かりやすくなり、効率化するようにさまざまな工夫を行っています。例えば、今年度から、全学交換留学で語学能力証明書などの提出を学内申請時には不要とした変更や、留学プログラムへの内定後、留学までの手続きをITC-LMS上で行うことにしたのもその一環です。

 

 学生同士が留学に関する情報交換を行うことで、興味を持つ学生を増やし、不安を軽減させることは、手続きの多寡に関わらずとても大切で有益なことだと考えています。この役割には学生同士であるからこそ担える部分もあるでしょう。GlobEとしては、留学経験者に協力してもらい学生同士の交流会を企画したり、留学先での報告書をウェブサイトに公開したりしています。また、学生同士で連絡を取りたい場合の仲介、プログラム運営の手伝いのお願い、意見のヒアリングと、さまざまな活動を通じて学生の皆さんと共により良いプログラム作りに努めています。今後も、さらにこうした努力を続けていきたいと思います。

 

──交換留学では現地での学習計画や留学の意義をレポートとして提出することを求めており、学術研究も見越した留学であると言えます。その推薦書である所見事項について、研究者でない教員が書くことは問題ないのでしょうか

 

 所見事項については、全学交換留学募集要項中に「現在所属する学部・研究科の指導教員(または担任教員、授業登録をしている教員(非常勤講師など含む))等、申請者の人物を把握できる本学教員」から提出してもらうことが必要と定めていますので、この条件を満たしていれば受け付けています。やや幅広く定義しているのは、例えば学部1年生で、本学の常勤教員と所見事項を依頼できるような関係が築けていない学生でも申請できるようにするためです。ただ、手続きの効率化等の観点から募集要項は毎回見直しを行っていますので、今後変更される可能性はあります。

 

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