共通する授業は少ないが、キャンパスでは見かけることのある留学生。東大へやってくる留学生たちはどのような理由で留学を選び、どのような生活を送っているのだろうか。触れ合う機会の少ない留学生の素顔に迫るため、駒場キャンパスにある留学生相談室の園田智子講師に留学生支援や留学生の実情を教えてもらった。
(取材・谷賢上)
さまざまな留学生に対応してサポートを届ける、留学生相談室
──留学生にどのようなサポートを、どのように提供していますか
駒場Iキャンパスに所属する留学生の相談に応じています。相談内容は学習・経済面に関するものを中心に、人間関係・健康・日常生活まで幅広いです。相談以外に留学生と個人チューターのマッチングもしており、国際交流支援チームと協力してチューターを募集しています。その他、奨学金登録の手伝いや日本語補講の運営も行います。
駒場キャンパスには学部1年生から博士課程まで多種多様な留学生が在籍していますので、相談内容は多岐にわたります。例えば、教養学部の留学生特有の相談は進路の悩みだと思います。留学生の特別選抜により入学した学生は入学時に進学先が内定していますが、授業を受けていくうちに進路に迷いが出てくる場合もあります。学生の学業やキャリアに影響するような大事な相談に関しては、進学情報センターの先生方にもご協力いただきながら複数回相談を実施し、学生にとってベストな結論を出せるよう支援することを心がけています。
相談は基本的に日本語で行います。教養学部や研究科に留学する学生は日本語能力の高い学生が多いためです。近年はPEAK(Programs in English at Komaba、教養学部英語コース)や交換留学生(駒場に1年あるいは1学期のみ所属する学生)など英語のみを使用する留学生も増えていますが、PEAK生にはアカデミック・アドバイサーがついているため、相談室を利用することは多くありません。また、国際化教育支援室駒場支部の英語のカウンセラーも留学生への相談支援を行っています。しかし、緊急時に日本語・英語以外の言語で対応する必要がある場合は、本郷の留学生支援室や駒場の先生方に協力を要請することもあります。いずれにしても、駒場の留学生、留学生に関わる先生や学生のどなたでも、利用することのできる相談室と思っていただければと思います。
──留学生相談室は留学生にとってどのように位置付けられる存在ですか
留学生相談室は悩みがある時だけのための場所ではなく、情報収集の場、リラックスするための場、人生を深く考えたり、不安不満を吐き出したりする場など、その存在が留学生の安心感につながる場所でありたいと考えています。
また、東大の学生支援機関は多くあり、留学生相談室は、必要な時に最も適切な場所に迅速に学生をつなぐことも重要な役割だと考えています。
留学生支援で特に意識していることは三つあります。まずは予防的支援を行うことです。学生支援には予防的支援・相談支援・緊急支援の三つの段階があります。予防的支援で問題の深刻化を防ぎ、危機事態を避けることが理想です。例えば、ガイダンスやオリエンテーションを行ったり、全員に面談をしたり、チューターを配置したりしています。
二つ目はアクセシビリティの向上です。留学生が日本で学習し生活する長い期間の中で困難を抱えた時、ふらりと立ち寄りやすい場所にしたいです。そのため、ホームページでの広報や全員面談、メーリングリストでの情報発信に力をいれています。
最後に、最終的には留学生が相談室を利用しなくてもいいような状態になることを目指しています。いつでも相談できるという安心感は必要ですが、一方で、相談ごとに学生が成長し、自律的に大学生活をおくれるようになれば、それが一番うれしいです。
──新型コロナウィルスの影響で、相談件数・内容・形式にはどのような変化がありますか
2020年度の相談件数はのべ495件でした。新型コロナウィルスの影響で、学部やPEAK学生の人数に大きな変動はありませんでしたが、大学院生や研究生の数は一時的に減少傾向で、未渡日のまま海外で学習をしている留学生も多くいます。また、交換留学生は新規ビザの発行が停止されているため、ほとんど入国できていません。
留学生相談室は2020年2月にオンライン面談の試行を始め、対面の他にZoomやメールなどによる相談が可能となり、相談件数が増えました。相談のハードルが下がって便利になる一方、1回のメールでは十分な意思疎通が難しく即時性もないため、留学生も不安があったと思いますし、相談員の負担も大きかったです。また、オンライン面談では顔出しをしたくない学生もいますが、それにより、表情や雰囲気で学生の調子を感じることができないという難しさもあります。ただ、今後もWEB面談のよい点は生かしていきたいです。
新型コロナウィルスが拡大した状況下では、留学生も日本人学生も同じような不安や困難を感じていて共通点が多かったと思います。例えば、感染状況への不安や、アルバイトができなくなって経済的に苦しい、友人との関係が希薄になる、などの問題もあります。オンライン授業のモチベーション維持に苦しんでいる人もいれば、オンライン授業をむしろ快適に楽しんでいる人もいます。
──留学生でない学生に比べて、留学生が格段に直面しやすい問題とはなんでしょうか
在留資格の管理です。前期教養課程だと2S・2Aセメスターで降年留年の危機があるので、在留資格に関する相談が多くあります。留年は在留資格の更新などの手続きの際、書類の追加提出を求められるなど、留学生にとって大きな影響が出ることがあります。留学生の中にもそれを認識していない人がいるので、ガイダンスでは丁寧に説明しますし、そういった相談は最優先にしています。
在留資格に関する相談は2019年から特に新型コロナウィルスの影響で爆発的に増えました。政府の対応が二転三転したこともあり、日本への新規入国や、母国への一時帰国から日本へ再入国する際にも大きな問題が生じました。日本人学生にとっては関係のない話かもしれませんが、留学生にとっては死活問題です。大学としてできることは限られていましたが、できる限り正確な情報収集に心がけ、海外にいる学生とも連絡を密に取りながら留学生の学業の継続に支障が出ないよう支援を続けました。
──留学生とそうでない学生の交流はどのようなものであってほしいですか
留学生と知り合いたいという希望は留学生相談室としては大変うれしいです。様々な方法があると思います。例えばGOチューターや、個人チューター制度に応募できます。グローバル駒場のホームページに掲載される国際交流のイベントやプログラムに参加するのも良いでしょう。現在は、本郷の留学生支援室の交流プログラムもオンライン開催のものがあり、駒場のイベントもオンラインが中心で日本語と英語の両方で開催されるものが多くあるため、気軽に参加してほしいと思います。
その留学生がどの制度を使って留学しているかによって、留学生でない学生との交流の機会がどの程度あるかは違います。授業や日常の活動が留学生でない学生と一緒でわざわざ交流を求める必要のない人もいれば、留学生だけの授業を受けるためそれ以外の学生との接触が限られる人もいます。留学生でない学生がこういった留学制度について知ることも、留学生との交流で役立つでしょう。
──留学生でない学生に対する呼び方は「東大生」や「一般生」がありますが、これに関して留学生相談室はどう思いますか
特に「一般生」は、個人的にはとても不思議な用語だなと感じます。ただ、呼び方によって受ける影響は大きいと思いますので、留学生がもし不快に感じるのであれば解決する余地があると思います。日本人学生には留学生の感覚を知らない人も多いと思いますので、そのためにも相互理解の機会が大事だと思います。
東京大学には今、強く多様性が求められていると思います。海外留学もすばらしい経験ですが、身近にいる留学生ともぜひ知り合って、お互いの考え方や文化を知り、よい友人になっていただけるととても心強いです。
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【記事修正】2021年午前10時42分 リード文と小見出しを修正しました。
【記事修正】2021年午前11時20分 経歴を修正しました。
2021年10月20日23:28【訂正】記事の表現を一部修正しました。また経歴を「07年~18年群馬大学留学生センター(現・国際センター)にて、留学生相談、日本語教育、異文化間教育に従事」としていましたが、「06年〜」の誤りでした。お詫びして訂正します。
【記事修正】2021年10月27日午前8時13分 「駒場にいる留学生が利用している主な留学制度」の一覧表を「駒場にいる留学生が利用している主な入学制度・留学プログラム」の一覧表に差し替え、キャプションを修正しました。
【記事修正】2021年11月4日午後18時2分 キャプションを修正しました。